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気になる蘭子は止まらない  作者: きら
ドリンクバーって何だ?

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いらっしゃいませ

 ファミレスはこのビルの一階に入っている。

そこでドリンクバー無料券が使えるらしい。


 エスカレーターを降りて反対側にぐるりと周ると、駅への連絡通路手前にファミレスの入り口が見えてきた。

四人で入口に向かっていると、偶然にも前方から見慣れた金髪が歩いてくる。

「あれー? 葵と愉快な仲間達じゃん! どしたの? みんなこんなとこで?」

 ヒロシは制服姿だが、スポーツ用品店の袋を手に提げており、袋の口からは新しい野球のグローブが見えていた。

「あれ? お前今日部活はいいの?」

てっきり部活で練習三昧だと思っていた葵は、幼馴染との偶然の出会いに驚いている。

「今日は早上がりだったんだよねー。野球部は休みだし。だから、この時間を利用して新しい道具の調達に来たってことよ!」

ヒロシは人差し指と親指でアルファベットの『L』を横にしたような形を作り顎に当て、白い歯をキラーンと光らせながら言った。

「お前、その無駄にカッコつけんのやめとけよ……」

葵は呆れて冷ややかな目で言う。


 そこでヒロシに声をかけたのは意外な人物だった。

「おお! ひろし! お前もドリンクバー、一緒にいくか?」

蘭子がヒロシを誘っているのだ。

「えっ!? 蘭子ちゃん俺を誘ってくれるの? めっちゃ嬉しい! それじゃ、遠慮なくご一緒させてもらおうかな?」

ヒロシはデレデレとした表情で四人と合流した。

 しかし、『愉快な仲間達』と適当に扱われたことが気に食わなかった静香がぶっきらぼうに言う。

「これであんたも私たちと同じ、『愉快な仲間達』の一員ね」

「ようやく混ぜてもらった感じするよ」

静香から冷たい扱いを受けることに慣れているヒロシは笑っている。

むしろまんざらでもないといった態度で愉快な仲間たちの一員となれたことに喜びを感じているようだった。


 そんなヒロシを、凄い目つきで睨みつけている男が居る。

蘭子ちゃん大好きな我らが騎士、タカヤだ。

「な、なぁ葵……。なんでアイツ、俺の事あんなに睨んでるの?」

ヒロシはヒソヒソと葵に耳打ちをしながらタカヤの視線を気にしていた。

その姿を見て、なんか面白そうだと思った葵は少しヒロシを揶揄うことにする。

「アイツはな、蘭子の事が大好きなんだ。だから、蘭子に無礼なヤツは襲われるから気をつけろ。さっきも蘭子に無礼な態度をとったヤツに襲い掛かろうとしたんだ。静香と何とか止めたけど」

その相手はスマホの音声アシストだったことをわざとそれを隠して、ヒロシに追い討ちをかける。

「何だって!? ……あ、やっぱり用事ガアッタンダッターカエロウカナー」

葵の話を聞いて怖くなったヒロシは、何故か片言の日本語になって踵を返そうとする。


「逃げんなよ」

「逃がさないわよ」


しかし、葵と静香が片方ずつヒロシの肩を掴んで逃がさない。

スマホの一件で疲れている二人は、ヒロシを巻き込んで異世界コンビの相手にしようと企んでいるのだ。


「うぅ……わかったよ。……うわ、まだ睨んでる……」

 観念したヒロシは突然蘭子に向き合い、片膝をつきながら両手を差し出した。

「この度はお誘いありがとうございます蘭子様。このヒロシ、あなたの為に美味しいドリンクを作らせていただく所存です」

側から見ればプロポーズに見えなくもないだろう……。

 

 突然のヒロシジョークを頂いた蘭子はキョトンとしながらフリーズし、葵と静香はジト目でヒロシを見つめている。

一方、タカヤは鋭い目つきを更に鋭くさせてプルプル震えていた。

「お前、ビビってるくせにこの状況でよくそんな事できるな……」

予測不能な幼馴染の行動に、葵は呆れ半分、感心半分で呟く。


「……あ、あれ?」


 周りの反応を見て盛大に滑っていることに気がついたヒロシは、頭をかきながら苦笑いで立ち上がる。

その瞬間、タカヤの手が腰付近に移動し始めたのを葵と静香は見逃さなかった。

葵は慌ててタカヤの手首を掴んで止める。


「やめろタカヤ。アイツはアホなんだ。早まるな」


 葵に止められたタカヤはハッと我に返り、静香は自然に蘭子からタカヤが見えなくなる位置に立つ。

「ほら! バカやってないでいくよ」

そのまま静香は強引に蘭子の手を引くと、せかせかとファミレスの入り口へ向かっていった。


 馬鹿にされているヒロシを、怪訝な表情で見つめるタカヤに向かって葵は言う。

「ヒロシはこんなヤツなんだよ。本当に悪気はないんだ。許してやってくれ」

葵がそう言うのであればそうなのだろう。

タカヤは、渋々ヒロシという男を受け入れることにした。


 すると、その会話を聞いていたヒロシが、タカヤに向かって馴れ馴れしく声をかけた。

「そうそう。俺らはいつもこんな感じなの。っということでよろしくね! ()()()()()!」


「っ!? クロちゃ……!?」


 急に呼ばれたことがない呼び方をされ、タカヤは狼狽えてしまった。


「…………風間ヒロシ……風変わりなヤツだな」


 でも、葵と幼馴染だということは、きっと悪いやつではないのだろう。

せっかくなので、新たな仲間との親睦も兼ねてドリンクバーを素直に楽しむことにした。


「なにしてんだ? 早く来い!」

静香に手を引かれる蘭子に呼ばれた三人は、一緒にファミレスへと歩き出した。


「いらっしゃいませ〜! 何名様でしょうか?」


 五人でぞろぞろ入店すると、黒い襟付きのシャツを着た元気の良い女性ホールスタッフがやってきた。

歳は近いように見えるので、恐らく学生のアルバイトなのだろう。

「五人です」

 人数の確認を求められていたので、ここは葵が代表で答えた。

「五名様ですね! お好きなお席へどうぞ!」

五人を一瞥したホールスタッフはニコリと笑うと厨房へ戻って行く。

 

「『お好きな席へ』って言っていたな。案内はしないのだな。あれは給仕ではないのか?」

 一応レストランのシステムを知っているらしい蘭子は、こっちの世界では当たり前となった光景に疑問を感じているようだった。

「給仕って言ってもただのアルバイトだろうからな。多分、歳も近そうだから、普段は学生で、放課後ここで働いているんだと思うぞ。それに、こっちではセルフで済ませることが多くなってる。いろんな技術が進歩して人間の仕事は減ってきているんだ。じきにわかる」

 葵はそう言うと、店の奥側、角のボックス席が空いているのを見つけ、四人を連れて店の奥へ歩き出した。

その後ろでは、蘭子が楽しみで仕方がないと言ったように、ルンルンと葵の横へ並ぶ。

 

 すると、今度は厨房の出入り口から陽気な音楽が近づいてきた。

音のする方を見ると、猫型配膳ロボットが「通してにゃ〜ん」と喋りながら料理を載せて現れたのだ。

その瞬間、蘭子が口元に手を当てて「はっ!」と驚いた。


「……な、なんだこの可愛い従者はっ……!? 見ろ! 金属の体で一生懸命に給仕の仕事をしてるぞ……! これがさっきあおいが言っていたことか!」

 

 目をキラキラさせながら猫型配膳ロボットの前に出ると、視線を合わせるように両膝へ手を置き、中腰で観察を始めた。

猫型配膳ロボットは進路に現れた蘭子を察知すると、蘭子の手前でピタリと止まり、表情を映しているディスプレイが困り顔に変わった。


「どいてほしいにゃ……」


 どこか悲しそうに喋る猫型配膳ロボット。

「おお、すまない! 仕事の邪魔をしてしまったな」

その困った声を聞いた蘭子は慌てて進路から外れ、葵の隣に戻ってきた。


 だが、今度は変わってタカヤが前に出てくる。

もう嫌な予感しかしない。


「……蘭子。下がっていろ。姫君に進路を譲らせる給仕がどこにいる。無礼者め。今ここで斬り捨てる」


 このくだり、もはやお約束になったようだ。

すると、蘭子が頬を膨らませながらタカヤを睨みつけた。

「ターカーヤー!」

両手を腰に当てながら叱りつけると、タカヤは一瞬だけビクッとして、大人しく何事もなかったかのように後ろへ引いていく。

「お前、わざとやってるだろそれ……」

 葵は後ろに下がっていくタカヤに向かって、呆れながら言う。

「……アオイ、早く席に向かうぞ」

当の本人は、なんだか満足そうだ。得意げにボックス席の方を指さしている。

どうやら何もなかった事にしたいらしい。

もしかして、蘭子に構ってもらえるからやってるのかそれ?


 アホな人間共に仕事の邪魔をされた猫型配膳ロボットは、再び陽気な音楽を流しながら何事もなく去っていく。

「さらば、可愛い給仕猫よ……また会おう!」

蘭子は胸に手を当てながら猫型配膳ロボットに敬意を示していた。


 そこで、一連のやり取りを後ろで見ていたヒロシが葵の肩を叩いて耳打ちしてくる。

「ね、クロちゃんっていつもあんな感じなの?」

入学式以降、あまり交流のなかったタカヤの様子を見てニヤニヤしていた。

「言っただろ。あいつは蘭子のことが好きすぎるんだ。面白いやつだろ? お前と気が合うかもしれないな」

ヒロシは、タカヤのことをクールでミステリアスな留学生として認識していた。

実際、クラス内でもそのキャラで通ってる。

しかし、葵達と居るタカヤは意外とひょうきんで、実際は『空回り系ポンコツキャラ』だったことに親近感が湧いていた。

「そうかも。あんな面白い奴だったなんて何で教えてくれなかったんだよ」

ヒロシは葵を肘で小突く。

「お前が部活ばっかで付き合い悪かったからな。だから今日はいい機会だろ。付き合え」

小突かれた葵は、部活で青春を謳歌しているヒロシにちょっと嫉妬しながら返事を返した。


 ファミレスの奥、窓際の角にあるボックス席へと到着した。

店内の木目調の壁に馴染むような茶色の三人掛けソファーが向かい合わせに設置されており、その間に長テーブルがある。

ソファーの奥が窓となっていて、窓の外は駅前の通路を忙しなく行き交う人たちが見えている。

「……なんか入店だけで一悶着あったな」

やれやれと言った感じで、葵が壁際の窓側に座る。

「流石に、毎回この調子だと疲れるわね」

次いでその正面に静香が座る。

二人に続いて、蘭子が葵の左隣に、その隣にはタカヤが座り、ヒロシは静香の隣へ座った。

ヒロシの右側は空席となっており、ヒロシはみんなの荷物を受け取って空席に並べる。


 全員が着席して落ちついたところで、葵がテーブルの隅に設置された注文用のタブレットを取り出し、みんなが見えるようにテーブルに置いた。

すると、すぐに蘭子とタカヤが覗き込むようにしてタブレットを興味深そうにジロジロと見つめていた。

「あおい、何だこれは? スマホに似ているがちょっと違うな?」

「スマホよりも大きい。それに先ほど運ばれていた料理が表示されている」

二人は自分のスマホを取り出してタブレットと比べている。

「そう。スマホと似ているがちょっと違う。これはタブレットって言うんだ。そしてこのお店のメニューがこのタブレットに表示されている。料理の注文もこれでできるんだぞ。便利だろ?」

 葵はタブレットの説明をしながら画面を操作し、クーポン番号を入力する画面を表示させた。

「蘭子、さっきの無料券ちょっと見せてくれ」

葵に言われ、蘭子は「お、おー。これな!」と言いながらスマホケースに挟んだ無料券をテーブルに置くと、葵は券に記載されたメニュー番号をタブレットに入力した。

画面には『ドリンクバー(特別割引) ¥0 ※1枚につき5名まで。クーポンのみの利用はできません』と表示されている。

「数量は五人分っと。一枚で五人まで使えたからタカヤの券は必要ないな。あとはみんな何か一品ずつ頼まないとダメっぽいぞ?」

 葵はタブレットの画面を料理メニューに切り替えると、そっと蘭子とタカヤの間に置いた。


「見ろ! デザートがあるぞ! これはどうすればいいんだ?」

 蘭子は画面上部に表示された「デザート」のタブを見つけて嬉しそうにしているが、操作方法がわからないらしい。

「……俺に貸してみろ。多分、ここを触ればメニューが出る」

そう言いながら、タカヤが「デザート」のタブを人差し指でタッチすると、画面が切り替わり、デザートメニューが表示された。

「おお! やるではないかタカヤ」

蘭子は小さく拍手をしながらタカヤを誉めている。

「さっき買ったスマホの操作と、今アオイが操作していたのを見てそうだと思っただけだ」

タカヤは何てことないといった表情を作りたいようだが、蘭子に褒められて少し嬉しそうにニヤけている。

よかったな。褒めてもらって。

 

「クロちゃんは機械とか得意そうだね。物覚え良さそうだし」

 感覚で操作方法を覚えていくタカヤを見て、ヒロシは感心していた。

「さっきスマホを買った時の話だけど、契約書を一瞬で覚えてその場で全部暗唱したくらいだからな……」

そんなヒロシに葵がうんざりしながらタカヤの超能力を教えてあげた。

「うわ……まじか。それはちょっと引くわクロちゃん……」

さすがにそれはヒロシも引き気味だった。

「なぜだ? なぜこっちの人は『契約』に対してそんなに甘いんだ?」

そう言われたタカヤは、葵とヒロシを交互に見ながら疑問を投げかける。

真面目なタカヤは周りの反応に納得がいかないらしい。

「まぁ……スマホの契約書に書いてあることって、当たり前のこととか常識的なことしか書いてないからな……」

「そうそう、そりゃそうだろうみたいな。ま、それを逆手に取って悪用する業者もいるから用心するのはいいことだけど」

葵とヒロシは顔を見合わせながら苦笑いしている。

「そういうものなのか……」

自分がズレていることをようやく認識したのか、タカヤは腕を組んで目を瞑りながら考え込んでしまった。


 その間に静香から操作を教わった蘭子がようやくメニューを決めたようで、タブレットがタカヤの前に置かれる。

「ほら、難しいこと考えてないでお前も何か頼めよ」

真面目に考え込んでいるタカヤに向かって葵が急かすと、タカヤは慌ててタブレットを操作し始めた。

タカヤがメニューを選んでいる間に、ヒロシは蘭子へ向かって話しかける。

「蘭子ちゃん達、いつの間にかスマホ持ってると思ったら買いに来てたのね。ここにいる理由がわかったよ」

「そうだ! あおいとしずかに色々教えてもらってな。ドリンクバーの無料券もその時にもらったんだ」

蘭子は意気揚々とスマホ契約に至るまでの出来事をヒロシに話し始めたが、すぐにヒロシの表情が引き攣り笑いに変わっていった。

 

 ようこそ蘭子ワールドへ。


 一人一人順番にタブレットが周り、それぞれの注文メニューが決まった。

葵は『ガトーショコラ』、静香は『フルーツあんみつ』、蘭子は『チョコバナナサンデー』、タカヤは『アサイーヨーグルト』、ヒロシは『バニラアイス』と、みんなの為に『盛り盛りポテトフライ』を選んでいた。


「よし。これで『注文を確定する』をタッチすれば、さっきの猫型配膳ロボットが運んできてくれるぞ」

 そう言って葵が注文を確定させ、タブレットを元の位置に戻す。

「すごいな! 本当にこれで頼めたのか? 楽しみだ!」

 蘭子はワクワクを百倍にして、パーティーの主役になろうとしているかのように笑った。

やばい。ハチャメチャが押し寄せてくる……!?


「よし。それじゃあドリンクバーに行きますか!」

葵の号令で五人一緒に立ち上がり、いよいよお待ちかねのドリンクバータイムが始まる。


「よーし! 蘭子ちゃんとクロちゃんにドリンクバーの楽しみ方教えてやるぜ!」

 

もちろん。

このメンツで何も起きないわけがなく……。

早速ヒロシがハチャメチャを起こそうとしていた。

猫型配膳ロボットって、料理を運んできた時に撫でてあげると喜ぶらしいです。

今度試してみます。

やり過ぎると怒られるとか。

猫型配膳ロボットに怒られたい。

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