第22話 僕たちの四畳半
朝。
宿を出る前に、アルカが言う。
「ねえ。レン聞いた?」
「なにを?」
「ここの宿、長期で借りれば、部屋に物を置いてもいいんだって」
「へー」
いいことを聞いた。
これまでは一泊一泊、部屋をあとにしていた。
立つ鳥跡を濁さずの方針で、全部持って宿を出る。
私物は一切、置いておかない。
また夕方には帰ってくるけど、そのとき取れる部屋が同じ部屋とも限らない。……まあ実際は、ずっと同じ部屋にしてもらえているけど。
最初に僕が借りた部屋。ずっとそう。
「おにいちゃん! 一生住むの?」
メイカちゃんが聞きつけて、駆けつける。
「一生は住まないよ。でもそうだなぁ。一ヶ月……じゃなくて、とりあえず30日くらいで」
この異世界。曜日はあるっぽいけど「月」って単位がないんだよね。
「おいくらですか?」
パパーとやられて、ぐるんぐるん愛娘を回しているおやっさんに、料金を聞く。
「タダだ」
「それはなしって、約束しましたよね?」
「じ、じゃあ……、30日で銅貨450枚だ」
「ほらアルカ。算術出来ないと、こういうふうにされちゃうんだよ?」
「ん? どしたの? レン」
「おやっさん。一泊20枚で30日なら、銅貨600枚のはずですよね?」
「うっ……」
「パパ! ぼっちゃだめー!」
「メイカちゃんも算術お勉強しないとね」
これはぼってるんじゃなくて、サービス過剰のほう。おやっさん、まーた、こっそり値引きしてる。
「一泊20枚だって、それって、ずいぶん値引きしての料金でしたよね?」
「うっ……」
もう奥さんもメイカちゃんも宿の仕事をしているから、サービスは普通の宿と同じ。
通常料金がいくらなのかは聞いてないけど、たぶん、一泊銅貨4、50枚にはなってるはず。
恩人値引きとしたって、引きすぎだ。
「はい。30日分。銀貨6枚」
銀貨6枚を払う。グローブみたいな掌に並べる。
しかし……。
銀貨6枚。あっさり払えちゃうとか、僕らも出世したなぁ。
まださすがに、一泊銀貨2枚なんていう高級宿には、泊まれないけど。
でもお風呂、あるんだよね……?
お風呂好きの日本人が、お風呂に入って感動するって、異世界に来たらやってみたいことトップ10だよねー!
「しかし」
「しかしはないです」
「エレナに怒られる」
「怒られてください」
恐妻家のおやっさんを置いて、僕たちは宿を出て行った。
◇
街中を歩いて、ギルドに向かう途中で、僕は足を止めた。
「予定変更しようか?」
「うん?」
アルカは、きゅるんと小首を傾げる。
「今日はお休みにして、買い物しようよ?」
「なに買うの?」
「部屋に置いていいのって、私物以外もいいんだよね? だから家具とか」
「家具?」
「ほら。テーブルとか椅子とか。貴重品をしまう箱? 宝箱みたいなやつ」
「宝箱ってのは、わかんないけど。テーブルはあるといいねー」
「だよねー。なにかあると、いつも床だもんね」
話ながら、アルカと一緒に、ギルド方面ではなくて、商店街方面に方向転換する。
「なに置くかな? 四畳半ぐらいあるから。けっこう置けるよね」
「四畳半?」
アルカは首を傾げる。
なるほど。異世界の人には、四畳半はピンとこないだろう。
「あー、こっち、畳ってないんだっけ。……ええと。ベッドよりすこし大きいくらいの長方形で、それが一畳サイズ。それで部屋のサイズを測ったりするんだ」
「あー、うん、四畳半くらいだねー」
「異世界四畳半、サイコー!」
「さいこー!」
「ぼくたちのー♪ うちはぁ♪ よじょうはん~♪」
「わたしたちのぉ♪ すてき♪ ちいさい♪ よじょうはん~♪」
突然のお休みと、買い物とで、気分が盛り上がる。
即興で作詞作曲した「四畳半音頭」を二人で口ずさみながら、あげあげになったテンションのまま、アルカと二人で街へと繰り出した。




