第10話 武器を手に入れた! 薬草採集! 再開っ!
「うっしっし」
「うっしっし?」
鍛冶屋を出て、僕は手のなかにある重みに、にんまりとした。
「タラリラー♪ レンはてつのつるぎを手に入れた!」
武器を頭上に掲げて、僕はそう叫ぶ。
「たらりらー?」
アルカはこてんと、首を傾げる。
その彼女の肩にも、弓がある。
ほら! 念願の武器を手にしたんだから! もっと喜んで!
はい! やり直し!
「わーい!」
「わーい?」
ちなみに「たらりらー♪」は、某国民的ゲームでアイテムを手に入れた時の効果音。
某国民的ゲームといっても、「ひのきのぼう」と「ぬののふく」だけで城を追い出されるあれじゃなくて、緑の帽子を被ってる、あっちのほう。
最近作だとオープンワールドになって、世界的ヒット作となったあっち。「ミンナニハ ナイショダヨ」のほう。その最初のレトロなアクションRPGで、アイテムゲット音が「タラリラー♪」と気色よく鳴っているのを、動画でみたー。
連日の依頼――っていうか労働のおかげで、ついに、お金が貯まった。
目標額はアルカと二人で、銀貨15枚だったけど……。
本格的な冒険者活動を始めるにあたって、武器以外にも、大袋とかポーチとか水筒とか、根を掘り返すためのシャベルとか。必要な小物が色々と入り用だし。
生活費もすこしは残しておかないといけないので、武器代にプラスして、銀貨20枚分を二人で貯めきった。
20マンエンですよ! 僕たちほんと! アルバイトを頑張った!
僕よりもアルカのほうが収入が多い。技術職は高賃金なのだ。「お嬢ちゃん。このままギルドで働かねえか?」という誘いを断るのが大変だったらしい。
二人で話しあって、パーティの経費はパーティ持ち。個人の所有物は個人持ち。と、そう決めた。
僕の場合には、稼いだ銀貨7枚のうち、2枚はパーティの共同資金に提供する。1枚は貯金、残り4枚で剣を買う。
アルカも同様に、共同資金に2枚を出して、1枚は貯金。残り10枚で弓を買う。
誤算だったのは、ドワーフの親方がオマケしてくれたことだった。
僕の鉄の剣は銀貨4枚だったはずが、なぜか3枚にしてもらえて、さらには余った1枚で木製の丸盾もつけてもらえた。
バックラーというタイプの小さな盾だ。
アルカのほうは、弓は銀貨10枚のままだけど、おまけで、矢を十数本と、それを収める矢筒。弓を背中に背負うための弓入れだとか。いろいろと、もらえた。
全部含めたら、とても、この金額じゃ収まらなさそうなんだけど……。
ドワーフの親方は、「お得意様になってもらうんだからよ。すぐに死ぬんじゃねえぞ」と言って、おまけの分のお金はいらないと言うばかり。
僕は頭を下げて、好意に甘えさせてもらうことにしたのだった。
生きてゴミじゃないことを証明して、稼いで常連さんになって、親方に判断が間違いではなかったって思ってもらわないと。
「よし! じゃあ今日は薬草採集だよ! 出発あぁ――っ!」
「しゅっぱーつ!」
ここばかりは、アルカも両手をバンザイして、ノってくれた。
◇
森の奥に入って、薬草バイキングに勤しむ。
道具も揃えたから、採集が捗る。午前中だけで、軽く10束。
半日でこれだから、今日の稼ぎは銀貨クラスが予想される。
さすがに、儲かる。
街の中の仕事をちまちまやるより、断然、効率がいい。
しかし僕らは、前回と違って油断していなかった。
いつどこからゴブリンが襲ってきてもいいように、採集はしながらも周囲への警戒は怠らない。
常在戦場の心構え? そんな感じ。
「でもゴブリン出てこないねー」
アルカが言う。
「そうだねー」
僕は答える。
武器も用意して、気も張って、さあこいとばかりに身構えているのに、肝心のゴブリンが現れる気配がないのだった。
午前が終わり、昼も過ぎ、三時くらいも回って――。
そろそろ夕方が迫ってきたあたりで、もうこのまま出ないんじゃないかと思いはじめた。
毎回、襲われるわけでもないのだろう。前回、遭遇したのは、たまたまで、本来なら数日に一回程度の遭遇率なのかもしれない。
さて――。
暗くなる前に、街に戻らないと。
夜の森は、大層、危険だそうだ。
「アルカ――」
声をかけると、アルカが真剣な顔で、どこかを見ていた。「しっ」と小さくやられ――僕は思わず自分の口を押さえた。
腰を低くして、遠くの茂みに向かうアルカの後ろに、息を潜めてついていく。
茂みの向こうを、こっそり覗くと――。
いた。ゴブリンだ。
一匹だけだ。
単独行動をしているゴブリンは、こちらにはまだ気がついていない。
ふんふんと、鼻をひくつかせて、地面でなにかを探している。
キノコを拾って、においを嗅いで、ぽいっと投げ捨てたり。木の実を拾って口に入れたり。
ゴブリンは一匹だけ。しかもこちらに気づいていない。
……という状況。
倒すなら、絶好の機会だと思うけど……。
でも気づいていないなら、このまま、戦わずに素通りするという選択もできる。
(……どうする?)
アルカに、目で問う。
(……やるでしょ。なんのために武器を手に入れたんだか)
目と目で、相手の言わんとすることがわかる。
なんか! すごい!
僕たち! 冒険者っぽい!
アルカが弓を引き絞る。
相手が気づいていない今が、先制攻撃のチャンス。
放った。――当たった!
肩に矢を受けたゴブリンは、怒りの声をあげて、棍棒を振り回す。
茂みに隠れた僕たちに気づいて、こっちに向けて駆けてくる。
「えっえっえっ? うわわ! どうしよ!?」
「すこし止めてて! もう二、三発撃つから!」
そうだった!
剣と盾があるんだから、接近戦は僕の役目だった!
僕は盾と剣を両方前に突き出して、駆けてくるゴブリンに向けて突進した。
ぶちかます!
技もへったくれもない。ただの体当たり。
剣を持っているんだから、振るわなきゃ! 振らなきゃ! ――と思っても、目の前で大きな口を開けるゴブリンを見ると、ただ遠ざけるために、盾と剣を一緒くたにぶつけるだけしかできない。
なんかぜんぜん戦いかたがなってない気がするー!
剣とか盾の使いかたって、まったく違う気がするー!
それでもゴブリンはよろけた。
そこにもう一発、体当たり。
立ち直る前に、もう一発。
「うわわわわわ――っ!!」
もう無我夢中で、体当たりを繰り返した。
「撃つよ!!」
アルカの声が聞こえた。
ひゅんと、風を切る音が聞こえ――。
矢が僕の盾に突き立った。
誤射だった。
盾がなかったら僕に当たってた。
「あぶ! あぶないよっ! ゴブリン――! ゴブリン狙ってよおぉぉ!!」
「う――動くからああぁ!!」
僕が必死に叫ぶと、アルカも必死に叫び返してくる。
うん。動いている相手に当てるのって、すごく難しいだろうね。僕とゴブリンは乱戦になってる。
アルカは弓での援護ができなくなった。
僕一人が戦っている感じ。
バランスを崩したゴブリンに、渾身の体当たりをかますと――。
ゴブリンは転んだ。棍棒を放り出すほどに、派手にすっ転んでいる。
アルカが走って、棍棒を拾いあげる。
ナイス! アルカ!
これでゴブリンには、武器はない!
起き上がったゴブリンが、自分の武器を持つアルカを指さして、激しく悔しがっている。
「うるさい!」
アルカが奪った棍棒で、ゴブリンの頭をぶっ叩く。
ぱぐしゃー、とか、いい音が鳴った。
「レンも殴って! はやくはやく! やってはやく!」
「は――はいイィ!」
自分のあげている声が、雄叫びなのか悲鳴なのかわからない。
アルカがぶっ叩く。僕がぶっ叩く。
剣って、たしか斬るはずの武器なんだけど。
鉄の棍棒みたいな使いかたで、ゴブリンをぶっ叩くしかできない。
ばっこん。ばっこん。
アルカが叩いて、僕が相槌。
餅つきみたいに、叩いて、叩いて、叩き続けた。
ゴブリンはそれでも生きていて、叩かれるたびに「グギャ!」とか、「ガアアア!」とか叫んでる。
ぜんぜん戦意を喪失していない。
叩く手を少しでも緩めたら、逆襲されて、喉笛を噛み切られてしまいそう。
そんな恐怖に後押しされて、僕とアルカは、全身全霊で叩き続けた。
そのうちに、ゴブリンが静かになって――。
あれ? 死んだのかな? 倒せた……?
と、僕がゴブリンの様子を見ようとすると――。
「レン。まだだめ」
アルカが鋭い声でそう言った。
そして放り出してあった弓を拾い、矢をつがえ――撃った。
「グギャ……!」
死んでいたと思ったゴブリンが、矢を受けて声をあげた。
そして、ぴくぴくと痙攣をして、その後で、また動かなくなった。
「ほら。死んだふり」
アルカは冷静に、さらにもう一発、矢を撃ち込んで――。
それで本当に完全に死んでいることを確認してから、膝を崩して、ぺたんと地面に座り込んだ。
「こわかったぁ~」
「あ、うん」
「わ~ん、こわかったよぉ~、レ~ン……」
「う、うん」
抱きつかれて、ぎゅーっと、しがみつかれる。
とどめを刺すときのアルカのほうが怖かったということは、内緒だ。
僕もしばらく、ゴブリンを倒したショックに震えていた。
はじめて生き物の命を奪った。魔物が生き物だとすればだけど。
女の子と抱き合っているんだけど、そんなことを気にする余裕もなく、二人でただ、震える相手をなだめあっていた。
◇
ようやく落ち着くと、後処理だ。
討伐証明は右耳だ。それを切り取る。
そしたら、胸を開いて、心臓の近くにある魔石を取り出す。
アルカは、解体場のおじさんたちからプレゼントされた解体ナイフで、ざくざく切り開いている。
肋骨の間に腕を突っ込んで、血まみれの手で魔石を摘まみだし、「あったよ」とニコニコ笑っている。
はい。無理無理。無理です。
僕に解体は無理そうです!
解体は、もうずっとアルカにやってもらう!
そう決めた。役割分担だよね! いいよね!
パーティ資金の帳簿つけるの僕の仕事だからね!
◇
薬草を、忘れないようにちゃんと持って。
討伐証明の耳と魔石もちゃんと持って。
夕焼けのなか、街へと戻った。
とても凱旋なんて気分じゃない。
疲れ果てて、歩くのも億劫だ。
門番のおじさんにも挨拶を返せず、ただ素通りして、冒険者ギルドへと向かった。
僕は受付嬢のいつものお姉さんのカウンターで、耳と、魔石を出す。
アルカのほうは解体場へ、薬草の提出に行く。
「ゴブリンを狩るのって、普通、青銅札《Eランク》からなんですけどね」
「そうなんですか」
「ゴブリン単体をパーティで討伐できることが、青銅札《Eランク》の昇級条件の一つですので」
「はい」
「討伐証明の耳、銅貨30枚なんですよね」
「なるほど」
受付嬢のお姉さんの言葉に、僕はいちいちうなずいていた。
早く換金してくれないかなぁ、と思う。
こっちは死闘で疲れ果てているのに。
まあ、お姉さんの言いたいこともわかる。
例の「はよ銅札《Fランク》取れ」である。
ゴブリンの討伐報酬の銅貨30枚は、偶然、銅札《Fランク》の登録料と同じ。だからネチネチと言われ続けている。
「もう武器も買われたみたいですし。お金を貯める理由もなくなったわけですし。そろそろご登録をされても――」
お姉さんの話は、まだまだ続きそう。
なので僕は、話に割りこんだ。
「――そういうの、いま、やめてもらっていいですか?」
「……っ!」
お姉さんが顔を引き攣らせている。
あれれ? 僕? そんな怖い顔していたかな?
ゴブリンを殺してきたばかりだから、なんか殺気でも、はみ出しちゃってた?
「……そうですね。大変失礼しました。それでは討伐証明と魔石を合わせて、銅貨65枚となります」
ゴブリン、あんまりおいしくない。
あんなに大変な目にあったのに、薬草4束分? ――とか考えてしまう。
「なおゴブリンのEランク魔石は、市場で売却されたほうが多少高くはなりますが、ギルドで売却すると、昇級査定に影響します。青銅札《Eランク》に上がるには、おおよそ100個ほど必要ですので」
「わかりました」
こうした事務的な会話なら、ちゃんと聞くけど。ウザ絡みされるのは勘弁してほしい。
「レーン……」
アルカが疲れた顔で戻ってきた。薬草の提出が終わったようだ。
「どうだった?」
「薬草16束、銀貨2枚と銅貨50枚になったよー」
「あれ? 多くない?」
15×16=240。
銀貨2枚と銅貨40枚のはずである。
「銅貨10枚は、ゴブリン初討伐のお祝いだってー。職場のみんなから」
すっかり職場になってるし。
「でもやっぱり薬草採集って、実入りがいいね。ゴブリン討伐と合わせたら、銀貨3枚突破かー」
すごいなー。
銀貨さんまーい!
でも宿によっては、一泊銀貨2枚だっけ?
宿のランクアップは、当面、ないね。
お姉さんの目が、アルカの手にある銀貨に向いている。
はいはい。わかってますって。「はよ銅札《Fランク》取れ」でしょ。
「じゃ、レンはもらっていきまーす」
「あ、はい」
腕を絡められて、引っ張って行かれる。
そういうことされると、男の子としては、ちょっと意識してしまうのだけど――。
アルカのこれは、本人、まったく無自覚だ。
最近、だんだんとわかってきたけど。アルカはこういうの、同性の友達にやるぐらいの感覚でやってる。
ベッドに誘うのも、たぶんそんな感じで――って! なにか言葉にするとイヤらしくなるね! 〝ベッドに誘う〟って――!
ギルドを出ると、それまでくるくる動いていたアルカの表情が無に変わった。
僕も同じ。顔が無になっちゃう。
それだけ疲れ果てている。いまは相棒しかいないから、顔面を取り繕う必要もない。
いつもの屋台を通りがかったとき、アルカに聞く。
「どうする? なにか買ってく?」
「ごめん。食欲ない」
それは僕も同じ。
素通りして、宿に行って、いつものように銅貨20枚を払って――そのまま二人でベッドにダイブして、一秒後には意識が途切れた。
今夜に関しては、眠れない心配は、しなくてよかった。




