第2話 はじめての冒険! 薬草採集!
「普通はね、だいたい冒険者なんてのは、村を飛び出してきた幼なじみの一行がそのままパーティを組むものなのね」
「ほー」
「だから一人で冒険者になってる時点で、相当な〝ワケアリ〟であるわけ」
「へー」
街を出て、森へと続く道を歩きながら、彼女はそう説明してくれた。
「で。わたし。ピンと来たわけ。この男の子はワケアリだっ! ――って」
「ほー」
「あれ? ちがった? わたしの勘、間違えちゃった? ……あれぇ?」
気のない返事ばかり返していたら、なんだか〝否定〟と取られてしまった。
いやー。よく喋るよね。女の子って。この子は特にそうなのかもしんないけど。
相づちのレパートリーも早々に尽きて、「ほー」「へー」「はー」をひたすら繰り返すローテーションとなっていた。
「じゃあ、普通に話せる身の上?」
「いやー……、それはどうだろう?」
考えてみる。考える。考えてみた。
異世界からやってきました。――とか、言えちゃう? それって言っていいもの?
いやべつにだめな理由も、とくに見当たらないんだけど……。
でも異世界転生や転移ものって、なんでか、自分の正体を隠しまくるんだよねー。
あれ、前から疑問だったんだよね。なんで隠すのか。
そうしたほうがいい――なんらかの理由があるのかもしんない。でもいますぐには思いつかない。
先人に倣って、とりあえず、黙っておくことにする。
「ちょっと言えないかな……」
そう言うと、彼女は、にっこりと笑った。
「じゃ。ワケアリで」
「うん。ワケアリで」
そう言って、二人で、にっこりと笑い合う。
彼女も一人者なのだから、当然、ワケアリの側のはず。
うん。ワケアリ同盟。ここに結成。
ワケアリ同士のソロ冒険者が、二人で組んだ即席のパーティで、受けた依頼は――「薬草採集」。
定番オブ定番。
異世界に来たらやりたいこと。――のトップ10に入ること間違いなしのイベントだ。
正直、ちょっと、わくわくしていた。
街の門兵さんたちに「気をつけろよー」と見送られて、街道に沿って歩くこと三十分。
田園風景も終わって、そろそろ森の端っこが見えてくる。
「ええと……、薬草は……」
森の入口に踏みこむと、もう草はそこらにいくらでも生えている。
だがそのうちのどれが薬草なのか、わからないことに気がついた。
「ねえ? 薬草って、どれか……。知ってる?」
「知ってるよお」
アルカは言った。
「すごい。わかるんだ」
「あったりまえ~」
彼女の後ろにくっついていって、もぎった草を、よく見せてもらう。
「なるほど。それが薬草なんだ」
自分でも探してみると、同じ草はあちこちで見つかった。
つぎつぎと千切っていって――ふと、手を止める。
「ねえ。これって、どうやって採集すればいいのかな?」
「そんなのこうやって」
ぶちぶちーと、豪快に引き抜いている。
葉っぱだけ取れていたり、茎ごといったり、まあ大雑把だ。
「いいのかな? それで?」
「えっ?」
僕がWEB小説を読んで培った〝異世界一般常識〟によれば――。
薬草や毒草は、それぞれ、薬効のある部位が違っていたりする。また薬効を高く保つための保存方法もそれぞれ違う。
具体的には、葉だけ採ればよかったり、葉と茎が必要だったり、花びらだったり、根っこまで採るのが正解だったり。――と、様々だ。
間違ったやりかたで採取すると、まったく無価値になったり、価値が何十分の一になったりすることも。
そのことをアルカに話してみた。
「えっ? えっ? えっ? ……どうしよ?」
手に持った葉っぱの断片を見ながら、アルカは困惑している。
村の人が採取していたのを見ていたから、どれが薬草なのか知っていたそうだが、詳しい採取法などは知らないらしい。
「じゃあさ。なるべく全体を採取すればいいんじゃないかな。根っこも掘り出してさ。――手間だけど」
「うん。そうする」
しゅんとなった彼女は、それからは丁寧に採集を行うようになった。
根っこまで掘り返して、手持ちの布を裂いて細かくして、湿らせて当てて、萎れないように気を遣う。
豪快にやるより時間はかかったものの、それでも、一、二時間もすれば、持ちきれないほどの薬草が集まった。
薬草を入れる袋を持ってきていなかったので、僕の着ていた上着を脱いで、袋がわりにする。
ジャケットが青臭くなってしまった。
◇
大量の薬草を持って、冒険者ギルドに凱旋する。
夕方のギルドは昼間と違って大混雑だった。列の後ろに並んで待っていると、ほどなく順番がやってくる。
薬草をカウンターに出そうとすると、お姉さんに首を振られてしまう。
素材の提出は、奥にある作業場のほうらしい。
「知らなかったー」
「わたしもー」
「討伐部位ですとか。また希少だったり少量だったり、鑑定が必要なものでしたら、こちらでいいんですけどね」
申し訳なさそうに、お姉さんは笑う。
逃げるようにカウンターをあとにして、奥の〝作業場〟とやらに向かった。
「うわ。解体場ってやつだ」
作業場は、いくつも台の並んだ風通しの良い場所だった。
掃除しても落ちきらない血の跡なんかが、テーブルの面にこびりついている。
髭面でガタイのいいおじさんに、薬草の束を出して見せる。
「ほう? これは坊主らで採ったんか?」
「はい。僕と彼女で」
「誰に教わった?」
気難しそうなおじさんは、ぎろっと眼光の鋭い目を向けてくると、そう言った。
ちょっとビビってドキドキする。
「ええと。特に誰にも?」
僕はそう答えた。
強いて言うなら、異世界転生モノの先駆者の方々――なんだろうけど。
「なら自分で考えたのか。やるじゃないか坊主」
ほめられた!
叱られるのかなー? 間違ってたかなー? ――とか、ビビっていたんだけど。
どうやら正解だった模様!
「最近のガキどもは、薬草採集なんて簡単だと抜かしやがる。適当にちぎってきた葉っぱを山と積まれても、小銭だってくれてやるのが惜しいが。これなら別だ」
おじさんは、にやりと笑った。
「根まで丁寧に採取してある。さらに水分も欠かしてねえ。最高の状態だ」
ばしばしばし、と、背中を叩かれる。
痛いんですけどー。
「この薬草の場合。これで正解だ」
さてアルカはどうしているかな、と思って、ちらりと見ると――。
あさっての方向に目をさまよわせていた。壁と天井を交互に見ている。挙動不審。
「何束ある?」
「ええと。6束くらい?」
「なら一束で銅貨15枚だな。ぜんぶで、ええと……、おおい! 誰か算術できるやついねえか!?」
「銅貨90枚では?」
「坊主! 算術できるのか! すげえな!」
義務教育ありがとう。九九なら小学二年生だねっ。
「またこいよー!」
銅製の硬貨をじゃらじゃらと貰って、見送りまでしてもらえた。
気難しい職人肌のおじさんに、なんだか気に入ってもらえた模様。
ありがとう。異世界転生・先駆者の方々。
ありがとう。僕の〝異世界一般常識〟。
「あー、もう! 肩身狭かったーっ!」
ギルドを出ると、アルカが溜めていた息を吐き出すように、大きな声をあげた。
ぶちぶち千切った葉っぱを持ち込もうとしていたのが、アルカだ。それをしていたら、気難しそうなおじさんは、本当に気難しくなっていただろう。
「ごめんね」
気を落としているアルカに、そう言う。
「レンが謝ることないよ。むしろ助かったっていうか。こんなになってよかったっていうか」
と言って、アルカは、両手に収めた銅貨を見やる。
十円玉サイズの銅貨がたくさん。
これって……? どのくらいの価値になるんだろう。
十円玉ぐらいの大きさだけど、まさか本当に十円ってことはないよね? 今日の稼ぎが900円とかだったら、泣けてきちゃうよ。
「うん。このくらいあれば、泊まれるねっ」
手の中いっぱいの銅貨を見て、アルカがうなずいている。
「90枚の半分って……、45枚で合ってる? ねえ算術できるひと?」
「うん合ってる」
「じゃあ、半分こ」
銅貨を半分ずつに分けた。
「レンは泊まるところ、どうするの?」
「あー、えーと……」
僕は言葉に詰まった。
そうか。そうだよね。もう夕方だし。暗くなってきてるし。
ここは異世界。
泊まるところをどうにかしないと……、野宿?
「わたしが昨日泊まった宿、教えようか? わたしもこれから行くし」
それはありがたい。
道すがら、屋台で、なにかの串焼きとパンみたいなものを買っていく。銅貨3枚也。
到着した宿で、それぞれ部屋を取る。
食事なしで一泊、銅貨20枚らしい。
これって、いくら? 高いの安いの?
う~ん……? お金と物の価値が、ぜんぜんわからないんですけどー……?
まるでわからないので、言い値でもって、先払い。
「じゃ、また明日ね」
「う、うん。また明日」
部屋の鍵を手に、隣り合った部屋のドアのところで、小さく指先だけ振ってくるアルカと別れて、自分の部屋に入った。
ベッド一つきりのシンプルな部屋だった。ベッドも藁にシーツを掛けただけの藁ベッド。
大きさは四畳半ぐらい。畳敷きじゃなくて、当然、板の間だけど。
ベッドのほかには、テーブルも椅子も、なんにもない。殺風景な部屋である。
でも異世界っぽい!
こういう異世界でいいんですよー!
藁ベッドなんて! 異世界来たら寝たみたいトップ10じゃないですか!
買ってきた串焼きとパンを食べたら、もうすることはなくなっちゃって――。
日が暮れてそこそこに寝付くことになった。灯りは別料金と言われたもので。
僕の異世界新生活、記念すべき第一日目は、こうして終了したのだった。
◇
今日は異世界に来て新生活をはじめた。
冒険者ギルドやら薬草採集やら、異世界感をたっぷり堪能できた。
異世界よかったー。




