第14話 いざ、ゴブリン再戦!
「よっしゃあ!」
「よっしゃー!」
僕に続いて、アルカも叫ぶ。
気合いを入れて、自分の頬を、ぱーんとはたく。
「やるぞー!」
「やるよー!」
気合い気合い。気合いだー。気合い。
「ゴブリンがなんぼのもんじゃあぁ!」
「それやらないとだめ?」
「いてまうどー!」
「いてまう……よ?」
僕はくるりと振り向いて、ダグラスさんに言う。
「じゃあ行ってきます。師匠」
「師匠になったつもりはねえが……。まあ死ぬんじゃねえぞ」
「師匠……」
僕は感動した。
「最近、おまえらしか講習に来てねえからなぁ……。おまえら来ないとメシが食えねえ。夕飯に酒だって付かねえ」
「師匠……」
僕はすんとなった。
ほうれんそう(報告・連絡・相談)は、大事。
今日、ゴブリンにリベンジしにいくことを、まず、師匠――晩酌が気になるお年頃のご老人に報告。
そしてホールに上がって、ミレーヌさんにも、もちろんご報告。
「じゃあミレーヌさん。行ってきます」
心配性のミレーヌさんも、みっちり一週間しごかれて、ダグラスさんから「ゴブリン程度ならまず死なねえよ」とお墨付きをもらえたので、笑顔で見送ってくれる。
「ご武運を」
うおお! 異世界来たら言われてみたい台詞トップ10!
はい! いただきましたー!
ハイ! ハイ! ハイぃぃぃぃ!
◇
森に行って探すのは――。もちろんゴブリン。
薬草採集をする場所と、ゴブリンがうろつき回る場所は、わりと重なっている。
食料を探すあいつらは、土の肥えている場所によく出没する。
「いたよ」
アルカがまず気づく。
ていうか。アルカしか気づかない。索敵とかは、もうアルカに任せっきりになっている。もちろん僕も精一杯注意を払っているのだけど。
「何匹?」
「二匹」
「……二匹かぁ」
僕は考える。
できれば一匹がよかった。
「レン? どうする?」
「二匹でもいけると思う。アルカは?」
「やれるよ」
よし。決まった。
一匹じゃないからって逃げていては、ほとんどいつでも逃げることになる。
そうそう都合よく、単独でなんて現れてくれない。ゴブリンに怯えていては、薬草採集だってできやしない。
作戦は、話しあうまでもない。
僕のできること。アルカのできること。この七日間で、お互いにすべて把握済み。
よって僕は――。
「うあああああ――っ!」
大声をあげつつ、茂みから飛び出した。
注意を引きながら、盾と剣を振りかざして突進する。
それが僕にできる〝役目〟だ。
ゴブリン二匹は、僕の大声にびくっとなって、手にしたどんぐりを取り落とした。
慌てて拾い直そうとして――。バカめ! それは悪手だ!
――ひゅん。
僕のすぐ脇を、矢が抜けていく。
大声で身を固めているゴブリンは、ただの動かない的だった。
アルカは外さない。ゴブリンの胸に矢が突き刺さる。
きっとアルカの腕なら、目とか額とか喉とか、急所を狙って当てることもできるんだろうけど……。
これは師匠の教えである。
いちばん面積の広いところを狙う。胸か腹の一択だ。
矢を受けた敵は、致命傷にはならずとも、動きが鈍る。
二匹いたとしても、片方が出遅れるなら、それは一体しかいないのと同じこと。
僕はバックラーを付けた側の腕で、ゴブリンを殴りつけた。
盾は打撃武器だ。――というのが、これまた師匠の教え。
盾はガードするものだと思ってた。相手の攻撃をがっしりと受けるものだとばかり……。
盾でぶちかましに行ってた、僕の最初の無様な戦いかたは、どうやら半分くらいは正解だった模様。
もちろん「正しい殴りかた」を教わったいまでは、しっかりと体重を乗せて、腰の捻りも加えて、ダメージの出る殴りかたができている。
体格の差もあって、殴られたゴブリンは吹っ飛んですっ転んでいる。
そして、その僕の脇を、矢を受けたゴブリンが抜けていく。
あっちのゴブリンは、攻撃してきたアルカに怒り心頭になっている。完全にロックオンしていて、僕のことを見もしていない。これまた計算通り。
だから――。
足を引っかけて、すっ転ばしてやった。
派手に転んだゴブリンの手から、棍棒が転がり落ちる。
それを蹴っ飛ばして、戦場の外まで遠ざける。
残ったのは、素手、かつ、胸に矢を受けた重傷のゴブリンが一匹。
そいつはアルカに任せて、僕はさっきのゴブリンに向かった。
僕のぶちかましで倒れていたやつは、起き上がって向かってくるところ。
こっちのゴブリンは、まだ無傷で、しかも武器を持っている。
だがしかし――。
これは単なる、一体一――。
剣を振るう。避けられた。
棍棒を振るわれる。盾で弾く。受けるんじゃなくて、敵の攻撃を弾き飛ばす。盾はあくまでも打撃として使う。
師匠に叩き込まれた戦いかたを、忠実に守った。
棍棒を大きく弾かれて、ゴブリンは体勢を崩す。
そこに刃筋を立てて、何千回も素振りした、「正しい軌跡」でもって、剣を振るう――。
ゴブリンの鎖骨から、肋骨から、背骨の半分くらいまで――切るというよりも引き千切る感じで、剣筋を通す。
倒れたゴブリンからも、目は絶対に離さない。
もう一匹のゴブリンのほうは、アルカがやってる。彼女に任している。
――ぱぐしゃ。
スイカでも割るような音が聞こえてきた。あれは頭蓋をかち割った音だね。
しばらく見つめているが、こっちのゴブリンは、もう本当に動かないようだ。
よし。完全に死んでいる。
「そっちは?」
ようやく目を離して、アルカを見ると。
「魔石ー! たらりらー♪」
もう解体が終わっていた。はやい。
「ふう……」
僕はようやっと、息をついた。
ここで、びゅっと剣を振って血を飛ばして、鞘に、ちん、とかいって収めるとカッコいいのかもしれないけど。
鞘って、持ってないんだよねー。
今度、買おうかなー。
「レン。やったね!」
アルカが駆け寄ってくる。
僕も笑顔で、ハイタッチしようとするのだが――。
「……?」
僕が手を上げて、ぴょんぴょんやってるのに、アルカはきょとんとした顔。
「こうやって――! 手でハイタッチ!」
「うん! はい! ターッチ!」
異世界にハイタッチを広めてしまった。
◇
今日、僕たちはゴブリンを完封した。
そして僕らは、ずっと待ってもらっていた銅札《Fランク》へと、昇格した。
期限の三週間目、ぎりぎり、最後の日のことだった。




