花神楽:図書室
「別館は本館にくらべて賑やかだねー」
ヨシノの言う通りこちらは本館に比べ人の話声などで賑わっていた。ぐら校の生徒ともよく擦れ違う。
夏休みという事もあってか私服の生徒の方が多い気がする。おかげで私達もうまく紛れ込めているようだ。良かった。
「部活とかしてっからな」
2階に着くと外まで響いてきていた楽器の音がクリアに大音量で聴こえてきた。音楽室が見えたので音の発生源はあそこなのだろう。吹奏楽部あたりだろうか。
「こっちだ」
2階と3階を繋ぐ階段のおどり場から隆弘さんが呼んでいる。
「2階は見てかないのー?」
「2階には職員室があるんだよ」
なるほど。それは避けたい。
そそくさと階段をのぼり3階につくと大きな教室が目の入った。図書室のようだ。
隆弘さんが図書室の扉を開けようとする手を止めじっとヨシノを見る。
「…うちの図書室は変わった品揃えだから案内しとこうと思ったんだが…ヨシノ、お前静かに出来るか?」
「なんだか隆弘クンの俺に対する扱いがひどくなってきてる気がする」
「図書室には他の生徒も来てるだろうし目立つのは困るだろ」
「大丈夫だよ!まったくもう!」
大丈夫だと言いつつ図書室の扉をヨシノが勢いよく開けた。バタン!と大きな音が室内に響く。
「言ってるそばから何やってんだテメエは!」
「いったあ!隆弘クンがゲンコツしたあ!」
図書室内から視線が集まる。
「今のはヨシノが悪いよ」
「ユウまで!」
「貴方達、何を騒いでいるんです」
図書室の奥からツカツカと一人がこちらに近付いてきた。
先生に見つかったかとドキッとしたが、制服を着ているので花神楽の生徒のようだ。
「ここは図書室ですよ、お静かに」
口元に人差し指を当て、まるで小さな子供に言い聞かせるように注意を受けた。
ごめんなさい、と素直にヨシノが頭を下げる。
「ヴィオーラ、夏休みも図書委員の仕事とは熱心だな」
「西野君。それに宮下君も。貴方達こそこんな所にどうして。図書室で夏休みのお勉強、なんてガラじゃないでしょう」
「ちょっとな」
二人とは顔見知りなのだろうか。私達の事もちらりと見たが部外者だと気付いた様子もなく隆弘さんと会話を続けている。高校にもなると生徒全員の顔と名前を把握している方が珍しいもんな。正真正銘部外者で初対面の私達はともかく花神楽の生徒であるくるの顔を見てもピンときていないようだった。
図書室の中は冷房がきいているのか保健室程ではないがひんやりと心地よい。いや、保健室はガンガンにかけ過ぎていた気がする。決めつけるのはよくないが、あの校長先生が深夜先生が止めるのも聞かず温度を下げている所が脳裏を過った。
「おっとっと、ごめんそこ通してー」
後ろから声が聞こえたので振り返ると、何冊も積み重ねた本の山を両手で持ち、扉の前であたふたしている男性がいた。
「っと、わりぃな。おじっそ」
「ありがとー…って、俺はおじっそじゃないぞ、ロッソ先生と呼びなさい!」
「分かったよおじっそ」
おじっそとは愛称だろうか。隆弘さんにおじっそと連呼されどんどんしょんぼり顔になっていく。からかいがいがありそうな人だ。
しかし今自分の事を”ロッソ先生と呼びなさい”と言っていた。いじられているがこの人も先生のようだ。目立たないように気を付けないと。
「ちょっと、それじゃ本で前が見えないでしょう!どうして貴方はそんな横着をするんですか!」
ヴィオーラさんがロッソ先生が抱えている本の山を半分程奪い取った。持ってあげるつもりらしい。
「だって、往復するの面倒だし」
「2階の職員室から運ぶだけなんですから距離ないでしょうが。蹴躓いた拍子に本をばらまいて傷でもつけたら貴方、どう責任をとるつもりです」
「そんなに言うならヴィオーラも運ぶの手伝ってくれたら良かったじゃんかー」
「私には私の仕事があります。甘えないで下さい」
ふん、と鼻をならしてヴィオーラさんが本を図書室のカウンターの上にどさりと置いた。その隣にロッソ先生も本を置く。
「あ、そうだ隆弘。君が購入リクエストしてくれてた本が入ったよ」
「お、まじか!」
「まじまじ。新刊コーナーに置いてあるから覗いといでー」
「さんきゅ、おじっそ!」
「ごゆっくりー」
新刊コーナーに向かうのだろうか、隆弘さんがぱっと歩き出したので私達もそれに続く。
こちらにゆるりと手を振るロッソ先生の後頭部を、ヴィオーラさんが図書受入簿本でぱこんと叩いているのが見えた。
受入れ手伝ってよーとヴィオーラさんに頼んで一蹴されている所を見るに、あの職員室から持ってきた本の山は新しく登録する図書という事か。
ちらりと”これでどんな死体も腐敗知らず”とか”屍体愛好”とか物騒なタイトルが見えた気がしたけれど、きっと見間違いだろう。




