第31話 給仕娘のファッション
なんだか、昨日は、道徳の授業のおかげで、精神的に疲れたので……。
アルカと話しあって、今日は、一日、お休みにすることにした。
自由行動は、午前か午後のどちらかのことが多いんだけど。 今日は午前、午後ともにお休み。完全な一日休である。
アルカは、したいことでもあったのか、ぴゅーっと、どこかに行ってしまった。
僕は、知識チート系無双の日にするかなぁ。
……などと考えながら、ネタを探して街をぶらつき、お昼ちょっと前頃に冒険者ギルドに立ち寄った。
異世界の人って、お昼ご飯は、どうも食べないみたいなんだよね。
でも現代人としては、昼になると勝手にお腹がすいちゃうんだな。
ミレーヌさんに、ぺこりと会釈して、いつものように指先だけ振り返してもらって、ほっこりして――。
併設の酒場に直行した。
「いらっしゃいませぇー♪」
えっ? あれっ? リタじゃない。
新しい子かな――? と、そう思った瞬間――。
「えーっ! アルカ!?」
給仕の女の子の格好で出迎えてきたのは、アルカだった。
「前からこのカワイイ服、着てみたくってー」
右に左に、肩を振って――。
ひらっ、ひらっ――と、ミニのスカートが翻る。脚の白さが、鮮烈に網膜に飛び込んでくる。
いつもは見えない脚が――生脚が、健康的に大全開だ。
「どう? ……レン?」
いつものポニテも、三つ編みポニテにモデルチェンジされていて……、なんだか新鮮。
別の女の子がそこにいた。
思わず見とれてしまっていた。
「あれぇ? 返事、ないよ?」
「ほら言ったでしょー。レン君、こーゆーの大好きだってー」
リタがやってきて、なんか言ってる。でもいまはリタは視界に入ってこない。僕はアルカだけを見ている。
「いっつも、見てるもんねぇ~」
と、リタが前屈みになった。
自慢のバストを強調する。
僕の視線は、アルカからリタへ――。くわっと超集中した。
「レンはおっぱい大好きだよねー」
「その話! いまやめてもらっていいかなっ!」
「男の人って、みんなそうよ」
「そうなの?」
「そうよぉ」
わりと真顔で、リタが言う。
だからやめてもらっていいですか!
「もう。アルカってば。なにやってるのさ。今日はお休みだったよね? なに働いてんの?」
「うん? お休みだから、好きなことしてるよ?」
「助かったのよ。今日、一人、用事ができちゃって」
「ああ。なるほど」
人手が足りずに困っていたところに、アルカがやりたい! って名乗り出たんだろうなぁ。
「午前だけだから、午後からはアルカちゃん、返すわよ」
「いやべつに。借りるとか返すとか、そういうものでも……」
それって、なにか……。
僕が独占欲の強い彼氏みたいな言われかたしてない?
「ご注文はー♪」
アルカが言う。楽しそう。
「ええと。Aランチで」
「らんちってのは、ありませーん♪」
アルカがおどける。
つい、言っちゃうんだよね。ランチって。でもここにあるのは定食。
「いつもので!」
「はーい。A定食ひとーつ! おねがいしまーす!」
アルカは厨房に声を投げる。明るい看板娘って感じー。
……はっ!
僕はそこで、重大なことに気がついてしまった。
いま注文を「いつもの」で通した! 通してしまった!
うっひょおおお――っ!
キタ!? きましたか!? これっ!?
異世界常連さん! きましたわー! これはあぁぁっ!
のけぞって、エビ反ろうとしたところで、はっと気づく。
これ。異世界関係なかったわー。
常連客であれば、現代世界でもやれることだったわー。
「…………」
「ん? なに?」
注文を受けたはずのアルカが、まだそこに立って、期待する顔を向けてくるので、僕は聞いた。
「お金。ちょうだい」
「あっ、はい」
先払いだったねー。
銅貨10枚を、両手を揃えて差し出してきたアルカの――手の上に並べる。
なんか、パーティ仲間にお金を払うって、変な感じがする。
「銅貨10枚。たしかにいただきましたぁ♪」
そう言ったアルカは、まだ立ち去らない。
期待するような目を、僕に向ける。
「ん? ん? ん? ……なに?」
「あのぅ。チップいただけるとぉ。嬉しいんですけどぉ」
科を作って、アルカが言う。
普段、ぜんぜん言わないような、語尾に「♡」でもついてるような、媚び媚びで――。
「――へんなこと教えないでよね! リタでしょ! ぜったい!」
「それ必殺よぉ?」
「だめだよ。効かなかったよ。――つぎはなぁに? どうしよう? 前屈みになるんだっけ? さっきのどうやればいいの?」
「アルカにへんなこと教えるの禁止! 払う! 払うから!」
チップも払った。
銅貨1枚を、アルカに手渡す。
「ううん」
でもアルカは首を横に振る。
僕に銅貨を返してきちゃう。
「こっち」
と、自分の胸元を指し示した。
なん……、だとっ!
ざわっ……!?
僕は総毛立った。
アルカの胸元に、チップ差し入れていい……だとっ!?
合法……!? だとっ……!?
アルカはいま、リタと同じ、給仕娘の服を着ていて――。
胸元の大きく開いたその服は、双丘の上半分くらいが露出していて――。
アルカのおっぱいは、リタよりはたしかに小さいけれど、それでも山と山が――、双子の丘陵が、確かにそこに存在を主張していて――。
僕は震える手で銅貨を摘まむと、その谷間に、銅貨を差し入れた。
「あれっ? 冷た――!? ヤダなんかどっか落ちた! 入った! 冷たい冷たい! 取って取って取って!」
「ああ! 脱ぐな! ここで脱がない! アルカ! ステイ! ステイステイ!」
胸に差し入れた銅貨が、すとんと、お腹のほうまで落ちてしまったらしく――。
アルカは大騒ぎをした。
僕も大騒ぎした。その場でお腹を出そうとするから、必死で止めた。
他の人に見せるわけにはいかない。
酔っ払いのおじさんが寝ているけど、あれがもし寝たふりなら――いいや! 彼が男であるかぎり、それは寝たふりであるはずだ!
「あはははーっ! ウケるんですけどー」
リタが笑っている。体をくの字に折って、超、笑ってる。
「ざぁんねん。チップもらうの、失敗ねー」
「なんで落ちるの……」
アルカは釈然としない顔。
「どーれ? おねーさんが、ひとつ、お手本を見せてあげましょーかー」
なに言ってるんだろう。この人。
アルカにチップを払う理由はあっても、給仕してない人に払う理由はないんだけど。
「ねぇ、ボクぅ? おねーさんにも、チップ、くれなぁい?」
リタは言う。手を伸ばして、僕のうなじを撫でてくる。
だが僕は――。
「くれません」
「ちょうだい♡」
「あげません」
「ねえ? 銀貨1枚でいいからぁ♡」
うわ、マジでちょっと勘弁して。
銅貨であれば、いつもチップで出してるけど。最大16枚まで記録を伸ばしているところだけど。食事代よりも、チップのほうが多いくらいだけど。
でも彼女の生い立ちを考えて、素直に寄付している。
でもね? さすがに銀貨はないでしょう?
銀貨1枚って、1万円だよ? イチマンエン。
オムライス食べて1万円払う、某中学生ヤクザみたいな真似を、この僕にしろと?
「おとといきやがれ」
僕はNOという意志を言葉に込めて、断固として、そう言った。
「あっ。ちなみに? 銀貨差し入れる場所は、違うところね」
「へ? 違うって?」
リタは僕の正面に立つ。
スカートの裾を、左右の手でつまんで、持ちあげはじめて……。
「銀貨をね……、差し入れる場所はねぇ……、こっちのぉ……」
スカートの裾が。持ち上がる。上がっていく。
一ミリずつ……。そして一センチずつ……。
もともと短いミニスカートだ。
十センチほど上がると、もう、下着が見えてしまいそうで……。
「ま、まさか……、挟むって……」
僕はわなわなと震えながら聞いた。
「紐のところにお願いね」
ぱんつ見えてる。ぱんつ見えた! 紐パンだった!
紐!? 紐おぉ!? 挟んじゃっていいのッ!?
紐パンの、その紐のところに、銀貨を差し挟めと! そうおっしゃるのですね!!
イエス! イエス! イエス!
激しいまでにイエス! 震えるほどイエス!
異世界転生師レン!
僭越ながら! 挟ませていただきまっす!!
僕が銀貨を差し出したところで――。
「おやめなさい」
ごっちーん!
「いったあぁ――い!」
リタがうずくまっていて――。
そしてゲンコツを落としたミレーヌさんが、鬼の形相で立っていて――。
「いいかげんに! なさい! ここはそういう店では! ありません!」
ごつごつと、ゲンコツをリタの頭に振るう。
痛い。痛い。痛そう。やめてあげて!
「お姉様! ああ! お姉様っ! お姉様もっとお!」
こっちはこっちで、なんか、ダメっぽい。
肩を震わせるミレーヌさんは、その目を、きっ――と、僕たちに向ける。
僕とアルカは、抱きあって震え上がっている。
「……理解はしますが。……ほどほどにしましょう」
「は、はいっ」
ほどほどにした。
ランチ――じゃなくて定食がきたので、無言で食べた。
なんだか味が全然わからなかった。




