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霜月みやび

円形広場の周りに沿って道を通って進むと、聳え立つ塔のごとき校舎の入口にようやく到着した。


玄関には入学式の看板が立てかけてあり、文字の横には「集合時間までここで待機すること」と指示が記載されていた。

そして看板の横には恐らく自分と同じ、新入生の立場の人たちが何人か一足先に到着している様子だった。


読書する者もいれば、イヤホンで音楽を聞く者、すでに打ち解けて会話を広げる者。

この人たちも将来は毎日テレビで見かけるような、それぞれの業界の先導者となるのだろうか。

ただの高校生のはずなのに、光一の眼には彼らが眩しく映り、自分が同じ立場の人間であることをすっかり忘れてしまっていた。


「いやあ、やっぱりどう考えても違うよなあ・・・」


光一は改めて自分がこの場にふさわしくない存在であることを痛感し、おこがましくも英帝に入学したことを後悔していた。


元々、光一は自身のことを才の優れた存在だと思っていない。

中学時代の成績は学年で5番手あたりだったが、進学校ではなく地元の公立中学のなかでの話だ。

部活動では水泳部に所属し、地元の地区レベルでは負け知らずだったものの、県大会では最後まで優勝できず2位止まり。

最後まで全国の舞台に立つことは叶わなかった。


傍から見れば文武両道に長けた中学時代を過ごしたといえるのだろうが、所詮は地元の地区レベル。

全国から最高峰の逸材たちが集まる英帝の学生としては、経歴があまりにも小粒すぎる。

そんな卑屈な考えが、校舎に足を踏み入れてから既に何度も光一の脳内を巡っていた。


それから10分ほど経過する中で、同じ新入生と思われる人たちの数は徐々に増えていき、集合時間に指定された8時半には30人全員が揃っていた。

そろそろ時間であることを悟り、読書や音楽に勤しんでいた生徒たちもそれぞれ本、そしてイヤホンを鞄にしまう。


舗道のスズメが春のそよ風とともに飛び立ったのと同じくして、玄関の自動扉が開き、中からひとりの大人が新入生たちのもとに現れた。


「やあみんな、よく来たね。」


新入生たちに歓迎の意を述べるその人を見る光一、そして十中八九その場にいたほかの生徒たちの頭の中にも、ひとつの単語が浮かぶ。


美形。


声を聞いて女性だとわかったが、彼女の輪郭はどこか中性的で、ジャケットにパンツ、そしてネクタイのないチャコールのシャツを着こなす姿はモデル雑誌の表紙を飾れるものだ。

歌劇団に入れば王子役として女性ファンが殺到するだろう。


シゴデキ感満載な装いの一方で、肩まで長さのある髪には赤色のメッシュが入っており、耳には小さなピアスを付けていた。

今まで人生で見てきた先生たちに比べると少し個性が強いように感じたが、服装とアンマッチなロックさが彼女の魅力を一層引き立てていた。


女性は、自身に視線を向ける生徒たちを見渡し、軽く頷くと、続けて発言した。 


「今日から君たちの担任を務める霜月みやびだ。英帝学園へようこそだね。」


手をひらひらと振りながら、担任と名乗る女性ー霜月みやびーは凛々しく美しい微笑を生徒たちに向けて、英帝学園へ迎え入れた。

出会ってからまだ1分も経たずに、ほとんどの生徒(特に女子)が彼女に向ける眼差しは羨望と好意に満ちていた。


「全員揃ってるね。三十人——ばっちりだ。それじゃ、入学式の会場まで案内するから一列でついてきてくれ。入学式はこの校舎の奥にある大ホールでおこなわれるよ。」


霜月が先頭に立ち、校舎の中へと歩き出す。その後ろに生徒たちが列をなし、ついていく。

光一も周りの背中に紛れるように一歩を踏み出した。


廊下を進むと、やがて霜月は重い扉の前で足を止めた。


「——ここが式場。普段はホールとして使われてるけどね。中に入ったら、順番に詰めて座っていくこと。OK?」


ウィンクで問いかける霜月に、生徒たちは緊張した面持ちながら「はい」と返答した。

霜月は満足そうに頷くと、扉を押して開いた。


式場と呼ばれるその空間は、光一の想像より遥かに広かった。

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