スマホとガラポン
今回から第2章です。
よろしくお願いします。
「あおい! ドリンクバーって何だ?」
たった今買ったスマホと、ドリンクバー無料券を手に持つ蘭子が目をキラキラさせている。
では、なぜこんな事になっているのか?
話は今日の昼休みまで遡る。
————
昼休み 1年C組。
食べ終えたクリームパンの袋を小さく畳んでいる蘭子が、クラス内を見渡して俺に声をかけてきた。
「なぁ、あおい? 前から聞こうと思っていたんだが……、みんなが持っているあの平べったい四角い物は何だ?」
蘭子の視線に合わせて見渡すとクラスメイトの数名がスマホを操作していた。
「ああ! あれはスマホって言うんだ。あれ1つ持っているだけで色んなことが出来るからこっちの世界では必需品なんだ。通信機って言えば伝わるか? それに色んな機能を持たせた便利器具だ」
異世界の人に通じるかどうかわからない説明だが、俺にはそんな風にしか説明が出来なかった。
「ほう! 随分と小型な通信機だな。でも会話してるようには見えないぞ?」
とりあえず『通信機』と言うところまでは伝わったらしい。
しかし、蘭子の世界では『通信機=会話』らしく、その他の通信手段については疎いようだ。
「まぁな。手紙のように文字だけで通信したり、あとはゲームしてたり、写真を撮ったり、他にも色々あるが使い方は人それぞれだからな」
スマホとは何か?
改めて聞かれると、説明するのが案外難しい物である。
「あおいも持ってるのか?」
蘭子は、右手の人差し指を顎に当てながら少し上目遣いで聞いてくるが、この仕草が可愛くて、俺はいつもドキッとしてしまう。
「あ、ああ! これな! ちょっと触ってみるか?」
ちょっと動揺しながらも、誤魔化すようにスマホをポケットから取り出して蘭子に渡してみた。
蘭子は手にしたスマホを裏返したり、USBポートの所を片目をつむりながら覗いてみたり、突然点いた画面に驚いていたりと、スマホに興味津々の様子だ。
「ここをこうすると、写真が撮れるんだぞ」
スマホの機能を実際に体験してもらおうと、俺は蘭子が手にしているスマホを横から指で操作してカメラを起動した。
「おぉ! ……おお! …………おぉおお!」
蘭子はスマホを教室のあちこちに向けながら、やたらと興奮していた。
途中、「パシャ」っと何回かシャッター音が鳴っていたので何枚か写真を撮ったのだろう。
「あおい! 私も欲しい!」
そして、蘭子は星が出てくるんじゃないかと思うくらいに目をキラキラさせながら、俺にスマホを返してきた。
「まぁ、そうなるよな……。でも、こっちの世界に居るなら持っていた方が良いと思うぞ」
デジタル化が進んでいるこの世界で、今はスマホがないと不便な事も多い。
むしろ、こっちの世界で生活していくのであれば、無いと困るかもしれない。
そう思いつつも、俺は根本的な所が気になった。
「でも、金はあるのか? 言っておくが、簡単に買える金額ではないぞ」
まず、お金がないと買う事もできないからな。
その質問には、話を聞いていたタカヤが答えてくれた。
「資金の管理は俺がやっている。本国の資金をこっちの資金に換金しているが、足りない分はいくらでも本国から送金できるから尽きる心配は無い」
「……さすが、お姫様だな」
『尽きる心配は無い』という台詞にドン引きしたが、とりあえず金銭面での心配はいらないようだ。
「タカヤの許可は必要か?」
タカヤが資金管理をしているのであれば、ちゃんと確認しておかなければマズイだろうと思い聞いてみた。
「……生活必需品なら、手に入れておきたい」
タカヤは羨ましそうな目を少し逸らしながら答えた。
あれ、あいつも多分欲しいんだろうな。
「よし。それじゃあ、放課後にみんなで買いに行こう! みんな予定は大丈夫?」
俺は蘭子、タカヤ、静香の順に顔を見ながら問いかけた。
「大丈夫よ」
「よろしく頼む」
「やったー!」
そして三人は三者三様に返事を返す。
こうして、放課後に駅前の家電量販店へ向かう事になった。
————
放課後。
四人は駅に直結する駅ビルへとやってきた。
四階建てのビルには様々なショップが入っており、吹き抜けの天井と建物中央に渦を巻くように設置されたエスカレーターが、駅ビルとは思えないショッピングモールのような雰囲気を作り出している。
「あおい! 何だこの階段!? コイツ……、動くぞ?」
そんな中、蘭子は初めて見るエスカレーターに興味を示し、どこかのパイロットのような事を言っていた。
「"エスカレーター"って言うんだ。歩く労力を消費しないで別の階に移動できるんだ。便利だろ?」
葵を先頭に、エスカレーターの左側へ並びながら順番に乗っていく。
「タカヤ! これ、うちの城にも欲しい!」
葵の後ろに続く蘭子が目をキラキラさせながら、後ろのタカヤへ振り返って言う。
「確かに、動かずして上階に登れるとは便利だ。……だが駄目だ。城は防衛という役目も備えている。こんなものを作ったら、敵に攻め込まれた時、敵が喜ぶだけだ」
タカヤは冷静に、城にエスカレーターを導入するか否かを語っていた。
「あら、そこは作戦次第じゃないかしら? こうやって、自動で終点まで上がって行くのだから、終点で待ち構えていれば敵さんは火中に飛び込むようなものよ」
そこで、話を聞いていた最後尾の静香が恐ろしいことを言い出した。
タカヤは静香の作戦を聞いて「ほぅ……」とか言いながらグーにした手を顎に当てている。
「お前ら……。物騒な話はやめろ……」
戰にエスカレーターを使うなんて聞いたこともない。
家電量販店のある二階に着いたこともあり、俺はうんざりしながら二人の会話を制してエスカレーターを降りた。
「うおっ! っとと! ……危なくエスカ転ターするところだった」
後ろでは蘭子がバランスを崩しながらエスカレーターを降りて俺の横に並び、跳び箱を跳んだ後のように両手を上げてポーズを決めている。
っていうか何だ『エスカ転ター』って。
エスカレーターを降りてすぐ正面に家電量販店がある。
店舗に入ってすぐの場所にスマホコーナーがあり、入り口では風船に囲まれた特設ブースでオレンジ色のジャンバーを着たおじさんが『新規契約キャンペーン実施中』と書かれたポケットティッシュを配っていた。
四人は律儀にポケットティッシュを貰い、様々な機種が展示されているスマホコーナーの前に並んで立った。
「ここに並んでいるのは全部スマホだ。色々種類があるから、まずはこのサンプルを触って自分に合うものを選んでみろ」
俺はそう言ってみたものの、蘭子はスマホを前に「うーん」と考えている。
「わたしはあおいと同じのがいい!」
選ぶのがめんどくさかったのかは分からないが、にっこり笑って即決だった。
「こんにちは! 新規契約でしょうか?」
その時、待ってましたと言わんばかりにメガネをかけた若い男の店員さんが声をかけてきた。
多分、俺たちの後ろでサンプルの整理しながら会話聞いてたなこの人。
そのメガネの店員さんへ答えたのは蘭子王国大蔵省のタカヤだった。
「……俺も契約する」
何故かちょっと照れくさそうに前髪をいじっていた。
「あいつ、絶対蘭子とお揃いの物が欲しいだけだよな」
「フフ、そうね」
その姿を見て、俺と静香はヒソヒソと話しながら笑っていた。
「お? タカヤも買うのか?」
だが、当の蘭子はタカヤの気持ちなどお構いなしの様子だ。
「お……、俺も持っていた方が良いだろう。色んな意味で」
そのタカヤは、モジモジしながら視線を逸らして前髪をいじり続けていた。
多分、蘭子は特に深い意味もなく聞いただけだと思うが、お前って時々そういうとこあるよな。
「では、新規契約お2人様ですね! こちらへどうぞ」
営業スマイルというより、二人の関係を察してニヤニヤしている店員さんから契約用のテーブルに案内され、蘭子とタカヤは並んで椅子に座った。
俺と静香はその後ろに立って様子を伺う事にする。
なんか嫌な予感がしていたし……。
二人は大人しく店員の説明を聞いており、契約は順調に進んでいるようだった。
しかし、このはちゃめちゃ異世界コンビが、このまま大人しくしているわけがなかった。
「では、こちらが契約内容になります。長文ですので大事な部分だけ……」
「貸せ」
店員が契約書の要点説明を始めようとした途端、突然タカヤが契約書を奪い取り、数秒で書類の束に目を走らせた。
すると、本当に読んだのかわからないぐらいの短い時間で店員に契約書を返却する。
次の瞬間、タカヤは驚きの行動にでた。
「……第七条第八項、利用者は端末を不正改造してはならない。─第九条第二項、利用料金の未払いが続いた場合、契約は解除される」
「……え?」
驚いている店員をよそに、怒涛の暗唱が始まった。
「お、おいおい……」
「まさかの全文暗唱!?」
俺と静香は顔を見合わせてドン引きしている。
「おおっ! 吟遊詩人みたいだな! タカヤ、ちょっと見直したぞ!」
しかし、約一名この状況を楽しんでる奴がいた。
そいつの親分である。
あの、蘭子様?
吟遊詩人は契約書の暗唱なんかしないと思うぞ……。
「……以上だ。問題はない」
長い契約書の文言を、一言一句間違えずに暗唱を終えたらしいタカヤはドヤ顔で腕を組んでいる。
「……あの。……はい、確認ありがとうございます……」
蘭子を除く周囲の人たちは完全にドン引きしていた。
「なにあの人……」
通りすがりのおばちゃん達も、俺たちの後ろでヒソヒソ話をしている。
「お前、絶対『めんどくさい客リスト』に入れられたぞ」
俺はタカヤの肩に手を置き、ゆっくり首を振りながらツッコミを入れた。
なんかツッコミ疲れてきたよ。
「なぜだ? 契約とは遵守すべき掟だろう」
だが、タカヤ的にはボケではなく、いたって真面目だったようだ。
林先生の『今でしょ!』みたいなポーズで反論してきた。
(いや、正論だけどさ……)
話を聞いていた静香は、ため息をつく葵を横目に心の中でつぶやき、タカヤを冷ややかな目で見つめていた。
「かっこよかったぞタカヤ! わたしも暗唱したい!」
続けて、一人だけ空気が読めていない蘭子がワクワクしながら身を乗り出してきた。
危険を察知した俺と静香は慌てて同時に叫ぶ。
「もうやめて! とっくに店員さんのライフはゼロよ!」
突然のユニゾンシャウトで制止された蘭子は、ポカーンと口を開け、頭に『?』を三つ並べながらフリーズした。
よし。いつもなら止まらない蘭子をなんとか食い止める事ができたぞ。
二人で力を合わせれば何とかなるもんだ。
それに、これ以上やったら本当にお店から追い出されそうな気がするし。
スマホの契約が終わり、2人は手渡されたスマホを食い入るように見つめていた。
手元では、新規契約キャンペーンでサービスしてもらったケースを開封してスマホに嵌めている。
蘭子は黄色い手帳型で、ミカンの輪切りがプリントされている可愛いデザイン。
タカヤは黒いカーボン柄で、縁に赤い糸で刺繍か入った手帳型ケースだ。
メガネの店員さんから初期設定はどうするか聞かれたが、設定中に店員さんをオーバーキルしてしまいそうなので、ここは俺たちが手伝う事にした。
「助かります! では、後はお任せしますのでごゆっくり〜」
メガネの店員さんは、タカヤの契約書暗唱を聞いて関わってはいけない客だと思ったらしく、ホッとしたような表情で逃げるようにどこかへ行ってしまった。
しばらくこの机に座っていていいとの事だったから、最初から俺たちにやらせるつもりだったんだろうな。
そんなこんなで、さっきまでメガネの店員さんが座っていた場所に俺が座り、隣に静香が座った。
「よし。まず電源を入れてみろ」
手始めに、電源の入れ方からだ。
二人は電源ボタンを長押してスマホを起動させる。
「……おお! 光った! 光ったぞ!」
「……これでいいのか?」
蘭子は興奮し、タカヤは少し不安そうだ。
契約書暗唱するくらいの記憶力なんだから不安がる理由がわからんけど。
「後は画面に表示された質問へ答えたり、自分に合う選択肢を選んでいけば初期設定は完了だ」
とは言ってみたものの、彼らは異世界の住人なのだ。
「あおい。住んでいる国を選べと言っているが、わたしたちの国がないぞ?」
「何だこの"ウィーフィー"とかいうのは?」
うお……。いきなりアナザーワールドギャップの洗礼が……。
「国は今いる国でいい。あと"ウィーフィー"じゃなくて"ワイファイ"な。無線通信ってわかるか? それと一緒だ」
やっぱり店員に頼まなくて良かった……。
俺は初期設定を進める二人の画面を見ながら、ブツブツ呟くトンチキコンビの疑問に答えていった。
数分後。
「じゃあ声で反応するアシスタント呼び出してみろ。『ヘイ! ミリ!』って言うんだ」
次に、音声アシストの設定が出来ているか確認する。
「ヘイ! ミリ!」
蘭子は机に置いたスマホへ向かって、何故か指を差しながら言った。
『はい。ご用件は何でしょうか?』
無事に起動したようだ。設定は問題ないな。
「っ!? おお! こいつ喋ったぞ! わたしの言葉がわかるのか?」
『すみません。よくわかりません』
「とぼけるな!」
蘭子は音声アシストと漫才をするように、テンポよく会話を始めた。
そこへタカヤが割り込んでくる。
「待て蘭子……。この『ミリ』なる存在、今、蘭子に無礼を働かなかったか?」
真顔でスマホを睨みつけている。
まためんどくさい事になってきた……。
「いや、ただのAIだからムキになるなよ……」
呆れる俺をよそに、タカヤはスッと立ち上がる。
「黙れ……。失礼な奴は——斬る!」
次の瞬間、抜刀の構えを取り、どこからか出てきた剣を抜こうとする。
お前それいつも持ってんの!?
「バカやめろーッ!」
俺は飛びかかるように全力で止めにかかった。
「店で抜刀とか即逮捕案件でしょ!」
静香も慌ててタカヤを抑えてつけている。
「警察呼ばれる前にしまえ!」
俺と静香が二人がかりで抑えても、なおも斬りかかろうとするタカヤ。
その勢いを止めてくれたのは、我らが姫、蘭子様だった。
「お前、わたしの許可なく剣を抜くなと言っただろ? 蹴るぞ?」
蘭子が物凄く冷たい目つきと、静かなドスの効いた声でタカヤを制止する。
怖……。
蘭子って怒るとこんな感じなんだ。
怒った蘭子を見たタカヤは、急に我に返って大人しくなり、下を向いてシュンとしてしまった。
「お前はカッとなるとすぐに剣を抜こうとする。剣に頼りすぎだ。スマホを使え」
ただ、蘭子の説教はよくわからなかった。
こんなのを9時間聞いていたのか。タカヤ凄いな……。
「……ヘイ、ミリ。今の説教の意味を教えてくれ」
『すみません、よくわかりません』
よし。タカヤの音声アシスト設定も問題なさそうだな。
っていうか、音声アシスト相手に何やってんだお前ら……?
「ほら、次は連絡用のアプリだ。緑色のアイコンの『LIME』ってやつ」
次に、俺は自分のスマホからチャットアプリの『LIME』を起動し、トークグループを作成した。
そこから蘭子、タカヤ、静香を招待する。
チャットアプリの設定は、蘭子には静香が、タカヤには俺が操作方法を教えながら続けた。
「よし、これで『俺』『蘭子』『タカヤ』『静香』で繋がったぞ。なんか試しに打ってみろ」
蘭子とタカヤに使い方を教え、二人はおぼつかない手つきで文字を打ち始めた。
「……おお! 文字が光の矢のように飛んでいく! すごい!」
「既読? ……なるほど、監視機能か」
蘭子は感動し、タカヤはLIMEの機能に感心している。
っていうか監視機能って言い方やめろよ。
ちなみに蘭子からの初メッセージは『あおい!』だった。
なんだよ?
「……まあ、なんとか使えるようになったな」
「一件落着ってことでいい?」
初期設定と基本的なアプリの説明だけでクタクタになってしまった俺と静香とは対照的に、蘭子とタカヤはLIMEで内容の無いメッセージやらスタンプやらを夢中で送ってきた。
俺のスマホの通知バッジ数がどんどん溜まっていき、三桁を超えた辺りでさっきの店員さんが戻ってきた。
どこかで様子見てたなこの人……。
「無事に使えるようになったみたいですね! ちなみに新規契約キャンペーンで、あちらのガラポンも挑戦していただけます」
店員さんが指差す方を見ると、入り口でポケットティッシュを配っていたおじさんが笑顔で手を振っていた。
よく見ると、風船だらけのブースの真ん中に台があり、その上にガラポンが置かれている。
なるほど。
これは異世界コンビの凄さを見せてもらうチャンスということだな。
「蘭子、タカヤ。お前達の『運』を試す時がきたぞ」
「なんだと!?」
「何!?」
俺がわざと大袈裟な言い回しで言うと、二人はほぼ同じタイミングでおじさんの方へ振り向いた。
わかりやすい奴らだな。
「あおい……。誰だあれは? 神か?」
しかし、蘭子はおじさんと目が合った瞬間、渋い顔になって俺に聞いてきた。
「違う。キャンペーンおじさんだ。神ではない。さっきポケットティッシュもらっただろ?」
俺はもらったポケットティッシュを見せながら答える。
「……なるほど。"神"ではなく"紙"ということか」
タカヤは少し黙っていてくれないかな?
「違う。あそこにあるガラポンのことだ。あれを回すと球が出てくる。色のついた球が出れば当たりだ。あそこに書いてある色と、同じ色の球が出ればその景品がもらえる」
寒いダジャレを言っているタカヤを無視して、俺は景品看板を指差してガラポンの説明をした。
「ほぅ……。くじみたいなものか」
「まさに運試しだな」
二人は自信に満ちた表情で立ち上がる。
「新規契約二名様なので、二回分どうぞ」
そして店員さんに案内され、四人はガラポンコーナーへと向かった。
「いらっしゃい! 2回分だね」
俺たちがガラポンコーナーに着くと、キャンペーンおじさんはガラポンの準備を始め、急に生き生きと話しだした。
「ハズレでも参加賞がもらえるから安心してね。1等は金色で最新ゲーム機、2等は銀色で小型のキッチン家電、3等は赤色で電動歯ブラシ、4等は緑、5等はピンクでそれぞれ金額は違うけど商品券だよ。白はハズレね」
景品看板を見ながらガラポンの説明を終えると、次は蘭子とタカヤに向かって笑顔で尋ねる。
「お嬢ちゃんとお兄ちゃんどっちからやる?」
聞かれた二人は一瞬顔を見合わせた。
だが、それはアイコンタクトですぐに順番が決まったらしい。
「よし。ではまずわたしからだ」
蘭子が一歩前に出てガラポンのハンドルを握った。
回転させる向きと逆方向に、ゆっくり半回転させて助走をつけると——。
ガラガラ……。
ギュオーーーーーーン!
渾身の力を込めて超高速で回し始めた。
「回しすぎだ!」
「ガラポンってここまで高速で回るのね」
超高速回転で逆にスローモーションに見える錯覚が起きて驚く俺と静香。
「ちょっと……! ガラポンがガラクタポンになっちゃうよ!」
そして、情けない声を出しながらキャンペーンおじさんが涙目で訴えていた。
冗談を言えるだけ割と余裕な気がするが……。
すると——。
シュパーーーーン!
ガラポンで聞いたことのない音を出しながら、弾丸のように射出された球が煙を上げてトレイにめり込んだ。
すぐに煙で見えなくなったが、少しずつ消えていく煙の中から、その球はゆっくりと再び姿を現す。
その色は何色なのだろうか……?
ウソだろ……?
焦げてる……。
そんなバカな……。
あっ。でも、よく見ると白い部分がある。
ということは白い球。
つまりハズレだ。
そんなことよりも、目の前で起こった超常現象に俺と静香はドン引きしていた。
キャンペーンおじさんも口をあんぐり開けて停止している。
「次は俺か。蘭子、お前は乱暴すぎるんだ。そんなに力一杯回したら運も逃げてしまう。いいか? こういうものは脱力が極意だ。見ていろ」
そんな超常現象が当たり前かのように気にしていないタカヤは、謎に腕まくりをして気合を入れ、続けてガラポンのハンドルを握った。
「うんうん。そっとだよ。壊さないでよ」
我に返ったキャンペーンおじさんが心配する中、タカヤも逆方向に半回転ゆっくり回す。
ガラガラ……。
ガラガラ……。
タカヤは少し緊張しながら、更にゆっくりとガラポンを回し始めた。
ポトン……。
コロコロ。
「……」
誰も、何も言えないでいる。
家電量販店のテーマソングがやけに大きな音で聞こえた気がした。
やがて、蘭子が口を開いた。
「タカヤ……。お前は本当につまんないやつだな」
白い球を見ながら、ジト目でタカヤに不満を言っていた。
「残念だったねー! でもハズレでも参加賞があるから大丈夫だよ」
おじさんはホッとした表情でそう言うと、ファミレスの『ドリンクバー無料券』を二枚取り出し、蘭子とタカヤヘ手渡した。
「……どりんくばー?」
その券を受け取った瞬間、蘭子の目がキラーンと輝く。
「あ、やばい」
「来たね」
俺と静香は察した。
次に来るセリフは多分あれだ。
————
こうして、冒頭の『あおい! ドリンクバーって何だ?』に繋がるというわけだ。
蘭子が行ってみたいと言うので、せっかくもらった無料券だし、俺たちは記載されたファミレスへ向かう事になった。
嫌な予感しかしないけど……。
LIMEでタカヤからの初メッセージは
「これでい」でした。
多分、文字打ってる途中で送信したんだと思います。
その後に「これでいいのか」と送られてきました。




