第11話 ゴブリンは倒したけど……。再び、立ち止まって考える
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翌日。僕らはなんとなく冒険者ギルドに向かっていた。
泥のように疲れて眠り、いつもより遅い時間に目が覚めた。
ぽやーんと正体がなく、街中を歩いていても、地面に足がついていない感じ。
ギルドについても、掲示板の依頼票を見るでもなく、受付に向かうでもなく、ぼんやり立ってるだけ。
そういえば、お姉さんには、「はよ銅札《Fランク》取れ」って言われてたっけ……。
受付は暇そうだけど、なんか、もやもやして、昇格手続きをやりたくない。
昨日、ちょっときつく言っちゃったから、お姉さんのところに行きづらいってのもあるけど……。
それとは別の理由で、なんか、昇級したくないカンジ……?
なんだろう?
ぼんやりしていて、考えがうまくまとまらない。
お腹すいたな。
――ぐううぅ。
ほら、お腹も鳴った。
ていうか、これ僕のじゃなくて。アルカのお腹の音だった。
ギルドには、入口すぐのホールに受付があって、奥に解体場と素材提出所。そしてホールのすぐ隣には、併設の食堂――というよりも酒場かな? がある。
壁で仕切られてはいるけど、扉はなくて開け放しで、ホールからもよく見える。
あれはわざとそうしているんだろう。美味しく飲み食いしているところを、ホールの冒険者たちに見せるように。
依頼完了でお金をせしめて気が大きくなった冒険者から、がっつり巻き上げようという魂胆が見え見えである。
きっとお高いんだろう。ランクの高い凄い冒険者がいっぱいいるのだろう。
これまでは視界に入っても、見えないふりをしていた。
でもゴブリンも倒したし、僕らもそろそろ、冒険者の社交界――酒場デビューしてみてもいいのではっ?
お金ならある。
昨日の稼ぎは銀貨3枚と銅貨15枚。それ以前の貯金が銀貨4枚弱。
合計で、銀貨7枚ぐらい。
いま! 7マンエン持ってまーす!
なんか、もうそろそろ銅貨のほうは数えなくてもいいんじゃないかな。――とか思ったりもする。
アルカと目を合わせる。
(食べていこうよ!)という目に、(いいと思うよ)と目で返す。
ううん! 相棒っぽいね! 以心伝心だねっ!
「いらっしゃ~い! お二人様?」
給仕の女の子が、くるんとミニスカートを翻して、振り向いた。
僕らより歳上かなと思うけど、お姉さんというほどでもない。
「えっちな格好だ……」
「可愛い格好……」
アルカと二人、つい、感想を口にしあって――。その差異に、「ん?」と顔を見合わせる。
「はいはい。えっちで可愛いお姉さんが、二名様、ご案内しまーす。日当たりのいい席がいいよね?」
聞こえてた。でもやっぱりお姉さんって感じじゃないよね。せいぜい学校の上級生ぐらい。
髪型もツインテールだから、あんまり大人っぽく見えない。
窓際の席に案内される。
異世界の街並みでは、あまり見ないガラスのはまった窓だ。
日が差しこんで、ぽかぽかしている。いい席だった。
朝でもなく昼でもない時間なので、他にあまり客はいない。
テーブルに突っ伏してダウンしているむさい男の人が、一人、二人、いるくらい。
あれはきっと二日酔いなのだろう。
「なににする?」
コルセットで締め上げた――くびれたウエストに手をあてて、女の子が聞いてくる。なんかカッコいい。
はい! 異世界酒場! 看板娘っ! 来ました――ッ!
いただきましたーっ! はい! はい! はいっ!
こういう異世界でいいんだよーっ!!
「レンは忙しいみたいだから……なにかおすすめの定食、二人分で。銀貨までは、いかないよね?」
「だいじょうぶ。定食は銅貨10枚ぽっきり。二人で20枚っ」
「高っ!」
僕は叫んだ。
向こうの世界なら、ランチで1000円なら安いほう? ――なのかもしれないけど。食べ物だけは安いこの異世界で、それはめっちゃ高すぎる。
「じゃあ、やめとく?」
いたずらっぽい目を、挑むように向けられる。
「う……、お願いします」
ここで高いから、といってやめたら、ものすごくカッコ悪い。
「はーい。A定食2丁! ……飲み物は、いる?」
「う……、いりません」
絶対、別料金だよねー。
注文したのに、女の子は、なぜか下がらない。立ったままで、見つめてくる。
あ。前金なのか。
僕は銅貨を20枚、テーブルに並べた。
パーティの会計は僕の仕事。個別のおやつは自分持ちだけど、二人で取る食事はパーティの共同資金から出すようにしている。
「まいどー」
女の子が銅貨を回収して帰っていく。
その後ろ姿を見送ってから……。
はぁ、と、僕はテーブルに突っ伏した。
「どしたの?」
「なんか疲れた」
「そうなの?」
いまのやり取り、緊張感があった。
始終、品定めでもされてる感じ? なんなんだろう?
突っ伏したまま、僕が気力をチャージしていると――。
「お飲み物をお持ちしました」
そう声が掛かる。
「頼んでませんけど……、って……、え?」
トレイに飲み物を乗せて立つ女の人を、僕は、まじまじと見つめた。
受付嬢のお姉さんである。
ぴしっとタイトスカートのスーツで、銀のトレイを持つ立ち姿が、すごく様になっている。
でも……? え? え? え?
「受付業務が暇なときには、兵站情報部門を手伝うこともありますので」
「はい? へいたん? じょうほう?」
へいたんは、兵站? ……ならまあ、わからないでもないけど。ごはんとか物資って意味だったよね。
でも情報のほうは? なぜに情報?
「こちら。アポルのジュースですけど。よろしいですか?」
「ですから頼んでませんけど?」
そう言うと、お姉さんは顔を曇らせた。
「ええっと……、昨日、その、失礼を働いてしまったので……、そのお詫びというか」
言いにくそうに、しどろもどろになって、お姉さんは言う。
ええーっ! そんなこと気にしてたの!
ていうか、昨日のアレは、僕が不機嫌になってて、むしろ失礼しちゃった側で――。
とか慌てていたら。
お姉さんの後ろから、さっきの給仕の子が、ぴょこっと現れる。
「先輩って見込みのある子にはウザ絡みするんです。私も〝はよ受付業務にこい!〟って言われてまぁ~す」
「マルガリータ!」
「ああん。いつもみたいにリタって呼んでくださいお姉様ぁ♡」
「……リタ」
「きゃぁきゃぁ♡」
ぎろりと、人が射殺せるほどの視線を浴びても、給仕の女の子――リタは、喜んで身をくねらせる。
「昨日はもうたいへんでぇ。目をかけていた子たちが、念願の武器を買って、薬草採集にリベンジに行くって聞いて、大丈夫かしら大丈夫かしら大丈夫かしらって、ずっとウザかったんですよ先輩。だから多少ウザくても勘弁してあげてくださいねー」
「あ、はい」
そんな心配してもらえてたなんて……。意外だ。
明日死んでるゴミ扱いされていると思ってた。
「あっ。ゴミはゴミでいますからね。ほらあそこで飲んだくれてるゴミだとか」
と、リタは、まだ復活してこない二日酔いのおじさんたちを顎で示す。
てか心の声に返事しないでくれます!?
「底辺のペーペーの銅札《Fランク》のくせに、いまごろ依頼漁りに来てるゴミだとか」
彼女はつぎに、ギルドホールに顎をしゃくる。新人っぽい男の子たちの一団が、掲示板を見あげている。
僕らは、昨日、大立ち回りをやったので、お休みの日なんだけど……。
僕らみたいなルーキーの彼らが、昼も近いこんな時間に依頼を見ているのは、たしかにちょっとダメだと思った。
いい依頼を取るなら、朝一番だよね。
「あれは青銅札《Eランク》にあがるまえに、死んじゃうかなぁ……」
その4人ほどの男の子の一団を見ながら、リタがぼそっと口にする。
ぎょっとするが、受付嬢のお姉さんのほうも、こくりと頷く。
うわぁ……。異世界……。シビアぁ……。アイエエエ……。
「ところで先輩?」
「なによ? ……なんでしょう?」
「名前、言っておいたほうがいいんじゃないです? この子たちきっと、〝受付嬢のお姉さん〟――とか、そのあたりの認識ですよ」
「そんなわけ――」
と言いかけて、受付嬢のお姉さんは、じっと僕とアルカを見つめてくる。
「受付部門の総括を努めております。ミレーヌと申します」
お姉さんは頭を下げる。
僕らは恐縮して、お姉さん――じゃなくて、ミレーヌさんよりも、もっと頭を下げる。
総括って……、いちばん偉い人だったーっ!




