↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いずれ神殺しとなる少年 ~異世界に行って、冒険者生活を全力で満喫する~  作者: 新木伸
Fランク。QOL(クオリティ・オブ・ライフ)爆上げ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/34

第32話 冒険者のファッション

「ミレーヌさん、こわかったねー」

「こわかった」

「リタ、痛そうだったねー」

「うん痛かった」


 痛そう――じゃなくて、痛かった。

 あれは見ているこっちまで痛い。


 ギルドをあとにして、ふたりで歩いている。アルカもいつもの服に戻っている。


 アルカのバイトは、午前中だけで終わった。

 用事で遅れている娘がやってきたので、臨時のバイトを終えて、アルカと二人で、逃げ出すようにギルドをあとにした。


 ミレーヌさんは、会釈をすると、いつものように指先を小さく振って返してくれたけど――。


 いつもとまったく同じ笑顔のはずなのに、僕はその背後に般若《はんにゃ》がいるように思えてならなかった。


 噴水広場まで逃げてきて、そこで座りこんで、足をぷらぷらさせていると――。


「ねー、今日、このあとどうするー?」

「どうしよう?」


 アルカと合流するつもりはなかったので、本当に、どうしようかな?


「なんかある?」

「ないかな」


 予定は特に決まってない。


「じゃあさー、寄りたい店あるんだけど、いい?」

「いいよ」


 デートだ。デートのお誘いだ。

 ――って、はい、わかってます。ただの買い物だよね。


    ◇


「ここー。前から気になっていたお店ー」


 お店の前で、アルカが「じゃーん♪」と手を広げる。


 アルカに連れられて行った先は、防具のお店だった。

 冒険者向けの防具を扱っているようだ。


「そっか。武器はあるけど。防具って揃えてなかったよね」


 僕は自分の格好を見る。

 この異世界に来たときに来ていた服だ。何度か洗濯してはいるけど。ずっとこれ。


 武器のほうは、死ぬほど頑張って、お金を貯めて調達したけど――。


 防具に関しては、じつはそれほど必要性を感じていなかった。

 ゴブリンなら完封できてしまって、怪我をするようなことはなかったので。


 森のあのへんは、出てきてもゴブリンか、リーダー格のホブゴブリンまでしかいない。


 でもいつかはオークなんかに挑戦するわけで、そのときには防具は必要だ。たぶん絶対に。


「ちょっと見てこうか。買うかどうかはともかく。値段も知らないし」

「うん! ここはね! 女の子に人気のところなんだって」

「女性冒険者?」

「うん! リタが教えてくれたの。かわいい防具が、いっぱいあるんだってー!」


 かわいいって、そこ、大事なところ?

 防具は防御力と機能性なんじゃないかな? 命を預けるものなんだし。


 まあ、僕も、どうせならカッコいい防具がいいと思ったりするけどね。黒一色でコーディネートして、さらに漆黒のロングコートとかいいかもーっ!

 なら女の子的には「かわいい」を追求するのも当然なのかな。


 まあ、入ってみることにしよう。


    ◇


「こちらのブーツは膝上までで動きやすく、スカートもただの布ではなく、法術付与のアリア綿ですから、見た目以上の防御力があるんですよ」

「へー! へー! へー!」


 アルカは、はしゃいでいる。


「弓を使うにも邪魔になりませんし、お客様は……、あと剣か、片手武器をお使いですね。そのときにも動きやすいですよ」

「きゃー! きゃー! きゃー!」


 アルカはエキサイトしている。

 店員のお姉さん、動きをちょっと見ただけで武器までわかるんだ。

 さすが冒険者専門の防具屋の店員さん。


 店員さんのおすすめで、上下一揃いを着込んだアルカは、姿見に自分を写して――大興奮。

 つぎつぎにポーズを変えて、姿を写している。


 ていうか、鏡、それ自体にも大興奮しているっぽい?


 そうか。異世界だから、鏡は高級品なのか。

 そうか。鏡を見るの、はじめてなのかも? アルカの村には鏡なんてなくって、自分を写して見ることもなかったのかな。

 そうか。だからそんなに無頓着でいられるんだね。自分のかわいさに。


「わー! わー! わー! かわいい!」


 アルカが大はしゃぎして、ポーズを右に左に変えていく。

 そのたびに、ひらり、ひらりと、ミニスカートの裾が舞う。


 男の子的には、どぎまぎしてしまう。


 膝までガードする冒険者使用のロングブーツだけど、スカートとの間に絶対領域は残される。

 ブーツとスカートの合間で、肌色の生太腿が、ちらちらと視野の中で踊っている。


 絶対領域が、すんばらしい。


「でも予算オーバー。残~念っ」


 ひとしきり姿見で映して堪能したあと、アルカは諦め顔でそう言った。


「彼氏さん、どうです?」


 店員さんは、僕に聞く。


「か、彼氏じゃないですっ!」

「あら? そうなんですか?」


 店員さんは、アルカの頭から足先まで示して、セールストークを、なぜか僕に投げてくる。


「こちら。上から下までのフルセットで、本当だったら銀貨20枚のところですが――」


 だよねー。やっぱり、いいお値段になるよねー。


 個人ごとの貯金は、そんなに貯まっていない。

 収入はきっちり二等分してるから、アルカのほうだってそれは同じはず。


「――すごくお似合いですよね!」

「……ですね」

「かわいいですよねー」

「……ですね」

「ですから、特別に、銀貨15枚におまけちゃいます! 彼氏さん、どうです?」


 うわぁ。だいぶ値引いてくれた。お買い得ーっ!

 でもなんで僕に聞くんです?


 あと彼氏じゃないんですってば。

 アルカのほうは、無自覚天然娘だから、絶対に、友達としか思ってませんってば。


「銀貨15枚……。15枚……。うーん……、うーん……」


 アルカは悩んでいる。さすがにまだちょっと無理。

 パーティ共有のお金のほうに多く残していて、個別に渡すお金は、お小遣い程度でしかない。


 でも……。


「そうだ。パーティ経費にしよう」


 僕は言った。


「え?」

「今回だけ。特別。防具はパーティ経費から出そう」

「え? いいの!? ほんとに!?」

「うん。いいよ」

「ありがとう! レン!」


 感極まったアルカが、抱きついてくる。


「わっ。わわっ。アルカっ。は、は、離れてっ」

「彼氏さん、太っ腹ですねー。あと役得ですねー」

「ですから彼氏じゃないですってばぁ」


 パーティ経費から出すことにしたので――。

 僕も買った。軽装のレザーアーマーと、腕と足のプロテクター。

 漆黒のロングコートもちょっと欲しかったんだけど、「アサシンの方じゃないですよね?」とお姉さんにジト目で見られたので、やめておくことにした。


    ◇


 防具を買ったら、もうテンションが、あがっちゃって――。


 そのまま、勢いで、二人で森に出かけることになった。


 採集にも討伐にも、出るには遅い時間だったけど。

 ゴブリンの数匹でも狩れれば、それでいいわけで――。


 僕たちはめずらしく、薬草を一切無視して、ゴブリンだけを探すのだった。


    ◇


「いざ探すといないよね。ゴブリンって」

「そうだねー」


 アルカが前を歩く。僕は後ろからついていく。

 見つけるのは、アルカのほうが得意だから、いつものポジションではあるけれど。


 いつもと違って、僕は気が気でなかった。


 普通に歩いている分には、ひかがみが見えるくらい。僕は「ひかがみ君」ではないので、べつにどうということはないんだけど。


 でも、ぴょん、と軽く跳ねたくらいでも、スカートの裾がぴょんと跳ねるんだ。


 見え――!? ない。

 見えて――!? なかった。

 見えちゃ――!? わない。残念。


 いや残念じゃない。これはイケない。ヤバい。

 さっきから集中できていない。目がスカートに吸い寄せられている。意識の97%ぐらいを持っていかれている。


 戦闘になったりしたら、実際、もっと跳ね回るわけで――。

 本当に見えたりしちゃうじゃないかと――。

 そしてそのとき、僕は、ゴブリン見てないでスカートの奥を覗いていたりして――。


 ゴブリンの棍棒を脳天に食らって、死んじゃったりしちゃいそう。

 マヌケすぎる。


 異世界転成師レン――。パンチラに目を奪われ、ゴブリンで死す。

 墓碑には、そう刻んでもらわないと。


 ゴブリン、出ないといいなぁ。

 と、そう思った。


 あ、これフラグじゃないの?

 そう思った瞬間、やっぱり――。


「いたよ」


 アルカがしゃがむ。小声で言う。

 僕は――。スイッチが切り替わって、アルカに尋ねる。


「何匹?」

「二匹」

「じゃあ、一匹ずつ、とろう」


 僕は頼れる相棒に、にやりと笑いかけた。


「弓使わないでいい? 撲殺したい」


 上等。撲殺天使に、ぜひなってくれ。


 僕とアルカは、二人で草むらを静かに進み、ゴブリンたちの近くまで移動してから、慣れた動きでスムーズに襲いかかった。


 僕は後ろから、秘剣ゴブリン斬り。

 ゴブリンの胴体を、上と下とに、真っ二つ。


 最近、戦闘に入ると、集中力が高まるというか、ゾーンに入るというか――。

 練習のときには、かなり集中しないと出来ないことが、本番の戦闘中なら容易にできる。


「えい! はっ! たっ!」


 アルカのほうも声が聞こえる。

 棍棒で数回殴りつけて――、そのあとで、ゴブリンの倒れる音が聞こえてくる。


 僕はぶった斬ったゴブリンの――主に上半身のほうを、じっと見ていた。

 こんなんでも、ま(•)だ(•)動(•)い(•)て(•)く(•)る(•)か(•)も(•)し(•)れ(•)な(•)い(•)。


 やがてゴブリンは、最期にぴくりと痙攣して、それきり本当に動かなくなった。


 ほうら、ま(•)だ(•)動(•)い(•)て(•)き(•)た(•)。


 僕が安心して近づいていたら、最期に一太刀、浴びせてくるつもりでいたよね。

 でも残念。死ぬまで絶対に油断なんてしてあげないよ。


 と、そこでスイッチが切れる。

 ゾーンが解除されて、普段の精神状態に――。


 ――って!


「ああああああああ!!」

「ど――!? どうしたのレン!? ――怪我したっ!?」

「あああああああ!!」


 アルカが駆け寄ってくる。

 僕は衝撃のあまり、叫び続けている。


「どうしたのレン! どこが痛いの!」


 痛い! 痛いよ! 心が痛い!


 ――見てなかった!


 戦闘で! 動き回って! パンチラ! してたはずなのに!

 見てなかったあぁ――ッ!!


「ああああああ――ッ! 僕のぶぁかあぁ――ッ!」


 僕が大声で叫んでいると――。


「どうした! おい! おまえら大丈夫か!」


 叫び声とともに、どやどやと、四人ばかりが駆けこんできた。


「――って? なんだ姐さんとアニキじゃないっすか」

「ああああああ!」

「イキリ君たち! レンが!?」

「なに騒いでるんすか? アニキ?」

「さ、さぁ……? わ、わかんないけど。さっきから、へんで」

「アニキがへんなのは、いつものことじゃないですか」

「そ、そっか……。そうだよねー」

「変って言うなし」

「あ、直った」


 僕はじろりと、イチャモン君を見た。

 こいつ。僕の舎弟を自認するこいつ。


 こいつらのほうが、よっぽど変だよ。


 このあいだミレーヌさんに聞いたんだけど、こいつ、この野郎、名前を「イチャモン・イキリ」に、正式に改名したんだよね。

 ミレーヌさんが、「お名前を変えるとギルドタグは作り直しになりますよ。実績がゼロにリセットされて、無ランクからの再スタートですよ」と何度も念を押されたにも関わらず、断固として改名したのだとか。


 他の三人は、「フトッチョ」「タワマン」「オタ」だってさ。これも僕の心の中の呼び名で――。

 それで、皆の姓――ファミリーネームが「イキリ」なんだってさ。


 バカなの? 死ねば?


 いいかげん名前を覚えてあげようと思っていたんだけど。聞いてあげようと思っていたんだけど。もういいよね? 本名なんか、未来永劫、知らなくていいよね。


「――で? なにしにきたの?」


 僕はじろりと、イチャモン君を見た。


「いや……、なんか凄い叫び声を聞いたので……。助けがいるって思って……、そしたらアニキだったわけでして」


「えっ? あっ、そうなんだ……」


 僕は前髪をいじった。


「俺たち、アニキに助けられましたから……。同じように、なるべく助けに入ることにしてるんです。――あっ、もちろん! 取り分なんて要求してないですよ? アニキたちだって、そうだったし――」


 な……。なんだよ。イチャモン君のくせに。

 いいとこ……。あるじゃん……。

 善行……、積んでるじゃん……。


「ほら、レンが大声あげるからぁ」


 アルカが言う。


「ごめんごめん」


 だって。アルカのパンチラを見損ねたもので……。


「ところで姐さん。装備、新調したんすね」

「うん! どうお? ――似合う?」

「すっごいです! 似合ってるっす!」

「です! ですです!」

「サイコーっす! バッチリです!」

「女神だ……」

「えへへーっ!」


 アルカは喜んで、くるりんとその場で回る。スカートの裾が広がって――。僕たちの目は、そこに釘付けになって――。


 ん? 僕(•)た(•)ち(•)?


 僕だけでなく、四人組の目も、そこに釘付けになっていた。

 鼻の下を伸ばしている。


「うおっほん!」


 僕が大きな咳払いをすると、彼らは直立不動になった。


「そ、そうだアニキ! ゴブリン狩りですよね! ご一緒していいですか! 俺たち! 一度でいいから、アニキと一緒に――」

「ねえ?」


 僕は彼の言葉を遮って、言った。


「あっちいってくれる?」

「え? でもアニキ――」

「それとも死ぬ?」


「行きます! 行きます! あっち行きます! おいおまえら! あっちに向かって全力疾走だ! 行くぞ!」


 四人組は、駆け足で去って行った。


 素直に去っていってくれて、よかった。

 もし彼らが、どうしても僕とアルカと狩りをしたいと駄々をこねるのなら……。アルカのパンチラを目撃したりしたなら……。

 駆除しなくてはならないところだった。


「いいじゃん。一緒に狩りしてあげれば」

「だめです」

「なんで?」

「なんででもです」


 アルカに指図してもらいながら、ゴブリンから魔石を取り出す。

 最近は僕も解体をやっている。アルカも算術を勉強しているし、約束なので。


 それに今日は、アルカが、せっかくかわいい防具を買ったんだしね。初日に血で汚したらかわいそう。


    ◇


「二回目は、見つからなかったねー。残念っ」


 夕焼けの中、僕らは歩く。街の入口はもうすぐそこ。


 歩きながら、僕は、考える。

 スカートの件、アルカと話しあったほうがいいのかな?


 結局、パンチラは確認できなかった。


 そんなに動いたら、ぱんつ見えちゃうよ? ――と、はっきり言うべきなのだろうか?


 でも――と、考える。

 あんなに平然と動き回っているのだから、もしかして、スカートの下は生ぱんつではなく、黒ぱんつだったりする?


 クラスの女子が、「黒パン穿いてるもーん」とか言って、自分でスカートめくって見せびらかしていた。黒パンは、見せていいものらしい。


 アルカも、そーゆーのを、穿いているのかも?


 でも、もし確認して、もし黒パンだったりしたら――。

 僕のこのドキドキは、無残にも、消滅してしまうことだろう。


 生パンかもしれないから、ドキドキするのである。

 黒パンだと知っていたら、しょんぼりだー。


 いったいどちらなのか。

 ううん……。これは難問だよ……。


 まだ観測してないから、わからない。

 そうだ。そうなのだ。


 観測しないうちは、確定しない。――かつて物理学者のシュレディンガーは、量子力学的問題に対して、そのように述べている。


「ねえ? レンはさっきから何考えてるの? まーた、へんなことぉ?」

「変じゃないよ」


 僕は言った。


「ええと。深遠な……。とても深遠な……。量子力学的な難問かな」

「ふぅん? 難問なんだ?」


 これは、そう――。

 あえて名付けるのであれば、「シュレディンガーの生パン問題」であろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。