花神楽:図書探索
足早に新刊を紹介してあるスペースに向かっていた隆弘さんの足がぴたりと止まった。
「新刊コーナー覗きに行きたいんだけどよ、お前らも見たいとこあるんじゃねえか?」
隆弘さんが咳払いをして何やら灰花さんに目配せをしている。その真意を受け取ったのか灰花さんはこくりと頷いた。
何だいったい。
「そうだな。こう大人数で固まって移動してると逆に目立ちそうだし、それぞれ見回るのも良いかもしんねえな」
それは確かに灰花さんの言う通りだと思った。図書室にいる人達は皆それぞれ本を読んでいたり勉強していたりと自分の事に集中しているし、先程みたいに騒がず堂々としていれば他校の生徒が紛れていても気付かれないだろう。多分。
「ヨシノ一人はちょっと心配だから俺と一緒に行動してもらうとして」
「灰花クンまで俺を子供扱いか!」
「30分程自由行動っつー事で!」
ヨシノの不満は聞き流された。
◇
私は隆弘さんが私達を灰花さんと連携して自分からひきはがしたように見えた事が気になったので、そっと彼の後をつけた。
新刊と書かれた表札が立てかけてある一角で隆弘さんは立ち止まった。目当ての本を手に取りぱらぱらと中身に目を通し始めた。あれが隆弘さんがリクエストした本だろうか。
何の本をリクエストしたか私達に知られたくなかった?考え過ぎだろうか。
どんな本なのか気になって仕方がないのでタイトルが見える角度を探していると、真剣な表情で本に視線をおとしていた隆弘さんに黒髪の女性が話し掛けた。
「キヒヒ、貴方も努力家ですわねぇ。それともそちらの趣味にお目覚めになりましたぁ?」
「ねえよ」
「資料用でしょう?図書の購入リクエストに書き込むよりも自分で購入された方が宜しいんじゃありません?」
「ここに置いてあったら校長も読めるだろ。それに自分で全シリーズちゃんと買うつもりだ」
「図書室を恋路の好感度UPのために利用なさらないでいただきたいですわね」
「人の事言えねえだろ。かなり濃いジャンルの本が増えてきてるようじゃねえか」
「私は無関係ですわぁ」
“BLポーズ集・男子学生編“
隆弘さんが開いている本の表紙にはそんなタイトルが書かれていた。
そうか、隆弘さんは漫画を描く事が好きみたいだからその資料用にポーズ集をリクエストしたのか。校長先生も中身はどうあれ漫画を描く事が趣味のようだったし、だったら図書にそんな資料が一冊でもあれば嬉しいものだよな。うんうん、本当に漫画を描く事がすきだなんだなあ。
でもBLって…?ボーイズラブ?
校長先生の描いていた漫画は見間違いようも勘違いのしようもなくBL漫画だったけど、隆弘さん自分で全シリーズ買うって言ってなかった?漫画の、資料用に?
ん?
んん?
隆弘さんが描いてる漫画って、もしかして。
◇
「ヨシノはどんな本に興味があるんだ?ここは多種多様なジャンルの図書が置かれてるからな、言ってみろよ」
「興味のあるものかー…んー…」
「やっぱ図鑑とか絵本か?」
「完全に子供扱いだね!突然言われてもぱっと思い浮かばな……およ?」
「どした?」
「あそこにある同人コーナーって、何?」
「同人コーナーとは校内イベントにて発行された同人誌を置いてあるコーナーだ。校長の要望で作った」
「わ!ど、どちらさん?」
「名乗る程の者ではない、通りすがりの図書委員だ。何だお前、同人に興味があるのか」
「興味があるっていうか、図書室で”同人コーナー”なんてはじめて見たから気になって。同人誌って文学雑誌の事?」
「ん、そっちじゃなくてここで言う同人誌は個人が趣味で描いて作成した創作漫画の事だな」
「どゆこと?」
「説明聞くより見た方が手っ取り早いぞ、興味あるなら行って来い。自慢の品揃えだ」
「灰花クン!同人コーナー行こ!」
「ああ、いいぞ。なあ、校内イベントで発行された同人誌全部って事はよ、隆弘が描いたのも置いてあるのか?」
「勿論だ」
「ヨシノ、隆弘が描いた漫画もあるってよ!」
「え!読みたい!探す探す!」
◇
「くる君はやっぱり料理本読んだりするんだねー」
「斉賀さんはこっちでも読んだら」
「”さるでもわかる3分クッキング”……駄目だよ、これを参考にしながら失敗したら僕、猿以下って事になっちゃうじゃん!」
「そんなガキみたいな事思わねえよ」
「うーん、もっと初心者にやさしい……あ、”オリジナルプリンレシピ100選”なんてあるよ。こんな本もあるんだー」
「それくず兄持ってる」
「さすがだね」
「今日はこれ作って下さいってお望みのページ開いて俺んとこ持ってくる」
「ふーん」
「なんだよニヤニヤして」
「うん?仲良い兄弟だなーって。あ、このアラモード美味しそう」
「何でこっちにページ向けて言うんだよ」
「作ってよお兄ちゃん」
「誰がお兄ちゃんだ!っつーかそれ、生クリームと果物乗せるだけだから斉賀さんでも作れるよ。お探しの初心者にやさしいレシピじゃん、頑張れ」
「生クリーム泡立てるのって難しいんだよねー。泡立ててる最中ボールから飛沫が飛び散っちゃったりクリームが固くなっちゃったり」
「試行錯誤は猿でも出来るぞ」
「もう猿以下でいいから」
「少しは努力しろよ。斉賀さん、料理覚えとかないと後々苦労するぞ」
「だって僕が作るよりもくる君が作った方がおいしいんだもん!」
「それはあたりまえだろ」
「仰る通りでございます」
「はあ、分かったよ。ついでに生クリームの泡立て方も教えといてやるから覚えろよ」
「ありがとうお兄ちゃん!」
「しつこい」




