第28話 四畳半完成! と、アルカに水浴びに乱入されて……
「そっちゆっくり曲がってー」
「んしょ」
「はいオッケー。オーライ。オーライ」
「んしょ。……おーらい、ってなに?」
二人でクローゼットを部屋に運びこむ。
大きな衣装ダンスなんだけど、見た目よりもぜんぜん軽く感じる。発泡スチロールでも持ってる感じ。なんだか不思議。
異世界にきて、連日、ドブさらいをやって、鍛えられちゃいましたか?
「ここにする?」
「こっちがいーい?」
「こっちがいいんじゃないかなー?」
「やっぱこっちだよ」
二人で、あっちでもない、こっちでもない、と、クローゼットをひょいひょい移動させて(軽いし)――。
ようやく位置決めして、設置を終える。
これで最後のパーツが揃った。
椅子とテーブル。あと私物を入れる宝箱。これはこだわり抜いた特注の逸品。ダンジョンにある、まさにあれ!
あと、僕はいらないんだけど。クローゼットを買うことにした。アルカのために。
観察していると、アルカって――。街ですれちがう女の子の服とか、よく見てるんだよねー。
あと給仕の服に「かわいい」って言ってみたり。
女の子だから、やっぱ、服に興味があるんだと思う。
でも僕たちは冒険者だから、背嚢に入れて持ち運べる分だけしか、財産を持てない。
部屋も毎日引き払うから、余分な荷物は一切ない。
服だって、着の身着のままに近い。洗濯したら、乾くまで毛布にくるまっていたりする。さすがにぱんつくらいは換えがあるけど。
でも僕らはもう自分たちの部屋を持っている。
お金も、普通に暮らす分には心配いらないぐらい稼げてる。
なら、すこしくらい、アルカがおしゃれしたっていいよね。
そう思って、クローゼットを買いに行った。
アルカは「ありがと」って笑顔をくれた。
銀貨が飛んだけど、笑顔に比べたら、ぜんぜん安いものだった。
「からっぽだー」
「まだなんにもないからねー」
クローゼットは、まだからっぽ。しまうものが、なんにもない。
でもこれで、僕たちの大四畳半は完成だ。
……〝大〟ってつけると、ひょっとして、関係各所から怒られちゃう?
じゃあ、〝大〟は抜きで。ただの四畳半で。
「僕たちの四畳半! 大完成ーっ!」
「はーい。ターッチ!」
アルカがハイタッチしてくる。
でもアルカのハイタッチって、なんか、ちがうんだよね。かけ声が。
「ハイタッチ!」じゃなくて、「はい! タッチ!」のほうなんだよね。
まあ。いいんだけど。
「汗かいたねー」
アルカが言う。僕も汗をかいていた。
まえにメイカちゃんに、「おにいちゃん。くちゃい」と言われて凹んだ。
アルカに言われちゃったら、もっと凹む。
さっさと汗を流しておこう。
「あ。うん。僕。水浴びしてくる」
「うん。いってらー」
アルカは木彫りのフクロウを、あっちに置いて、こっちに置き直して、ポジション決めに余念がない。
「あとでわたしもいくー」
背中に掛かったアルカの声に、「ん?」と思ったりもしたけど。僕は階段を下りていった。
◇
ばっしゃー。ざばー。
水桶を、井戸に落とすときが、ちょっと楽しい。
ひゅー、ぽっとん。
そして水を汲み上げるときが、これが結構、難しい。
桶って水に浮くよね。木製だから。当然ね。
揺すってやって、水面で桶が横になった瞬間にタイミングよく引き上げないと、うまく水が入ってくれないんだよね。
達人のメイカちゃんなんかは、手首のスナップ一発で、満タンの水桶を引きあててくるけど。
「おにいちゃん、はい、ざばー」って、確信犯的幼女に介護してもらえないときには、自分でちまちま汲まないとならない。
そのうち、手押しポンプで無双するかなー?
レバーを上げ下げするだけで水が汲める便利なポンプ。昭和の井戸についていたような人力で動かすアレ。
構造は概ね、覚えているんだよね。あとは鍛冶屋さんあたりの協力を取り付ければ――。
隣のブースに誰かきた。
ざばー、ってやってる途中で目が開けられかった。
しゅるしゅると衣擦れの音が聞こえるあたりで、また綺麗なお姉さんかなっ? と期待をこめて、チラ見してみれば――。
「え? アルカ?」
「レン。せっけんかしてー」
ちょうど、真っ裸に脱ぎ終わったアルカが、手を出してくる。
「え? え? え?」
「せっけん」
「あ、はい」
僕は唖然としながらも、石鹸をアルカに手渡した。
「これいいよねー。すごいよく落ちる。あわあわー♪ あははー♪ たっのしー♪」
アルカは屈託もなく笑いながら、石鹸を泡立てて遊んでいる。
幸運兎堂に丸投げした石鹸は、錬金術師の協力で、完成に至っていた。
ラジオメーターはまだ苦戦しているのに、石鹸は、あっけなく開発が終わった。
なんでも? 草木灰で作った石鹸は泡立つことはなくて、固化もしないということを突き止めたらしく?
僕の「本当は水酸化ナトリウムを使うんですけどね。アルカリならなんでもいいみたいで」――と、アリスちゃんがすべて完璧に一字一句までメモっていた雑談の中の言葉のうち、特に「アルカリ」と「水酸化ナトリウム」がヒントとなって、「カリウム石鹸」ではない「ナトリウム石鹸」のほうで、完全実用化に至ったとか? あと最後に塩を入れて析出させることがポイントだとか?
正直、錬金術師さんが、超優秀ってこと以外、僕にはよくわからないけど。
石鹸が安定して手に入って、僕はとても助かる。
幸運兎堂の現在の売れ筋商品にもなっている。
家事を担う奥様方の、大行列が出来るほど。
庶民御用達。無香料石鹸は、一個、銅貨5枚。
富裕層御用達。香水入り石鹸は、一個、銀貨5枚。たっか!
貴族御用達。竜涎香入り石鹸だと、一個、金貨5枚……。バッカじゃないの?
でも僕の懐には、銅貨の1枚も入ってこない。
売上金のすべては、スラムの炊き出しのための基金に積み立てられる。僕の懐には、銅貨1枚も入ってこない。
――そういう契約である。
エリスちゃんには、「ばっかじゃないの。ばっかじゃないの。ばっかじゃないの」と、ばっか三連発で、ご褒美を頂いた。
売り上げマージン制で契約を結んでおけば、売り上げの2割から5割――。
一個売れるたびに、銀貨や金貨がざっくざく――になっていたんだけど。
でもそれ、楽しくないよね?
たとえば、ほら?
ゲームなんかで、コンシューマー機だと無理なんだけど、PCだと、MODとかの改造コードを使って、レベルMAX! アイテムMAX! 所持金MAX! とかにできたりする。
あれ、なにが楽しいんだろう? って、昔から思ってた。
だって全部MAXでしょ? もうなにも上がる余地がないよね?
じゃあ、遊ぶとこ、ないよね?
せっかく異世界きたんだし!
楽しまなきゃ! 遊ばなきゃ! 冒険しなきゃ!
「はい。ざばーって、いっくよー」
アルカが、ざばーって、水をかけてきた。
石鹸をいつ返してもらったかも覚えてないけど。僕は無心で自分の体を泡立て続けていたっぽい。
なにするのっ! せっかく現実逃避してたのに!
「ほらそこ。あわあわ残ってる」
アルカは衝立越しに手を伸ばしてくる。
うわわっ! おっぱ――! おっぱい見えてる!
アルカのおっぱい見ちゃったぁ!
「自分で――自分でできるからあぁ! おおおお願い! 自分でやらせてくだちい!」
「くだち? ……いいけど? ちゃんと耳の後ろまで洗うんだよ?」
「洗うから!」
なんで! だから! なんでなんでなんで! アイエエエ!
なんでアルカは平気なんだろう?
そりゃ、このあいだの綺麗な金色のお姉さんも、平然としていたけど。
それは大人のお姉さんだからであって! 「ふぅん。ボク。興味あるのね? かわいいー」とかいう! きっと大人の余裕からくるものであって!
僕は混乱しながらも、ちら、と、衝立の向こう側のアルカを見やる。
本当に平然と体を洗ってる。なんなら鼻歌まで歌ってる。
僕は見た。
衝立の上に、白い布が、置いてあるのを。
アルカのぱんつだ。
ぱんつ! ぱんつ! おぱんつ!
アルカは白だった。
いや、そこはどうでもいいけど!
「レン。せっけんかしてー」
僕は石鹸を渡した。
「かえすー」
受け渡しのたびに、おっぱい見えちゃう。
アルカのおっぱいは、リタみたいに大きくはないけれど、ちょっと小生意気な感じでつんとしていて――。弾力係数がとてもとても高そうで――。
おっぱいとは、すべからく敬われるべきものであり、大きくて柔らかいおっぱいも、張りのある硬めおっぱいも、メイカちゃんのちっぱいも、すべて尊いのであった。
おっぱい評論家として、僕はそう結論づけた。
これは僕が特別なのではない。思春期の少年は、全員が、おっぱい評論家なのである。
おっぱいが嫌いな男子など、いないのだ!
アルカが、不意に言う。
「うんん? ……さっきから、レン? なにかみてる?」
「ミテナイヨ」
僕はまったく平静かつ、限りなく自然に、返事をした。
「みてるよー?」
「ウウン。ミテナイヨ」
これほど自然に返事ができるのは、僕が紳士であるためだ。
「自分だけずるーい。わたしも見るー」
衝立を越えて、アルカが乗り出してくる。
僕の裸を、じっとりと視姦する。
「きゃーっ! 見ないでーっ!」
僕は悲鳴をあげた。体を隠す。
男の子の場合、隠す部分は一カ所だけで済むけど。
「あはは。レンがへーん」
「変じゃないよ! 変なのはアルカだよ!」
「レンはいつも、へーん」
その後も、水浴びは続いた。
逃げ出したら、なんか、負けだと思った。
「はい。ざばーって、いっくよー」
水汲みが下手な僕にかわって、アルカは何度も水をかけてくれる。
そのたびに、おっぱいが震えて――。いや弾力ありすぎて、震えないんだよね。
ぷるぷる。じゃないんだよね。ぷる。で止まるんだよね。……! 止まるんだよ!
揺れが一瞬で収束するのっ!!
1、2、3、5、7、9、11、13……。
僕は素数を数えることで、自分の暗黒邪竜を封印するので、精一杯だった。
暗黒邪竜が、もしも目覚めてしまったら……。
それを見られてしまったら……。
もう……、死ぬしかないので……。
◇
水浴び終えて、夕食も終えて、いつものように一つのベッドで――。
ベッドも、もう一つ買おうと、アルカに懸命に提案したんだけど。「や!」の一言で、にべもなく。
結局、一つのベッドで同衾が続いている。
最近は、眠れないことはあまりなかったんだけど。
「おやすみー……、すう」
三秒で寝てるアルカの隣で、僕は身を強ばらせて天井を見つめていた。
今日だけは、眠れそうにない。
だって。さっきたくさん見たおっぱいが、そこにあって。二つとも存在していて……。
アルカはいつもみたいに、布団の中で僕の手を探りあてて、握ってきていて……。
こんなの……。眠れるわけが……。絶対……。むり……。
……ぐう。




