交響的変奏曲
斉賀さんはくるを連れて来客用玄関から外に出て隣接する昇降口前にかる階段に腰掛けていた。
私は外には出ず来客用玄関の内側から様子を聞き伺う事にしよう。既に日が沈み肌寒くなっているのだ。
「…なんで」
「ん?」
「何で急に外になんて」
「お節介だったかな」
ああ、やっぱり斉賀さんはくるを気遣って外に行こうと言い出したのか。
くるはその意図を察してはいたのだろう、黙ったまま首を横にふるのが見えた。
「ヨシノ君達の事、苦手なの?」
「……」
くるが眉間に皺をよせ心底嫌そうな顔をしたのが見えなくても分かった。
「くる君とお友達になりたいんじゃないかな。邪険にされても今日一日中ずっと話し掛けてくれてたじゃない」
「鬱陶しいだけだ」
「そっか…僕も一日中くる君に話し掛けちゃってたよね…鬱陶しかったよね、ごめんね」
斉賀さんが目元を拭う動作を交えながらわざとらしいさめざめとした声を出す。しかしくるには効果的だったらしく珍しく同様しているようだ。勢いよく首を横に振っている。
「ありがとう。でもね、だったら、もうちょっとヨシノ君達とも話せるんじゃないかな。くる君とお話したいなーって気持ちはきっと僕と何も違わないよ」
「…違う」
「何が違うの?」
「アイツは友達になりたいだとか、話がしたいだとか思ってない」
「どうしてそう言い切れるのかな」
「そういう奴なんだよ。だから、斉賀さんが気に掛ける必要なんてないよ」
「……そっか」
これ以上くるはこの件について何も言わないと判断したのだろう、斉賀さんは言及する事はしなかった。
昔からくるを怖がって子供も大人も周りの人間は皆彼を露骨に避けた。私も避けた。
それは彼が転校するまで変わる事なくずっと続いていて、くるも変わる事はなかった。
だから久しぶりに会って少し、ほんの少し丸くなってる彼を見て驚いたのだ。
斉賀さんに対しては、だったけど。
どうして斉賀さんには懐いたのかな。
もしかしたら驚く程あっさりしたきっかけが起因してるだけなのかもしれない。理由なんてないのかもしれない。
それでもくるにとっては一歩目なんだなと、思った。
「くる君、あのね、僕は君の味方だよ」
「突然どうしたの」
「言っとこうと思って」
「変なの」
「だからね、疲れちゃったら頼ってくれていいんだよ。お隣さんなんだから、いつでもおいで」
「…斉賀さんは」
「うん」
「ほんと、お節介だな」
「こう見えてもくる君よりお兄さんなので、格好つけたくもなります」
「ばーか」
◇
「かんぱーい!皆どんどん飲んでねー」
「うるせぇ奴がいねぇと思ってたら飲み物持ちに行ってたのか、珍しく気が利くじゃねえか。こんな量どこで冷やしてたんだ?」
「えっとねー家庭科室の冷蔵庫と保健室の冷蔵庫。家庭科室の冷蔵庫は買い換えたばかりみたいでたくさん入ったよ」
「ヨシノ…お前が飲み物の用意は任せてって言ったから任せたけどどうして1.5リットルばかりなの」
「皆たくさん飲むかなと思って」
「限度があるだろ!」
「見てたらどれも飲みたくなっちゃって」
「お子様め…!」
「あ、ほら。隆弘クンと灰花クンはウイスキーなんかいかがかな?」
「アベラワー・アブーナか…いかにも子供舌してそうなお前好みっぽいチョイスだな…」
「飲まないの?」
「折角だから貰うけどよ」
「あ、水割り用に飲料水買おうとは思ってたんだけど忘れたから水道水でいいよね?」
「ふざけんな、もうそのままよこせ」
「おい隆弘、お前飲むのか?帰り運転どうすんだよ」
「お前二輪免許持ってんだろ、乗せてけ」
「大型は持ってねえよ」
「大丈夫だイケる」
「大丈夫じゃな…あああ本当に飲みやがった!」
「行きは俺が運転したんだから帰りはお前、それでいいじゃねえか」
「だからお前の大型だから無理なんだって」
「はい、灰花クンにも。アルコールじゃないから安心して!」
「お、おおサンキュ」
「なあヨシノ、さっき飲み物と一緒に抱えてきたその箱は何なんだ?置きっぱなしにしといて大丈夫なやつか?」
「にゃ?あ、忘れてたよごめんねー!」
「なんだ、ケーキか?確か用意してあるっつってたよな」
「もう!隆弘クンったら食い意地張っちゃって!だけど残念、違うよ。さっきユウの彼女紹介するって言ったでしょ」
「ああ。って、そんな小さい箱に大道芸の姉ちゃんみたく間接曲げて入ってるとでも言う気か?」
「まっさかー!でもそっか、これどう見てもただの箱だもんねー。あのね、骨箱って知ってる?」
「知ってるけどよ」
「良かった!あのね紹介するね、こちら、ユウの彼女の綾ちゃんだよ!」




