朝のアリサ様
執事のスイの視点で朝のアリサについての話です。
この国の朝は5時30分に鐘が5回鳴る。ほとんどの方はそれを合図に仕事に出かけたりと外に出る方が多い。
この屋敷でも最低で6時には起きなければいけない。そのため、6時前にユリハ様もガイオネル様も、俺を含めた使用人の方々も起きて各自の仕事を行なっている。……例外を除いて。
「…アリサ様、入りますよ」
聞こえていない可能性が高いがそう声をかけて扉を開ける。予想通りぐっすりと寝ている。ただちゃんとベットの上で掛け布団を被り、枕に顔を預けてるような基本的な眠り方ならまだいい。だがアリサ様は掛け布団はぐちゃぐちゃにベットからはみ出し、枕は床に無造作に落ちている。そして寝方も口を開いている。
この方は俺の主人なのか本当に疑いたくなる。例えガイオネル様に命令されたとしても今の俺はこの方の執事だ。
主人がしっかりしてなければ執事がしっかりしなければならない。
ばさっと掛け布団をとりアリサ様に声をかける。
「アリサ様、アリサ様。起きてください」
「ん…………じゃ…っま…」
顔を近づけ呼んでたからかむぎゅっと足で俺の頬を押す。
「………」
アリサ様はすぐ足を退けたが今度は俺がその足を掴む。
「アリサ様は随分俺に構って欲しいんですね」
聞こえていても聞こえてなくても構わない。俺はアリサ様の執事だ。なら主人よりもしっかりしてて…その体に刻み込むまで。
「っ…だ、ぃだっだだだっ」
「お目覚めですか、アリサ様。構って欲しそうだったので今回は金属の音楽ではなく引き摺り回してみました」
アリサ様はひぃっと悲鳴をあげている。俺の頬を足でやったことは多分覚えてないだろう。
「アリサ様、今日はちゃんと俺のいうこと聞いてくださいよ。聞けたら先日食べたがってたクレープでも買いますので」
「ほんと!?やったー!」
キラキラと純粋に瞳を輝かせて喜ぶ姿は悪女とは程遠い。それ以前に“聞いていたのと違う”。俺はこの数日考えていたことを言葉にしてくれたの声にしようと口を開い……結局は、できなかった。
『あなたは本当に悪女のアリサ・ライモンドなんですか…?』
「…スイ?」
きょとんと俺をみて首を傾げてる。怖がったり喜んだり、悪女はこんな表情を変えるはずがない。
アリサ様が笑うのはユリハ様をいじめた時。
アリサ様が楽しいと思うのはユリハ様をいじめたときだ。
事実としてある。完璧な事実が。
死神の俺を、忘れるな。
「いえ、はやく着替えて朝食にしますよ、アリス様」
今日も俺は執事の仮面を被る死神を演じ続けるのだった。




