第6話 異世界鍛冶屋に行ってみた!
とんてんかん。とんてんかん。
店の奥の工房から、金属を叩く音がする。
それと――。鉄のにおい? 奥の工房のほうからは、風に乗って、焼けた鉄のにおいが漂ってくる。
うん。鍛冶屋だねっ。
異世界の鍛冶屋だ。超本格的だ。
すごいすごい。異世界すごい。
店内には武器がいっぱい並んでいるようだ。
店の前にもはみ出しているほど。樽に十数本もぎっしりと詰め込まれて、無造作に並べられている。
WEB小説で鍛えた〝異世界一般常識〟によれば、店の外にあるのは安いやつ。中古だったり、お弟子さんの作った失敗作だったりするやつ。
品質の良い武器は、きっと店の中にある。
常連になって、おやっさんに認められなければ、買わせてもらえなかったりしてーっ!
テンション上がってきた。
樽に刺さってる武器に、値札がついてないか探してみる。
アルカのほうは、とっくに、武器を手に取って眺めている。
「うーん。重いかなぁ?」
先端に菱形の板がついてるメイスを、ぶんぶんと振る。
アルカが次のメイスに持ち替えようとすると、店の奥から、誰かが出てきた。
「おい。何に使うんだ?」
煤で汚れた革エプロンと、遮光ガラスのはまったゴーグルを首から下げた髭もじゃのおじさんは、愛想笑いの一つもなく、前置きもなしに、そう聞いた。
「ドワーフだっ!」
「なんだ坊主? ドワーフを見るのは、はじめてか?」
「すごいすごい! 本物のドワーフ! すごいおじさんカッコいい! 渋い!」
「へっ……。おだてたって、なんにも出ねえぞ」
ドワーフのおじさん――親方は、鼻の下をこすった。
「――で? なにに使うんだ?」
「ゴブリン」
アルカが答える。
「なら、そっちじゃねえ。ゴブっつーても、上位種のアーマー着込んでいるやつじゃねえだろ?」
「うん。よくいる裸のやつ」
「じゃあ。こっちだ。フランジのついてるそっちは、アーマー用だ」
菱形の板。何枚もついているあれは、フランジというらしい。
なによりメイスに用途の違いがあったなんて、はじめて知った。
異世界すごい。すごいすごい。すごい本格的。
アルカが次に握ったのは、トゲトゲの生えた棒だった。
世紀末でモヒカンの人たちが、ヒャッハー、ってやるときの標準装備みたいな。釘バットの異世界版みたいな。
「生身が相手なら、そいつが最強に凶悪だぜ?」
おじさんが、にやりと笑う。
アルカも高々と掲げて、にやりと笑い返す。
だいぶ気に入った感じ。
でも美少女の手に釘バットは、絵面がよろしくない。あと持ち歩くだけで、釘が自分の足に刺さって怪我しそう。
そしてなによりも問題なのは――。
「おいくらですか?」
僕は聞いてみた。
「銀貨5……いや、4枚でいいぞ」
「あ。無理。ぽいしなきゃ。ぽい」
アルカはすかさず釘バットを樽に戻した。
無理無理。
銀貨5枚だなんて、そんなの無理。
値引いてくれたんだろうけど、それでも4枚。
4万円って……。
「ほ、ほかのやつはいくらですか?」
「この樽にあるのは、メイスも剣も、ぜんぶ、5……じゃなくて、4枚だ。中古だからな。おまえら新米はすぐ死んじまうから、そうならねえように、ほとんど赤字でこの値段だ」
やっぱり――と、僕は思った。
高いんだ。鉄は。
ホームセンターに行って、工具コーナーで、ここにあるメイスと似たようなハンマーを見たことがあるけど。2000円とか3000円とかで買えていた。
だから銅貨20~30枚だといいなー、と期待していたんだけど。
でも、違う懸念もあった。
品物によって、物価が違っている可能性だ。
現代社会となにもかも同じではなくて、品によってめちゃくちゃ差がついてしまう可能性――。
たとえば食料は安く、鉄などの工業製品は高いとか。
あと魔導具なんかは、目が飛び出るほどめちゃくちゃ高いとか。灯りをともす魔導具が、現代世界だったら100円ショップに置いてあるそれが、庶民の平均年収ぐらいしちゃうとか。
たぶん、そっちのパターンなのだろう。
「弓ある?」
「おうよ。安いやつで、銀貨10枚からだな」
アルカが聞いている。
「アルカ? 弓とか使えるの?」
「うん。すこしね。二人いるんだから、どっちかが遠距離できるといいよね」
そういや、猟師さんのお手伝いをしているって聞いてた。
僕は無理。
当たる以前に、まっすぐ飛ぶかもわからない。てゆうか、弓を引ける自信もない。引けない自信まである。
「いまは買えないけど。お金貯めたら買いにきます」
強面だけど意外と優しいドワーフの親方に、僕たちはそう言って、鍛冶屋を後にした。




