第16話 Fランクの日々
新章突入です。第2章は「QOL爆上げ編」となります。
「はい。討伐部位の耳が5つと、Fランク魔石5個で、銀貨4枚と銅貨10枚になります」
カウンターで査定が終わるのを待っていた僕は、じゃらりと並べられた銀貨と銅貨に、にぱーっと笑いを返した。
冒険者やってて、この瞬間が、やっぱり嬉しい。
今日はゴブリンとの遭遇が多くて、なんと、3回もあった。
なので耳も魔石もけっこうな数で――。
――って? あれ?
「多くないです?」
耳は一律で、銅貨30枚。
魔石のほうは、大きさの違いがすこしあって、銅貨30枚を中心に多少上下する。
それでも5匹なら、銀貨3枚前後になるはず。
「一匹、大きいの、いませんでした?」
ミレーヌさんは、耳を一個、摘まんで示す。
「ああ。いましたいました。単独のやつで」
「それ、ホブゴブリンですよ」
「えっ? あれが?」
そういえば、なんか――。「大人ゴブリンがいるなぁ」なんて思ってた。
ゴブリンという魔物は、小学校低学年ぐらいの体格だ。
今日戦ったゴブリンの中に、一匹だけ、中学生くらいのやつがまじってた。
大人に近い体格の中学生ゴブリンは、ホブゴブリンだったのか。
「ホブゴブリンは一応Fランクに分類されますが、討伐報酬も魔石の価格も、普通の倍です」
「へー」
「当然、危険度も倍なんですけど……。その様子では、瞬殺だったようですね」
「ええまあ」
正直、記憶に残っていない。
単体で、のこのこ出てきたゴブリンなんて、ルーチンワークでハメ殺しである。
やっぱり遠距離があると強い。
最近のアルカは、ゴブリンが駆け寄ってくる間に、眉間、心臓、脊髄と、三点射撃を決めていたりする。
即死した状態で、足下にずしゃーっと滑り込んできたそれに、念押しのとどめで頭蓋を砕くのが、僕の簡単なお仕事だったりする。
二匹とか三匹とか、複数になってきて、はじめてアルカとのチームワークが発揮される感じ。
「あのぅ、そろそろEランクへの昇格を――」
「あっ。またそれウザいやつですか」
「う、うざくないです。と、当然のご提案です」
「でもまだ、さすがに魔石100個は納めてないですよ?」
銅札《Fランク》になって、まだそんなに経っていない。
毎日ゴブリンと遭遇するわけでもない。今日はたまたま多かっただけ。
次の青銅札《Eランク》への昇格は、ゴブリンのFランク魔石100個が条件だったはず。
「これを見ていただけますか」
ミレーヌさんは、大きめの羊皮紙に描かれた一覧表を出してきた。
「あ、前に言ったの、作ってもらえたんですね」
そこには、ギルドのランクと昇級条件が、簡潔にまとめられたフリップだった。
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無ランク(木札) 誰でもなれる。3週間以内に昇級しないと取り消し。
Fランク(銅札) 登録料、銅貨30枚。ゴブリン1体討伐。あるいはFランク魔物を複数体討伐。
Eランク(青銅札)登録料、銀貨3枚。ゴブリン100体討伐。
Dランク(鉄札) 登録料、銀貨30枚。Dランク魔物を1体討伐。
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「あとこちらも」
次の一枚には、この付近に出没するモンスターが、ランクごとに分類されている。
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Fランク魔物 スライム。マッドトード。アルミラージ。ジャイアントバット。ラージリーチ。グリーンスネーク。他。
Eランク魔物 ゴブリン。ホブゴブリン。
Dランク魔物 オーク。ゴブリンウォーリアー(シャーマン他亜種多数)。リザードマン。ブルートエイプ。
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「あ、一覧表だ」
これも僕が頼んだやつ。僕らはリタに教えてもらって、もうわかっているけど。
最初にこんなのがあれば、頑張ってゴブリン倒そうなんてしていなかった。
掲示板の端に張り出して貰う予定。
「あと、こちらについては、言われるまで気がつきませんでしたね。ご指摘ありがとうございます」
最後にもう一枚。
魔物の強さの目安がでてくる。
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Fランク魔物 パーティにて単体を討伐=銅札《Fランク》相当。
ソロ討伐=青銅札《Eランク》相当。
Eランク魔物 パーティにて単体を討伐=青銅札《Eランク》相当。
パーティと同数を討伐=鉄札《Dランク》相当。
ソロ討伐=鉄札《Dランク》相当。
Dランク魔物 パーティにて単体を討伐=青銅札《Dランク》相当。
パーティと同数を討伐=鉄札《Cランク》相当。
ソロ討伐=鉄札《Cランク》相当。
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「おー、わかりやすい」
こういうの、ほしかったんだよね。
聞けば、経験豊富な人たちは教えてくれるんだろうけど、一覧表になっていたほうが、見やすいし、説明だってしやすいよね。
受付のお姉さん――ミレーヌさんに、そういうのないんですか? と聞いたら、次に来たらもう出来てた。
さすが。仕事のデキる人は違う。
「あとですべて木版に清書して、掲示しておきます」
「ですです。それがいいと思います」
「これで、ゴミクズがすこしは死ななくなるといいんですけど」
お姉さん。いつもながら底辺に対して辛辣。
「それでレン様たちの場合、問題なのは――ですね」
と、お姉さんは白くて細い指先で、一覧表のある部分を、とんとんとつついて示す。
>>「Eランク魔物 パーティと同数を討伐=鉄札《Dランク》相当。ソロ討伐=鉄札《Dランク》相当」
「あー……」
お姉さんの言わんとすることを、僕は理解した。
最近の僕らは、Eランク魔物のゴブリンの群れを、普通に退治している。
ソロで一体を倒したことはないけど……。
うん、たぶんやれる。いやきっとやれる。ていうか絶対やれる。もはや確実に。
「なるほど。ランク詐称になっちゃってるんですね……」
「……ランク詐称? ええはい。そうです」
僕がある程度の肯定を見せると、お姉さんは我が意を得たりと、顔を明るくして――。
「実力にランクが見合っていない状況は、ギルドとしてもよろしくありません。なのでこの際、魔石の納入数には目をつぶって、特例でDランクに昇級させるべきという話が出ていまして――」
「だが断る」
僕がそう言った時のお姉さんの顔は――見物だった。
口をぽかんと開けて、目を見開いている。
「……は?」
なんか可愛い。
「ごめんなさい。言ってみたかっただけ。ちょっとふざけました」
「ああ……、ではお受けしていただけますね。こちらの書類に――」
「だが断る」
異世界行って、言ってみたかった台詞のトップ10を言いたかった! ――ってのも、もちろんあるけど。
返事的にも、ノーである。
それが伝わっていなかったようなので、僕はもう一度言ったわけ。
「なんで昇級を断るんですか!」
「ランク詐称って、ロマンなんですよ」
「そんなロマンはありません」
「じゃあ、ズルいくない、が理由ってことで」
「ズルって……」
「規定で100体討伐ってあるんだから、それを曲げるのは、色々とよくないですよ」
「それは……、まあ、そうですけど……」
「あとぶっちゃけ僕らにとってメリットないですよね。ランク昇格したって」
「ランクが上がれば、より上のランクの討伐依頼が受けられるようになります」
「まだオークにだって手を出すつもりはないですけど?」
ゴブリンは完封できたけど……。
オークなんて、体重200キロ超えだよ!? 全身が筋肉の塊の超力士だよ!? それが殺意ガンギマリで人間絶対殺すマンになって、両手持ちのグレートソード振り回して襲ってくるんだよ!?
「ミレーヌさん的には、なにかノルマとかでメリットあるのかもしれないですけど」
ちょっと別な視点で考えてみた。邪な方面で邪推をしてみる。
「そんなことは!」
と、お姉さんが声を荒げる。
え? あれ? これ正解だった?
「Cランクの専属担当になると、ボーナス出ますよね? ミレーヌ姉様?」
モップを持って床を掃除していた給仕娘のリタが、ぼそっと、うがつことを言う。
「べ、べ、べ、べつにボーナスなんて――」
「でもCランクって、ずいぶん先ですよ? ――ほら。あの一覧表にも載ってない」
「そうですよねー。あの冒険者は私が育てたのよ――と、自慢して、マウント取りたいですよねー」
リタがまた真実をうがつ。
「ミレーヌさん。早死にするなって、前、叱ってくれたじゃないですか。なんでこんどは無茶を勧めてくるんです?」
「い、いえ。レン様とアルカ様は、そういうのとは違うと……。これは確信がありまして……」
「あのぅー、そういうイヤらしい邪念は、胸の内に秘めておいてもらえるとー」
「邪念……!? イヤらしい……!?」
お姉さんは、ショックを受けている。
いま気づいたけど、いつのまにやら、「レン様」「アルカ様」って、「様」がついてる。
期待とか神格化とか、そういったものを、僕は、ばっさり「邪念」と切り捨ててみた。
お姉さんは、しゅんとなった。
かわいいよねー。
リタも、「はふぅ」とため息を漏らしている。
いいものを見れた。
リタとハイタッチを交わした。
「なにしてんの? あー、ミレーヌさんいじめてるー?」
「いえ。いじめられてなどおりません」
アルカが来ると、お姉さんは、すちゃっと立ち直った。
「それではレン様。アルカ様。ゴブリン100討伐の達成を、お待ちしています」
見事に取り繕ったミレーヌさんのところを、僕らはあとにした。




