花神楽:どつき漫才
瞬きすら忘れ新刊コーナーの前で本の中身を目に焼き付けていた隆弘さんがふと顔をあげた。
視線の先には時計があった。そういえばそろそろ合流の時間だ。
本を棚に戻し「そういや合流場所決めてなかったな…」と独り言を呟きながら移動をはじめる。解散した地点を目指しているようだ。
本棚の角を曲がって解散地点が視界にはいると、既にそこにはヨシノと灰花さんがいた。
「ようヨシノ、ぐら校の図書室はどうだった」
「隆弘クンの言う通り、うちの図書室にはない色んな本があって面白かった!」
「そりゃ良かったな」
「うん!隆弘クンが描いた同人誌も置いてあったよ!」
瞬間、隆弘さんの時間だけが止まったかのように隆弘さんの動きが停止した。固まってしまっている。ピクリとも動かない。
「どしたの?」
「…は?ん?どういう事だそれは…」
灰花さんがとある一角を指差しながら隆弘さんの問いに答える。
「あっちに校内イベントで発行した同人誌を全部揃えてるってコーナーがあったんだよ」
隆弘さんの顔からどんどん血の気がひいていく。そんなに自分の漫画を見られたくなかったのだろうか。
「何でそんなもんが」
「校長が案出してアメリアと共同で作ったらしいぜ」
「監督不行届じゃねえかおじっそ仕事しろおおおおお!!」
「俺、BLって校長先生の手伝いではじめて見たんだけど、隆弘クンのは隆弘クンので校長先生が描いてたのとはまた違った、熱くて激しい漫画だったね!」
やはり隆弘さんが描いていたのはBL漫画だったのか。
先程盗み聞きしてしまった会話からなんとなくそうではないかと思っていたが。それにしても校長先生の漫画とはまた違った激しくて熱いのって、隆弘さんも大人向けの作品を描いているのだろうか。そりゃ男子高校生がそういうのに興味持つのは分かるけど、こら未成年!
「好きで描いてるんじゃねえよ!!」
「分かってるよ」
「どういう意味だ」
「灰花クンから聞いたよ、BL趣味のすきな人に喜んでもらうために描いてるって」
「灰花テメエエエエエ!!!!」
「いつも言ってるだろ、すきな女のために自分が掘られてる漫画を描ける事は恥ずかしい事じゃねえって。誇れって。もっと自信持てって!」
「容易く真似出来る事じゃないよー、凄いね隆弘クンの恋力は」
「もうやめろ!!」
隆弘さんが頭を抱えた。
なるほどそういう事だったのか。隆弘さんのすきな人はBLがお好みなのだろう。その人に喜んでもらうためにBL漫画を描いているのか。なんて一生懸命な人なんだ…
確かに人に知られたら恥ずかしいかもしれないけれどその一生懸命さは素敵だと思う。
内容はともかく。
「図書室で何を騒いでいるんですか」
ヴィオーラさんがこちらにツカツカと近づいてくる。先程から隆弘さんが大声で悲痛に叫んでいたから、さすがに注意されてしまうよな。
「また貴方達ですか…高校生にもなって図書室で静かに過ごすという事ができないんですか。一度注意されてるにも関わらず」
「わ、悪ぃ」
「おしゃべりがしたいのなら図書室の外に出てお好きなだけどうぞ」
「そんな追い出す言い方しなくてもいいんじゃない?」
後ろからロッソ先生がやってきた。
「折角図書室を利用しにきてくれてるんだしさー」
「そんな緩い事言ってると、たちまち図書室が無法地帯になりますよ」
「ヴィオーラ達がいてくれるからその心配はないでしょ」
「他人任せのくせにいっちょまえに口出しはするんですね」
「う、睨まないでよ…」
じとりとロッソ先生を暫く睨んでからこちらにヴィオーラさんが向き直る。睨まれている間詰めていた息を吐き出して、ロッソ先生が胸を撫で下ろしていた。
「おしゃべりは小声で。図書室にいるのは貴方達だけじゃないんですから、他の方々の迷惑にならないようお願いしますよ」
「ああ、分かった」
隆弘さんの返事に続いて灰花さんとヨシノは頷いて意思表示をした。
「何怒られてるのー」
斉賀さんののほほんとした声が聞こえてきた。後ろからくるもついてきている。
「いやー料理本コーナーにたくさんのハウツー本があって読み込んじゃった!おかげで今なら僕はおいしいオムライスが作れる気がする!」
「斉賀、それな、気のせいって言うんだ」
「ひど!」
「斉賀さん、オムライスが食いたいのか」
「あのふわとろ半熟卵のオムライス特集記事が忘れられなくって!料理本って見てるとお腹すいてくるねー」
「…ふーん」
「いいなぁオムライス。今日は夕飯、オムライス食べに行こっと」
「共食いですか」
「違うって分かってるくせに!ヴィオーラひどい!」
ロッソ先生とヴィオーラさんのやりとりを聞いているとどちらが先生で生徒か分からなくなってくるなあ。おっと、それはさすがにロッソ先生に失礼だったな。
「裕一の奴遅いな。アイツ待ち合わせ時間とか10分前行動してキッチリ守りそうな奴だけど」
だよなーと灰花さんが時計を見ると待ち合わせの時間から15分が過ぎようとしていた。 オムライスの話をしていたら15分も経っていただと。
隆弘さんの言う通りユウは待ち合わせなどキッチリ守る奴だ。どうしたのだろう。読書に熱中してしまって時間を忘れるような奴でもないしなあ。
「祐一って。さっき君達と一緒にいた子?」
「そうだ。おじっそ、何か知ってるのか」
「その子なら今向こうのテーブルで受入れ作業手伝ってくれてるよ」
「は?」
ユウの現在状況を説明してくれたロッソさんに真っ先に反応したのはヴィオーラさんだった。
「え?俺何か変な事言った?」
「図書委員でもない子に、貴方の仕事を、手伝って貰っているんですか?」
「ちょちょちょどうしたのヴィオーラ、顔が般若みたいになってるよ!」
「手伝って貰っていながら、貴方は、こんな所で生徒とおしゃべりに興じているんですか?」
「あっそれはね!ヴィオーラが眉をつりあげて隆弘達のとこに向かってくのが見えたから!止めなくちゃって思って!」
「責任転嫁ですか!!」
ヴィオーラさんがロッソ先生をビンタした。
ロッソ先生は勢いよく吹っ飛んだ。




