第7話 冒険者ギルドで仕事を探す
鍛冶屋を出たあと、僕らは冒険者ギルドに突撃した。
仕事といえばここ。ほかに仕事を見つけられるあてもない。ここしかない。
おねえさあぁ~~ん。
国民的猫型ロボットにすがる気分で、カウンターに駆けこむ。
朝の混雑タイムが終わって、受付には人の列がなく、すぐにお姉さんは相手をしてくれた。
「今日は薬草採集はいいんですか?」
「あれはしばらくお休みです!」
僕が言うと、お姉さんは形のいい眉をすこしだけ持ちあげた。
「あの仕事、儲かりませんか?」
「それより命が大事です!」
お姉さんの眉が、またすこし動く。
「ゴブリン倒せるようになるまでお金を貯めようと思っています。なにか仕事ありませんか? 街中でできるやつ」
「……」
僕が一気にまくしたてると、お姉さんは無言になってしまった。
呆れられた? ずうずうしかった? 意気地なしだと見下げられちゃった?
でももう決めたことだから。なんとしてでも、仕事を貰わなければならない。
たとえ、お姉さんに軽蔑されても――。
「素晴らしいです」
「えっ?」
「たいへん、よいことに気がつきましたね」
「えっ?」
「多いんですよ。威勢のいいことばかり口にして。無ランクの木札なのに、ゴブリン討伐の仕事をよこせ、とか言ってくるクソガ――ではなくて、若い冒険者の方々って」
お?
「このあいだなんて、〝俺がオリハルコン冒険者になったら、愛人にしてやろうか?〟――なんて言いくさりやがりまして」
お、おおう。
「翌日には、もういなくなってましたけどね。――止めたんですよ。ゴブリン退治は無理だから、街中の仕事からはじめませんか、って。でもああいう馬鹿は、死んでも直りませんね」
お、お姉さんがなにか黒いものを吐いている。
「だいたい困るんですよ。死ぬのは本人たちの勝手ですけど、それで餌になったら、またゴブリンが増えるんですから。どうせ死ぬなら肥溜めにでも落ちて死んでくれればいいのに。それなら畑の役に立ちますよね?」
ね? と、同意を求められても……。
隣でアルカもぶるぶると震えてる。その彼女と顔を見合わせる。
えっ? 立ち向かうのは、僕の仕事ですか? そうですか?
「でも肥料になって……、それで育った野菜を食べるのは……、嫌じゃないです?」
「それは確かに。やっぱりゴブリンにゴミ処理してもらったほうがいいですね」
ゴミって言ったー!
お姉さんやっぱり、明日死んでるゴミって思ってたー!
「あ。レンさんとアルカさんのことは、もう思ってないですよ」
もうって言ったー! やっぱり最初は思ってたー!
てゆうか! 心読んでたー!
「さて。冗談はこのくらいにして。お仕事ですね」
冗談じゃなかったと思う。ぜったいそう思う。思うよね?
隣のアルカも、涙目になって、ぶんぶんと激しくうなずいている。
「ええと、おねがいします」
お姉さんは、大きなファイルを引っぱり出してきた。
「これとこれ、あとこれも、これなんかもどうでしょう?」
羊皮紙が、次々と抜き取られる。
どこになにがあるのか、ぜんぶ覚えているのかな。お姉さんは、やはりデキる人のようである。
依頼書は十数枚ほど並んだ。
「これ、掲示板には、張り出してないんですか?」
「出しませんよ。クソガキが受けて、不実を働いたら、ギルドの信頼度が下がりますから」
クソガキって言ったー!
お姉さん、もう隠さない。
「信頼できる方にしかお見せしません。裏メニューみたいなものですね」
裏メニュー。
それは常連さんへの特別サービス。
その裏メニューを、僕たちは見せてもらっている。
にへらぁ、とか、笑いを浮かべていたら、隣のアルカが、どすどすと、肘打ちを入れてくる。やめてよ。脇腹が痛いよ。
「読んでよ」
あ。字。読めないんだっけ。
そういや読み書きも特殊技能になるんだっけ。
僕は依頼書を次々見ていった。
「ええと……。ドブさらい。解体所のお手伝い。市場での荷運び。土木工事の手伝い。猫探し。配達。書類整理・代筆。代読。食堂の給仕。パン屋で薪割り。店の呼び込み。野菜の皮むき。皿洗い。宿屋の洗濯」
「もうすこし信頼値を築けたら、帳簿付けなんかも紹介できますよ。――計算、お得意ですよね? それと商店の倉庫の在庫整理とか――」
「あ。棚卸しですか」
「すごい。わかりますか」
スキマバイトやバイト情報とかだと、「棚卸し」のバイトがよく目についたりする。
在庫の数を数えるだけのお仕事。でも計算できないと、そもそも無理だよね。
「こっちはアルカのできるやつ。こっちは僕だけしかできないほう」
僕はささっと、依頼票を二つのグループに分けた。
「わたし。猫探しとか、できるかもっ」
「それはないかな」
きらりん、とアルカが目を輝かすが、僕は即座にダメ出しをした。
「なんで?」
「――これ失敗したら、報酬なしになりますよね?」
「そうなりますね」
「だから。報酬がすこし安くても、確実に稼げるほうがいいよ」
「そっか」
依頼票を眺めつつ、色々と検討していった結果――。
二人の仕事が決まった。
「わたし。ギルドの解体場」
アルカは猟師さんのお手伝いをしていたそうだ。それは充分に特殊技能となるだろう。
解体場のお手伝いは、未経験者NGと書いてあったが、アルカは鳥くらいなら解体できるということなので、獣や魔物も教わればできそう。お姉さんのプッシュもあって、ねじこんでもらえることになった。
解体場の責任者は、あの薬草の採り方を褒めてくれたおじさんだそうだ。心証もいい。……いいはず?
そして僕のほうはといえば――。
「僕。ドブさらい」
僕の特殊技能は算術や文字が読み書きできることだけど。
算術の生かせる帳簿付けなんかのお仕事は、信頼値が足りない。紹介してもらえない。
文字の読み書き関係の仕事は、安全だけど、たいした特殊技能でもないので、あんまり報酬が高くない。
工事のお仕事は、報酬はわりと高いんだけど、体力がいるから、へなちょこ現代人には無理っぽい。
しかし、体力がそれほどいらず、特殊能力もいらず、それなのに報酬が高めの、素晴らしいお仕事があった。
それがドブさらいである。街の排水路のお掃除だ。
報酬の良い理由は、もう、わかりきっている。
人の嫌がる仕事だからだ。
今回、仕事を選ぶに際しては、「やりたいか/やりたくないか」――は、度外視して考えた。
考えたのは、安全さと、報酬額、あと各自の技能だけ。
それで〝最適解〟を求めたら、こうなったわけだ。
「じゃ、夕方にー。またー」
手を振ってアルカと別れる。
彼女のほうは、このままギルドの奥へ――。
僕はシャベルを背負って、街へと繰り出す――。
それぞれお仕事を、頑張った。
◇
慣れない仕事で、ちょっと時間が掛かってしまった。夕方までに終わらせる分を、夕方が終わるぐらいに、なんとか終わらせられた。
ギルドに戻るが、アルカの姿はない。
報告して、お給金を受け取ると、「先に戻ってる」との伝言をお姉さんからもらった。
宿に向かうと、建物の外でアルカが待っていた。井戸端で腰掛けて、足をぷらぷらさせている。
「あっ。レンだ。おかえりー」
待っててくれたんだ。
ギルドにいなかったときには、ちょっと寂しく思ったけど。
僕は感激して――。
「レン……。くさいよ」
近づいたら、そんなことを言われた。
顔をしかめて、鼻をつままれ、もう片方の手を振って、あっちいけとやられる。
ガーン……。
「そうかなぁ? くさい? べつに、においなんてしないけど?」
自分の体を、くんくんと嗅いでみる。
においはなんにもしない。
「それ鼻が慣れちゃったんだよ。だいじょうぶ。ほんとにくさいから」
「それ全然だいじょうぶじゃないよね?」
「とにかく。水浴びするまで入っちゃだめ。最低、桶で三杯――いいや五杯。頭も体も、ぜんぶ洗ってくること。――いい?」
そういうと、アルカは宿に入っていってしまう。
取り残された僕は、しょぼーんと立ち尽くした。
そういえば、ドブさらいの仕事を始めたときには、においがすごくきつかったけど。やっているうちに、ぜんぜん気にならなくなっていた。
井戸の水汲みは、結構な重労働である。
人気がないことをいいことに、全裸になって、10リットルくらい汲める大きな桶で、一杯、二杯と、頭から被っていく。
頭も体も、わしわしと洗った。
におい、取れたかな?
嗅いでみたが、やっぱり、ぜんぜんわからない。
言いつけ通りに、五杯ほど。水浴びを終えてから、僕は宿屋に入っていった。




