第8話 異世界人であることを相棒に話すべき?
「すじがいい、って、褒められたんだー。ワイルドボアとシルバーラクーンの解体、教えてもらった。覚えたよ」
アルカは話す。ぱくぱくとご飯を食べながら。
解体場のお手伝いは、順調のようだ。
魔物のなかには、ゴブリンやオークみたいな、見るからに魔物っぽいものもいるけど、獣が魔物化したようなものもいるっぽい。
ボアとラクーンだから、それぞれイノシシとアライグマっぽい魔物なのかな。
「レンは、どうだった?」
「うん。まあまあかな」
僕のほうの仕事に、特筆するべきことは、なにもない。
一日中、シャベルを振るい続けていただけだ。
ただ――。
反復作業を無心でやっていると、考える時間がたくさんあって――。
「アルカに話しておこうと思って」
僕はそう話を切り出した。
「なに? 改まって?」
「僕の秘密。……まあ秘密ってほどでもないんだけど。まだ言ってなかったこと」
「うん。聞くよ」
アルカが両手に持っていた串焼きとパンを置く。
僕は笑って、食べちゃって、と促した。
二人で残りを急いで食べる。
アルカは姿勢を正して僕を向く。僕も雰囲気的になんだか正座になった。
「えっとね。まえに僕は、遠いところから来たって言ったよね」
「言ったっけ?」
アルカは、きょとんとする。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「それわたしが聞いたんじゃない? レンは遠いところから来たの? ――って」
「そうだっけ? まあいいや。……で、遠いところから来たのはその通りなんだけど。その遠さが問題でさ」
「どこ? もしかして海の向こう?」
「いや。そうじゃなくて」
「じゃあ空の果て? 浮遊大陸とか?」
「あるの!?」
僕は思わず聞いていた。
浮遊大陸があるなんて!
異世界すごい! すごいすごい!
そういう異世界でいいんですよー!
「おとぎ話だけど」
「なんだー。……いや? もしかしたらあるのかも?」
「空の果てでもないみたいね? じゃあレンはどこから来たの? 魔界とか?」
「魔界あるんだ!?」
「それもういいから」
はい。ごめんなさい。
「ええと。僕はこの世界じゃなくて……、別の世界から、来たんだ」
今日、シャベルを振るってるあいだ、ずっと考えていた。
信頼してる仲間に、ずっと黙っているのって、どうなんだろう? ……って。
異世界転生もののWEB小説だと、自分が転生者であることを隠すものだったりする。
なんでなのか、考えてみたんだけど、やっぱりわからない。
世間的に秘密にするのは、まあ、権力者に目を付けられないためとか、それなりの理由は見つかるけど。
同じパーティの仲間にまで秘密にしたりするよね? あれがまったくわからない。
恋人とか夫婦関係ぐらいになって、ようやくカミングアウトしたり。そんなのがわざわざ重大イベント扱いになっていたりするんだよね。
なんで、そこまでして隠すの?
隠してるカッコいいから? ――とか、そんな低俗な理由ぐらいしか思いつかない。まったくわからない。
わからないから、僕は隠すのはやめることにする。
〝異世界一般常識〟には反してしまうかもしれないけど、それが仲間に対する誠意だと思ったから。
「別のセカイ? ……って?」
「ああうん。えっと」
きょとんと首を傾げるアルカに、僕はどう説明すればいいのか、迷った。
〝異世界一般常識〟にも、ないんだよねー。異世界をうまく説明する方法って。
「陸続きでもなくて、海の向こうでもなくて、空の向こうでもなくて、どうやっても普通の方法じゃ行けないところ。そこはこっちと同じように、陸と海と空がある別の世界で……。僕はそこから来たんだ」
「へー」
「召喚……はされてないけど。なんかこう、ふいっと迷いこむ感じでこっちに来ちゃって」
「ふぅん」
アルカの返事が、なんだか軽い。
まだよくわかっていないのかなと思った。
「アルカ? わかってる?」
「うん。わかってるよ? レンはすごく遠くて、簡単に戻れないようなところから、一人で来たんだよね」
「うん。そう」
ちゃんとわかってくれていた。
「なんかレンがすごく深刻な顔するから、もっと重大な話かと思ってた」
やっぱりわかってないような……?
「あのね。アルカ。僕は異世界人なんだよ?」
「それってなんか関係あるの?」
「え?」
アルカの言葉の意味がわからず、僕は目をぱちくりとさせていた。
「レンはさ、わたしのこと信頼してくれたから、秘密を話してくれたんだよね?」
うわぁい! 恥ずかしい! すっかりバレてら!
「う、うん……、そ、その通りで……。えっと。はい。仲間だと思ってる……から」
「じゃあさ。わたしがレンのことを信頼するのに、それ、異世界人かどうかって、なにか関係する?」
「え? えっと……?」
言われたことを、考えてみる。
異世界人だから、信頼する。……は、当然、ないよね。
じゃあ、その逆に、異世界人だから信頼しない。……も、ないよね。
信頼するかどうかは、その人自身がなにをしたかであって、どういう身の上だとかは、まったくぜんぜん、関係がない。
「うん。関係ないね」
「でしょ? でしょ?」
嬉しそうに、アルカは笑う。
僕もつられて笑顔になった。
◇
さて。
夕食も終わると、窓の外は、すっかり暗くなってしまっている。
今日は灯りを借りていたけど、油を節約しなきゃいけないから、とっとと寝ないとならない。
「寝ないの?」
精神統一を図っている僕に、アルカが言う。
ぴらぴらと毛布をめくって、僕を誘う。
だからちょっと待って! 心頭を滅却しないと!
煩悩退散!
オンアビラウンケンソワカ! キエエエーッ!
布団に入る。
今日のアルカは、いつもよりくっついてくる感じ。
僕が秘密を話したからか、前よりも距離が近くなって――。正直、ヤバイです。
「おやすみー」
「お、おやすみ……」
寝れるわけない。
こんな女の子とくっついて……。体温を感じて……。
……ぐう。
◇
「おはよー」
鶏の声とアルカに起こされて、朝日をまぶしく感じながら、僕は思った。
……寝れたわ。




