第21話 親子の団らんと、アルカの〝ワケアリ〟の話
「パパー!」
「おおん! メイカ!」
女の子が飛びついて、それをおやっさんが抱きとめて、ふたりでくるくると回る。
娘の名前はメイカちゃん。年齢は小学校の高学年ぐらい。
もうこれ、今日で何回目かの光景。
部屋の掃除をしてきたメイカちゃんが、一階に下りてくるなり、パパを見つけるたびに飛びついて、嬉しそうに回ってる。
井戸で水を汲んで戻ってきては、パパー、とやってる。
そのたびに、ほっこりとする。
「ごめんなさいね。親馬鹿で」
「しかたないですよ。それだけ可愛いんですよ」
まだ若い美人さんが、頭を下げてくる。奥さんであるエレナさんに、僕は言う。
だってメイカちゃん。本当に嬉しそうで。
奥さんのエレナさんは、体を壊して、街の反対側にある実家で静養していたらしい。
メイカちゃんは、「あたしが宿を手伝う!」と言ってきかなかったが、母親の元にいたほうがいいだろうという判断で、一緒に実家に預けていたそうだ。
奥さんの症状は、聞く限り、なんかヤバそうな不治の病っぽいものだった。でもポーションで全快してしまうのだから、異世界スゴい。
「本当に――、ありがとうございます」
奥さんは、深々と頭を下げる。僕とアルカは恐縮してしまう。
このやり取りも、本日何回目。
「あなた! なんで恩人から宿代とってるの! そんなセコい人だとは思わなかったわ!」
「だって。だって」
「メイカもやって」
「パパひどい!」
「おおん」
山賊が泣いている。
ははは。おやっさんが意地でもタダにしようとしていたのって、もしかして、奥さんが怖かったから?
そして――。
「レン。くるよ」
「うん。わかってる」
「おにいちゃーん!!」
パパから離れたメイカちゃんが、僕に、ロケットみたく体当たりしてくる。いや抱きついてくる。
ダグラス師匠直伝の構えで、一歩も下がらず、メイカちゃんを受け止める。
このロケットタックルも、本日、何回目。
「ありがとう! ほんとありがとう!」
ぎゅーって抱きついて、ぐりんぐりん、顔をこすりつけてくる。
懐いてくれて、嬉しくはあるんだけど。
男の子的には、ちょっと困るような困らないような……?
もっと小さな子であれば、気にもならないんだけどねー。
小学校の高学年ぐらいのメイカちゃんは、微妙に柔っこいんだよねー。どことまではいわないけど。
子供。子供。メイカちゃんは子供。
心頭滅却すればイエスノータッチ。
……いやタッチしてるか。だめじゃん。
「……」
アルカさんが、じっとこちらを見つめていらっしゃる。
その目が、どうも気になってしまう。
どうしましたか? アルカさん? この紳士になにか問題でも?
「おにいちゃん、かぁ……」
「うん?」
寂しげにつぶやくアルカの声が、気になった。
ぎゅーっと抱きつくメイカちゃんを引っぺがして、ぶらーんと持ちあげて、椅子に座ってから膝の上に降ろす。
僕の膝を椅子にして、メイカちゃんは、お母さんの出してくれたおやつをぱくつきはじめた。
「……あのね。わたしにもおにいちゃんがいてさ」
「うん」
「あっ。おにいちゃんっていっても、本当の兄妹じゃなくて、同じ村のすこし年上のおにいちゃんなんだけど」
「うん」
「小さいころは、よくあんなふうに、飛びついてたなー、って、思って。懐かしくなって」
「なるほど。お兄さん。鍛えられていそうだね」
「ぷっ――、なにそれー? へんな感想ー!」
いやメイカちゃんのタックルを受けてのリアルな実感だけども?
「うちの村、子供って、わたしとおにいちゃんしかいなかったから。本当のおにいちゃんみたいに思ってて」
なんたる限界過疎集落。
「カインおにいちゃん、一昨年、村を出てさ。冒険者になるー、って」
あれ? て、いうことは……?
「じゃあアルカは、そのお兄ちゃんを頼って?」
「ううん? 違うけど。……ああいや、違わないのかな? 村を出た理由は違うけど、出てからどうしようかって考えて、おにいちゃんがここにいるって思い出して、それで来たから。でも長期遠征に出ているみたいで、まだ、会えていなくて……。それでかわりにレンと遭って……」
なるほど。それがアルカの「ワケアリ」なのかな?
まえにお互いにワケアリの「ワケアリ同盟」という話をした。
冒険者のパーティってのは、普通、故郷から出てきた幼なじみ同士で組むもので、そうでないソロ者は、みんな「ワケアリ」だという話だ。
僕のワケアリは、転生者であること。
厳密にいえば、赤ん坊になって生まれ変わったわけじゃないから、転移者なのかな? まあどっちでもいいよね。WEB小説じゃ、特別、区別しないし混同もよくあるみたい。
「お兄さんって冒険者なの? 何ランク?」
「ううん。おにいちゃん。冒険者じゃなくて、冒険者のパーティの荷物持ちをやってるんだって。あと料理番」
ポーターっていうやつかな?
異世界定番だねっ。荷物持ちも料理も、なんでもしなきゃだね!
「リーダーはすごい。魔王さまがすごい。アサシンさんすごい。……って、他の女の人がすごいって手紙ばかりで、なんか妬けちゃった」
魔王さま? 魔導王とかの間違いかな? 魔王がパーティにいるはずないよねー。
あとアサシンさん?
暗殺者がいるの? そのパーティ? ――こわっ!?
だけど魔法使いの人がいるのかー。魔導王かー。なんか凄そうだなー。〝魔王〟って聞こえたような気もするけど、きっと僕の聞き違いだよねー。
そういえば異世界きたのに、まだ魔法、見ていない。
魔法使いは、すっごいレアだそうだ。回復魔法のほうは、もっとレアだそうだ。
最低でもSR相当とかなんだろうね。
だけど……。
僕も、なにか……。「女の人と仲良くなっちゃってー」みたいな話をアルカにしたら、妬いてもらえるぐらいはするのだろうか?
……うん。「モテるねー、レン」ぐらいに喜ばれそう。
「アルカの〝ワケアリ〟の話をしてくれて……、ありがとう」
「えっ? あっ――! まだその……、〝ワケアリ〟のことは、言ってないんだけど……」
「え? ちがった?」
「でも……」
じいっと、アルカが僕の目を見てくる。〝ワケアリ〟をいま話すか思案している。
膝の上のメイカちゃんの頭を撫でながら、僕はアルカの言葉を待つ。
「ごめんね。信頼してないわけじゃないんだけど……」
アルカは、何か言いたげなまま、ぐっとうつむいた。
(……巻き込んじゃうから)
本当に小さく、アルカは口の中だけでそう言った。
僕は聞こえていたけど、聞こえていないふりを続けた。
巻きこんでくれて、いいのに。
この件は、アルカが話してくれる気になるまで、待つべきだと思った。




