第23話 幸運兎堂の双子姉妹
「幸運兎堂……」
アルカと二人で、店の看板を見上げる。
擬人化された兎娘が、ぱちんとウィンクしている絵の描かれた看板。
なんと萌えキャラである。
幸運兎堂の文字のほうは、よく見てみたが、異世界語で書かれていた。
よほど注意して目をこらさないと、漢字に見えてしまうのだった。言語翻訳機能的なナニカが、きっと働いている。
あと見方を変えると、「ラッキーラビット」とも見えたりする。
幸運兎堂のほうが趣があるので、そっちで見えるように意識する。
「雑貨屋さんかな? 入ってみる?」
テーブルと椅子はもう買った。
あとで宿に届けてもらえる。
ザ宝箱! ――的な収納家具は、そんなんねえよ、と言われたので、特注で頼んでおいた。
鍵がついていて、蓋が丸くてアーチになっている木箱。
単なる鍵付きの直方体の箱ならあった。でもアーチの丸い蓋のアレはなかった。
なんでアーチなんだ? 四角でいいじゃん。――と、若い家具職人さんは釈然としない顔だった。さんざん説明しても、「家に置くんだろ? おまえ輸送業者か?」と、取り合ってくれないので、「そこ大事!」とイナバウアーして念入りに説得したら、やっと折れて、特別に作ってもらうことになった。
あとはなにか、部屋を飾る小物がほしい。
――と思って歩いていたのだが、どうも異世界の調度品は実用一辺倒で、「飾る」という観点が非常に乏しかった。
貴族向けの店とかなら、そういうのもあるんだろう。
でも貴族から難癖つけられるイベントは、たしかに異世界定番10選ではあるけれど、銅札《Fランク》には、まだちょっと早すぎる。
「ごめんくださーい……?」
ドアを開けると、からんからんとベルが鳴る。
お? いい雰囲気。なにかいい物が見つかりそうな予感。
「いらっしゃいませぇー」
大きなリボンを頭に付けて、ゆるふわな金髪を背中に流した、綺麗な顔立ちの女の子が店番をしている。
リボンの結んだ先が、ぴんと立ちあがっていて、それがウサギの耳のよう。店の名前の兎堂に掛けているのかも?
かわいい。
はい! 異世界商店! 看板娘いただきましたーっ!
「レン。怖がられるから、いまはやめよ?」
もっと盛り上がりたかったけど、アルカに腕を押さえられ、釘を刺されたのでやめにする。
店の中は、小物がたくさん置かれている。
雑貨屋を期待したが、本当に雑貨屋だった。
なにを言っているのかというと、現代世界にあったような、小物やインテリアばかりが並んだ「雑貨屋」でなくて、異世界の実生活で必要な「雑貨屋」だったということだ。
包丁。鍋。ロープ。ランプ。ランプ用の油。大袋。小袋。包帯。砥石。ほくち箱(火をおこす道具一式)。冒険者が着るような外套。などなど。
街の人の日用品も多いけれど、冒険者御用達の道具類も充実している。
雑貨屋というよりも、これは小さなホームセンターだ。
「うちの店って、あの〝グッドイーター〟の方々もよくご利用なされるんですの」
売り子の女の子が、ゆるふわな外見を裏切らず、上品に話す。
はい! ですの! いただきましたぁ――!
……って、わかってる。わかってますよ? アルカさん? 怖い目で見ないでね。
グッドイーター? ……とかいうのは、どこかの有名なパーティー名なのかな?
しらんけど。
「へー、いろいろあるー、これかわいー、そっくりー」
アルカが手の上に乗せているのは、木彫りのフクロウ。
装飾品といったら、そのくらいしかない。
「おいしそー」
おいしそうですか。そうですか。フクロウは愛玩動物ではなくて、食材なんですね。
フクロウ以外には、クマとかもあるけど。木彫りで素朴なものばかり。
冒険者用品には興味があったけど、これはちょっと外したかなー、と、思いはじめていたところ……。
「なにかを、お探しですの?」
「ああいや……」
僕は言い淀んだ。
言っても、たぶん、ないよね。
たとえば部屋に、ちょっと気の利いた小物を――。
ほら? あれって、なんていったっけ?
パチンコ玉くらいの鉄球が、数個くらい、糸で吊り下げられていて……。端っこの一個を持ちあげて離すと、カチコチって、ずうっと動き続けていたり。
僕は勝手に「カチコチ玉」って呼んでるけど。
あと、なんていうのかな? ガラスの球体のなかに、羽根車があって、日光にあてると、くるくる回り始める不思議なオブジェとか。
ラジオ……? ラジオ、なんとか。ラジオメーターだっけか?
あとは、そうだなぁ……。
これはすぐに名前が出てきた。「スノードーム」だ。
油だか水だかの入ったガラスのなかに、小屋とかが建っていて、液体のなかにはキラキラする小さな破片とかが入っていて、一度逆さまにしてから戻すと、雪が降ってくるみたいに綺麗な置物で――。
「素晴らしいですわ! ぜひそのアイデアを使わせてくださいませ!」
考えこんでいたら、女の子が、前のめりで叫んでいる。
なんでなんで? アイエエエ!?
「いまつぶやかれていたそのアイデア! ぜひもっと聞かせてくださいませ!」
手、握られる。
あっ。柔らかい。
女の子に手を握られたの、フォークダンスのときを除いて、アルカについで二人目だよっ!
この子は僕の人生で二人目の女の子だっ!
「カチコチ玉にラジオメーターにスノードーム! ああ! 名前だけでも、なにか儲かる予感がいたしますわ!」
しかし――。僕って……。
いつから声に出していないと錯覚していたッ――!?
もうなにか絶対に手を離してもらえない感じなので、素直に店の奥に連行される。
「エリス! エリスーっ! きてきて! 早く! 逃がさないでッ!」
はい。逃げられませんー。とらまえられましたー。
手を握られるだけでなく、ぎゅーっと腕にしがみつかれてホールドされていた。
押しあてられる柔らかい感触から、逃げられましぇん。逃げる気がおきましぇん。
この子、年下だけど、けっこうおっぱい、あるよね?
「あっほら。ねぇレン? こういうとき、〝あれぼくなんかやっちゃいました?〟――って言うんじゃないの? チャンスだったんじゃない?」
アルカが言う。はっとなる。
ガッデエェ――ムッ!
そうだ! そうだった! そうだったあぁ――っ!!
異世界転生師レン! 一生の不覚ッ!!
「なによ。もう。うっさいなぁ」
僕が血の涙を流していると、奥から、ぴょこっとウサ耳が出てきた。
ウサギの耳のようにリボンを立たせて、出てきた女の子は――。
「ドッペルゲンガー?」
「妹ですわ」
ええと、こっちの僕をホールドして離してくれない子は、胸のネームプレートによると「アリス」ちゃん。
そのアリスちゃんと、まったく同じ顔と服装と髪型をした女の子が、もう一人現れてきた。
「わたくしがアリスで――」
「――わたしがエリスよ」
ゆるふわな子がアリスちゃん。ちょっと気の強そうなほうがエリスちゃん。
看板娘は、一卵性双生児のダブル看板娘だった。
彼女たちは、僕やアルカより、一つ二つ、年下ぐらいな感じだ。
二人でカウンターの内側にしゃがみこんで、こしょこしょと相談をはじめている。
耳だけがぴょこぴょこと動いて見えて、なんか、和む。
(すご……アイデア……)(えっ? あのぼんやりしたのが……)(ぜった……逃がさな……)(特許を…って)(バイト代……あがるかも)
こしょこしょ話す内容が、なんとなく漏れ聞こえてくる。
欲望なんかも見え隠れしているけど、それも含めて、なんとも可愛らしい。
……とか思っていると。
「あのっ! もっと詳しくお話を聞かせて――」「――いただけると嬉しいですわ!」
「店には置いておりませんが――」「――特注で作ることもぜんぜん可能だから!」
双子がシンクロして話す。器用だね。君たち。
うーん。どうするか。
僕も欲しいし。この子たちがそれで儲けることもかまわないし。そもそも僕のアイデアでもないんだよね。あっちの現代世界の、昔の誰かが考えたものだし。
ただ問題は……。
「アルカ、いい?」
「うん。話すなら、宿の食堂がいいんじゃない?」
まったく残念がっていないアルカの態度に、がっくりとなる。
せっかくの「デート」だったんだけどねー。
ごめん。そもそもデートじゃなかったねー。
……すん。




