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いずれ神殺しとなる少年 ~異世界に行って、冒険者生活を全力で満喫する~  作者: 新木伸
無ランク。割り勘サバイバル編

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第1話 異世界きた! 冒険者になってみた!

 信号が青になって、渡ろうとしたら、そこに広がっていたのは、見慣れない街並みだった。


「え……?」


 僕は立ち止まって、周囲をきょろきょろと見渡した。

 ビルもない。電柱もない。車が走っていない。道路がアスファルトじゃない。


 建物は見えるが、すべてが木造。平屋が多くて、二階建て以上のものは、あまり見当たらない。

 地面は踏み固められた土で、雨の日は大変そう。


 どこ? ここ?


「え? え? え?」


 呆然と、道の真ん中で突っ立っていると――。

 ブヒヒン! ――と、動物の鼻息で背中を殴りつけられた。


「あ。ごめん……」


 車……でなくて、馬車なのかな? これは。

 馬に引かれる荷車が、そこを通っていく。


 もうたぶん。間違いはない。

 ここは異世界だ。

 だって現代世界に馬車なんてないもの。皇室とか異次元にしかないもの。


 異世界に転生するとか転移するとか、そういう小説、スマホでよく読んでいるけど。

 まさか自分が体験するはめになるとは思わなかった。


 だけどこれって何系? 転生はしてないから転移系?


 それとも召喚?

 べつに足下に召喚陣とか現れなかったけど……?


 王様やお姫様のいる広間に召喚されて、「ようこそ勇者諸君!」とかも起きてないし……?


 なんか、ひどく地味なんですけどー。


 さて。これからどうしたものか……?

 これまでの読書により培った〝異世界一般常識〟によれば、まずは、「冒険者ギルド」を目指すものだと思うけど。


 どこだろ? あそこかな?


 街の中心地っぽい場所にある、他よりもすこし大きめの二階建ての建物に、僕は向かっていった。


    ◇


「うわぁ。冒険者ギルドだ!」


 目星を付けて入ってみた建物は、たぶん、冒険者ギルドっぽかった。


 カウンターがあって、綺麗なお姉さんが受付をしている。

 ホールにはそれっぽい格好の――武装していたり、していなかったりする、若い人たちがいくらかいる。


 面積の半分くらいは、酒場か食堂になっているっぽい。奥のほうには作業場もあるっぽい。

 壁には掲示板があって、紙が何十枚も貼り出されている。


 うん! これは冒険者ギルドだね! 間違いないね!

 僕の〝異世界一般常識〟も、そう言ってるね!


 こういう異世界でいいんだよー!


 冒険者ギルドのホールに入ったところで、きょろきょろとしていたのが目立っていたらしい。


「なにかご用ですか?」


 受付のお姉さんが、そう言った。


「しゃべった!」

「はい?」

「言葉が通じてる!」

「はい?」


 怪訝そうな顔をされる。美人のお姉さんの眉間に、縦皺が寄ってる。


「あっ、ごめんなさい! つい興奮しちゃって!」

「あら、冒険者ギルドが初めてなんですね」

「えっまあ、はい、そうなんです」


 異世界も初めてなんだけど。

 冒険者ギルドが初めてなことも、間違いではない。


「冒険者登録ですか? こちらへどうぞ」


 お姉さんの顔から縦皺が消えて、かわりに微笑が浮かんでいる。


 おのぼりさんと思われているようで、生暖かい好意を向けられる。

 おのぼりさんなのも間違いではないので、僕は素直にお姉さんに寄っていった。


 だいぶ年上の美人さんだ。26、27歳くらい?

 大人の女性なので、隣の窓口の若い子みたいに可愛い服装はしていないけど、濃い色のギルド制服がぴしりと様になっている。

 顎のあたりで鋭角に切り揃えられた黒髪のショートボブが、きりりとして、クールビューティのデキるお姉さんというイメージにぴったりだ。


 ああ。いいなぁ。

 こういうの異世界定番だよね。ギルドのデキる受付嬢のお姉さんだとか。


 こういう異世界でいいんですよー!


「冒険者制度については、知ってます?」

「いいえ全然」

「では説明から。まず冒険者には誰でもなれます。冒険者は実績によってランク分けがされます。FからAまでのランクがあると思ってください」

「はい」


 すごい! すごい! それっぽい!


「さらにその上にはSとかありますが、まあ大抵の常人には一生関係ないので、覚えなくていいです」

「はい!」


 やっぱSランクあったー! やったー!


 僕が力強くうなずいているのが、面白いのか、お姉さんはくすりと笑った。

 美人が笑うと、ほんと美人っ。


「こちらの用紙に名前と出身、得意なことや、他に特記事項があれば書いてください」


 紙がすっと差し出される。

 紙といっても、ここはなんたって異世界! 太鼓の表面みたいな手触りのする、薄っぺらい板が出てきて――。

 きっと羊皮紙というやつだ。獣の匂いもかすかにするし。


 すごいすごい。異世界すごい。


「名前は……、レン」


 羽根のペンをインク壺に浸して、びたびた垂らしながら、名前を書く。

 書いてから……。上目遣いでお姉さんを見て――。


「これ、読めます?」


 僕的にはカタカナを書いたつもりなのだが、書いていてなんか、違和感があったのだ。

 カタカナを書いているつもりで、なんか違う別な文字を自動的に書かされているような感じがあって……。


「読めますし。読めなくても問題ないですよ。本人が書いたものであれば」

「姓があったりするのって、貴族だけです?」

「遠くの方だと、部族名とか持っていたりしますけど。別に書かなくていいですよ」

「そうですか」


 姓のほうは書かないでおこう。


 特記事項は……。得意なこと? なんかあるっけ?

 えーと、異世界転生の定番だと……。〝異世界一般常識〟によると……。


「算術……、と」


 書いてから、また上目遣いをお姉さんに向ける。


「――足し算引き算掛け算割り算、十桁くらいまでの筆算と、分数と二次方程式くらいまでわかるのって、算術で、特技になります?」

「うちで働きます?」


 あっ。なるんだ。

 ありがとう義務教育。


 名前を書いた。特技も書いた。あまり冒険には役に立ちそうにないけど、記入欄は埋めた。

 あとは……。


「あれ? 年齢とか、どこ書けば?」

「べつにいりませんよ」

「いいんですか?」

「はい。年で仕事をするわけではありませんので」


 すごく格好いい言葉が、お姉さんから返ってくる。


「何歳からでも、ここにきて登録すれば、その日から冒険者ですので。――はい。それではこれが冒険者証です」


 と、お姉さんから渡されたのは、なんの変哲もない単なる木の札。

 通し番号だけが書いてある、ひどくシンプルなもの。靴箱の鍵みたいな板っ切れだ。


「え? これですか?」


 地味だ。ひどく地味だ。地味すぎる。

 Fランク冒険者になれた喜びが、ちょっと減ってしまった。


「仮登録ですので。そんなものです」

「仮登録?」

「はい。いまのレンさんのランクは、Fではなくて、無ランクですね」

「無……」


 僕の顔も無になった。


「せっかく登録しても、すぐに死ぬ方が多いので」


 お姉さんは、綺麗な顔で、しれっと凄いことを言う。


「三週間ほどみます。その間に依頼達成の実績をある程度積んでもらいます。それまではランクはありません」

「そ……、そうなんですか……」


 これは気のせいなんだと思うけど。

 気のせいであってほしい。

 気のせいなんじゃないかなー?


 お姉さんの僕を見る目が……。

 明日死んでるゴミを見る目である気がする……。


「心配しなくても、Fランクの冒険者証は、銅製のちゃんとしたものですよ。〝銅札〟っていって、晴れてようやく冒険者です」

「そうなんですね」


 目減りしていた喜びが、ちょっと戻ってきた。Fランクの冒険者証も、こんなチープな木の切れっ端だったらどうしようかと思った。


「ただ登録料がいります」

「いるんですか!」

「銅貨30枚です。冒険者証の金属もただではありませんので」

「あっはい。そうですね」


 せちがらい。


「Sランクの冒険者証はミスリルですよ。これはギルド持ちです。一財産ですよ」


 わくわくすることを言ってくれるけど、さっきお姉さん、常人には一生関係ないとか言ってないっけ。

 それにしても世知辛い。

 英雄には金を出すけど、明日死んでるゴミにかける金はないってか。


「読み書きはできるようですから、依頼票の代読とかは必要ないですね。――あと、特技の欄に、〝共通語識字〟を加えておきますね」


 お姉さんは僕の用紙に書き足した。


 あー……。なるほどー。異世界。

 文字を書いて読めることが、〝特技〟になっちゃうのかー。


「では仮登録は以上です。三週間以内に銅貨30枚。お待ちしています」


 笑顔で言うけど。待ってない。あれって。ぜったい。待ってない。


 7:3ぐらいで、明日死んでるとか思ってる。いや8:2か。もしかしたら9:1くらいかも? 10:0ってことは、さすがにないよね? あるのっ?


 営業スマイルの圧力に、僕は、追われるようにしてカウンターを離れた。


「ね、ちょっといいかな?」


 そんな僕に、声をかけてくる娘がいた。


 歳は僕と同じくらい。

 明るい色の髪を頭の後ろでポニテに結い上げた、快活な感じの女の子だった。


「え。あ。はいっ。いいです……、けど?」


 声を掛けられたときに、一瞬、考えなかったといえば嘘になるだろう。


 もしかしたらきっと定番の「こんなひょろいお坊ちゃんが冒険者なんて三万年早ええんじゃねぇのかーっ!!」とか言って絡んでくる自称ベテラン冒険者の方々とかが、いらっしゃるのではないかと……。


 でも実際に声を掛けてきたのは、可愛いっていっても差し支えのない女の子で――。

 まさかこんな少女が、「あんたみたいな貧弱君が冒険者やるなんて」と難癖つけてくるはずがないわけで。


 じゃあ……、何の用だろう?


 女の子は、襟元から紐に通した木のタグを引っ張りだしてきて、僕に示す。


「わたしも、昨日、冒険者になったばかりなんだー」


 女の子は片手を差し出してくる。


「よろしくね」

「あっ。はい。……よろしくです?」


 手を握ってそう言う。握手文化。異世界にもあるんだー。


 うう。女の子の手って、柔らかい。フォークダンスのときに握ったアレが最初で最後なのでは?

 これ? フォークダンスを除外したら、人生初! 女の子の手! ――だったりしない?


 女の子がなかなか手を離してくれないので、握り続けたままでいる。相手の顔を見て首を傾げる。


 これって、単に挨拶してるだけ?


「あっ、ごめん。わたしアルカっていうんだ。キミは?」


 さっき登録中から、この娘はずっとこちらを見ていたから、知っているはずなんだけど。

 いちおう僕も名乗る。


「レンっていうんだ。こちらこそよろしく」

「それで用件なんだけど」


 あ。やっぱ用があるんだ。

 アルカと名乗った女の子は、微笑んだままで、まだ手を離してくれない。がっちりとホールドされたままで、話を聞く。


「わたしと一緒に、依頼、やらない?」


 壁に貼られた依頼票の数々を見て、それから彼女――アルカは、僕に顔を戻して、微笑んできた。


「……よければ、なんだけど?」


 いちおう疑問形で聞いてはいるけど、手は握ったまま、離してくれない。

 これ。なんか果てしなく強制イベントっぽいんですけどー。


 断る理由をおざなりに考えてみたが、特に思い当たらなかったので――。

 僕は、うなずいて返すことにした。


「いいよ」


 僕はアルカと名乗った少女と、はじめての冒険に行くことになった。


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