入学式
設立から10年しか経っていない学園の大ホールは未だ新築同様の輝きを放っており、白を基調とした内装と整列した席の配置は教会を彷彿とさせる神聖さを帯びていた。
整列した席の奥、教会ならば神父が立つ位置には教壇が存在し、その奥には一人の男性立っていた。
年齢は恐らく50代半ばといったところか。
恰幅の良さと銀髪の髪色が印象的だった。
その男性が学園の重役であることは、着ているスーツの質から判断に難くなかった。
光一ら生徒たちが全員着席したのを確認し、男は教壇のマイクに向かい言葉を発した。
「よく集まってくれた。そして、入学おめでとう。」
男の声は低く、重厚感があり、何より威厳に満ちていた。
ただでさえ緊張している光一にとっては、男が話す度に重力が二倍増しになった感覚だった。
「わたしは英帝学園高等学校の理事長、そして校長を務める冬木和重というものだ。覚える必要はない。」
「ないんかいっ。」
後ろの方の席から、小声で男子生徒の突っ込みが入った。
幸い、和重には聞こえていないようだ。
和重は続けて話した。
「まずはじめに、君たちにはひとつ謝っておくことがある。」
「せっかくの晴れの舞台にもかかわらず、君たちのご家族を招待できず申し訳ない。知っての通り、英帝学園は情報統制が厳しい。それゆえ、情報漏洩をのリスク防ぐために学園内は最少人数の立ち入りしか認めていない。」
和重の説明は、家に届いたパンフレットにも書いてあった。
たしかに、英帝学園の情報は秘匿性が高いゆえ世間の関心も高い。
内観の写真だけでも、どこぞの週刊誌なら喜んで金を払うだろう。
それほどまでに、英帝学園に関する情報公開は限定的だ。
光一の両親も、息子の晴れの舞台を目にできないことを落ち込んでいた。
光一も当初は同じ気持ちだったが、プレッシャーに潰されそうな頼りない姿を両親に見られず済むことに、今となってはむしろ安堵していた。
そこから簡単な祝辞と今後の生徒たちへの期待を述べ、和重は教壇をあとにした。
「次のパートは・・・」
光一が見渡していると、生徒たちの横の席に座っていた霜月が立ち上がり、前に歩み出た。
「さて、入学式はこれで以上だ。これから教室へ向かうよ。」
「え、もう終わり?!」
しまった。
つい反射的に言葉が口から出てしまったことに、光一は焦りを隠せなかった。
だが、そんな反応など見慣れたかのように、霜月は笑いながら返した。
「はは、驚くのも無理はない。英帝は取捨選択が激しいところがあるからね。必要な環境設備はとことん突き詰めるけど、不要と判断するしきたりや慣習は徹底的に省くんだ。ちなみに、うちは校歌も存在しないよ。」
「なるほど・・・」
やっぱり異質だ、この学校は。
こうして、秋西光一の記念すべき高校入学式は30分も経たず終わったのだった。




