第24話 契約上手なエリスちゃん
いつもの宿屋――『赤竜の吐息亭』というんだけど。その食堂に行った。
食堂では、いま、昼に軽食と喫茶をはじめている。
この「喫茶」というのも、僕が提案してはじまった。
これまで「食事」と「酒」を出す店はあっても、「お茶」や「お菓子」を出す店はなかったらしい。
わざわざ「お茶」にお金を出すとか、その発想がなかったみたい。
お菓子のほうは、この世界、種類は少ないし、砂糖が高いから、甘いお菓子もあんまりないんだけど。
新しい概念で物珍しかったせいか、それなりにお客さんが入っている。近所の人のくつろぎの場になっている。
井戸端が食堂にスライドした感じ。
「ああっ……。ああ、すごいですわー。待ってくださいませ。いまメモしてしまうので……!」
二人のうちの、どっちが来るかで、わちゃわちゃ揉めていたけど。
結局、こっちの子が来ることになった。もう一人のほうは、お店に残って店番である。
奥のほうの落ち着けるテーブルを取って、お菓子とお茶を振るまってあげたら、ふんすふんすと大興奮である。
先ほど漏らしてしまった、「カチコチ玉」と「ラジオメーター」と「スノードーム」の構造を、覚えているかぎり語る。
イラストもまじえて、できるかぎり説明する。
カチコチ玉は、あれは、運動量保存の法則によって、両端の鉄球が弾き出される仕組みだから、すべての玉の重さを完全に同じにしないといけない。それ大事。と特に注釈を入れる。
スノードームあたりは、「中身が水か油かわからないから、作る人が工夫してみてね」と念を押しておく。
ガラスはこの世界にもあるみたいだから、ちょっと高級品になるかもしれないけど、そんなに難しくはないと思う。
ラジオメーターに関しては、あれはたしか、風車みたいな羽根に光があたることで、そのわずかな力で羽根車が回る仕組みのはず。支軸を針にして、よく尖らせて摩擦を減らすことと、あとガラス球体のなかを真空にすることと、二点が最重要と記した。
「真空」の概念を伝えるのは難しかったけど。ガラスの中の空気を抜いて抜いて抜きまくれば、きっと真空になるはず。錬金術とかなら、きっと、そういうこともできるはず。
わからんけど。開発がんばれ。
あと、オセロ……は登録商標になっちゃうから、名前は正しくはリバーシか。
あれはどうしよう?
はい! 異世界定番! 知識チート! きましたあぁーっ!!
リバーシ無双ううぅぅ――っ! はじまっちゃう!?
……またこんどにしよう。
大興奮しすぎたこの子が、鼻血を噴いて倒れちゃいそうだし。
「ところでさ……」
「はい! なんですの!?」
僕は、さっきから、ずっとずっと気になっていたことを、聞いてみることにした。
「……なんでエリスちゃん。アリスちゃんのフリをしてるの?」
「えっ?」
彼女は、一瞬、固まった。
それからすぐ再起動して――。
「いいえ? わたくし。アリスですけど? ――ほら」
首とウサ耳リボンをふるふると振って、胸のネームプレートを見せてくる。おっぱい、そこそこあるよねー。
――じゃなくて、ネームプレートには、はっきりと「アリス」って書いてある。
「わざわざネームプレートまで換えて……」
僕は苦笑い。
「ですから! アリスですわ!」
「またまたぁ」
僕は手をぱたぱたと振った。
最初に会った、おっとりと上品なのが、アリスちゃん。
エリスちゃんは後から出てきた子のほうで、気が強そうで生意気そうなメスガ……ではなくて。げふんげふん。まあそんな感じの子のほう。
なんで口調までアリスちゃんの真似をしているんだろう。
この目の前のエリスちゃんは?
「……」
アリスちゃんのふりをするエリスちゃんは、しばらく、うつむいていたあと――。
「……なんで、バレたの?」
「え? そりゃわかるでしょ」
「だから! なんで!」
「そりゃ……、ねえ?」
アルカに顔を向ける。
「うん。においが、ぜんぜんちがうよ」
「香水だって同じの付けてるわよ! てか! 動物っ!?」
どうやらアルカさんのほうは、別の意味で見抜いていたらしい。
「服だって髪型だって完璧に同じで! 癖だって話しかただって、完コピしてるのに! なんでなんで!」
「えー?」
そんなこと言われても……。
「だって明確に違うじゃない?」
「だから! どこよ!」
そう言われても……。
「えー? なんとなく?」
うん。なんとなく。明確に違うよね。
「なんとなくで見抜くなーっ! バカーっ! チンカスーっ!」
メスガキのエリスちゃんは、言葉がよろしくない。
まあ、泣いてる子に、そんなことで怒ったりしないけど。
でもそんな、泣くほど……?
「親にだってバレたことないのに!」
ああ。なるほど。理解理解。
二人はこの入れ替わり遊びを、ずっとやっているんだ。
それではじめて見抜かれて、だから悔しがっているんだ。
「なに笑ってんのよ!」
「ごめん。子供らしくて……ぷぷっ」
「子供扱いされたー! 笑われたー!」
「いや愛でてるから……ぷぷっ」
「愛でられた!」
だって。かわいらしくて……つい。
親戚のいとこの子が、いたずらバレてしゅんとしてる――みたいな?
愛でるしかない。
「く、悔しい……! これまで一人しか……! カインさんにしか見抜かれたことないのに!」
「なんだ。はじめてでもないんじゃない」
ねえ、と、アルカに同意を求めたんだけど……?
なんか、アルカの様子が変? 固まってる?
あれ? そういえば、いまの〝カイン〟って名前……。どこかで聞いたような?
なんだっけ? 思い出せない。
まあいいか。
「はい。クッキー。はい。ドライフルーツ。はい。塩ラスク」
泣いてる女の子には、お菓子に限る。いとこの子もいつもそれで直ってる。
メイカちゃんと連携して、せっせとお菓子を並べていく。
「……もぐもぐ」
エリスちゃんは、お菓子に夢中になった。泣くのを忘れた。
◇
その後、「けいやくしょ」を取り交わした。
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けいやくしょ
一.エリスとアリスは、レンから許諾を受け、小物3点を製作する。
二.幸運兎堂にて販売された利益のうち、2割をレンに支払う。
三.レンはアイデアを他の店に売らない。
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エリスちゃんが、精一杯、頑張って、それっぽい言葉回しで「けいやくしょ」を作った。
ここ「契約書」じゃなくて「けいやくしょ」になってるのが、なんかおもしろい。
異世界言語自動翻訳でそう読めるわけだけど。言葉が子供っぽくてそう翻訳されてるのかな?
エリスちゃんは、むふふー、とほくそ笑みながら、「けいやくしょ」を手に帰って行った。
「レン? よかったの? あれ?」
「いいんだよ」
僕としては、できあがったものを一個ずつ買わせてもらえば満足だ。
エリスちゃんが「けいやくしょ」に仕込んでいた罠は、「売り上げ」ではなく「利益」としていたところ。
僕の取り分は、売り上げの二割ではなくて、利益の二割になるんだよね。
たとえば、「原価が高くて利益はゼロだったから、渡すのはゼロねー♡ ざこざこー♡ ざぁんねん♡」とかやられても、こちらは文句が言えない。
いいんじゃないかな。
彼女たちのお小遣いにしてくれれば。
……とか、思っていたんだけど。
つづきます




