激突!ヒロシvsタカヤのドリンク対決
タカヤを部活に勧誘する為にヒロシが出した条件とは?
ドリンクバーコーナーでは、ヒロシが蘭子とタカヤを従えて『ドリンクバー講座』を開催していた。
「ほどほどにしておけよー」
葵はその横でアイスティーを注ぎながら三人に向かって言うと、ホットコーヒーを注いだ静香と先にテーブルへ戻った。
葵は席につきながらダルそうに言う。
「異世界コンビの相手をさせてやろうと連れてきたのに、なんか余計に疲れる展開になりそうだな」
「明らかな人選ミスね。私もこの後どうなるか心配になってきたわ……」
静香も心底めんどくさそうにコーヒーを啜った。
程なくして。
戻ってきた三人が手にしているドリンクは意外と普通だった。
「……もっとおどろおどろしいドリンクが来るのかと思ってたから安心したよ」
葵は三人のドリンクを順番に見てホッとしていた。
それぞれのドリンクは、ヒロシがコーラ、蘭子がグレープサイダー、タカヤは野菜ジュースだった。
「ふふーん。わかってないな葵は! ドリンクバーを制すには、まず基本の味を知る事だ」
そんな葵に向かってヒロシがドヤ顔で堂々と説明を始める。
なんかムカつく。
それぞれが着席したところで、あの陽気な音楽が近づいてくるのがわかった。
猫型配膳ロボットが、注文した料理を載せてやってきたのだ。
「お待たせしましたにゃ。お料理をお持ちしましたにゃ」
そう言いながらテーブルの前でぐるりと半回転し、運んできた料理が取りやすい向きに止まった。
「おお! お前はさっきの給仕猫ではないか! 待っていたぞ!」
ヒロシが料理を取り出してテーブルに並べている間、蘭子はタカヤ越しに手を伸ばして猫型配膳ロボットの頭を撫で始める。
すると、ディスプレイに表示された表情が嬉しそうな顔に変わって喋り出した。
「うれしいにゃ。ありがとうにゃ」
まるで蘭子に懐いているかのように、デレデレとした表情で、気持ちよさそうに。
「えっ! こいつこんな機能あったの!? 知らなかった!」
それを見た葵は、驚いて思わず声を上げる。
「あおいでも知らないことってあるんだな」
蘭子は手を引っ込めながら、葵が驚いていることに驚いていた。
「私も知らなかったわ」
「俺も俺も! ここのファミレスよく来るのに知らなかった」
どうやら静香とヒロシも知らなかったらしく、二人は交互に猫型配膳ロボットの頭を撫で始めた。
「気持ちいにゃーん」「うれしいにゃーん」
デレデレした表情で撫でられている猫型配膳ロボット。
しかし、次にタカヤが撫で始めると表情が一変した。
「触らないでにゃ!」
「しつこいにゃ!」
突然、困った表情になり嫌がり始めたのだ。
一人だけ拒否られているタカヤを見て周りの四人は笑っている。
「な……、なぜ俺だけ……」
引き攣った顔で焦っているタカヤは、負けず嫌いなのか意地っ張りなのか、再び猫型配膳ロボットに手を伸ばした。
すると、今度は怒りマークがディスプレイに表示され、怒りの表情に変化する。
「しつこいと嫌われるにゃ! さよならにゃ!」
ブチギレた猫型配膳ロボットは、ぐるりと厨房の方へ向きを変えて戻って行った。
動作は来た時と変わらないのに、心なしか本当に不機嫌そうに見えるのが不思議だ。
タカヤはというと、撫でた手がそのまま宙に浮いた状態で固まっている。
「タカヤ……フラれたな」
そんな姿を見た蘭子がに笑いながら揶揄うと、静香が続ける。
「さっき斬ろうとしたから嫌われたのかもね」
痛い一言でトドメを刺されたタカヤは、ガクリと腕を下ろして落ち込んでしまった。
「クロちゃん目つき悪いもんねー」
更に空気を読まないヒロシが追い打ちをかける。
やめろヒロシ。
それ以上はオーバーキルだ。
そしてロボット相手に何してんだお前ら……。
一旦場が落ち着き、タカヤが気を取り戻した所を見計らって、葵が話題を変えた。
「野菜ジュースにアサイーヨーグルトって、お前、本当にそういうの好きなんだな」
タカヤは『よくぞ気がついてくれた』と言わんばかりに眉毛を上げる。
「こう言う時こそ栄養バランスが崩れやすくなるんだ。完食でも気を抜かないのが俺流だ」
腕を組みながらウンウン頷いて語るタカヤに、今度はヒロシがニコリと笑って言う。
「なるほど。クロちゃんはアスリートだね。そういえば、体力測定の時も成績良かったよね? あの成績で帰宅部はもったいないよ! 一緒に部活やろうよ部活! クロちゃんなら絶対活躍できるって!」
タカヤの運動神経を見込んで部活の勧誘を始めたのだ。
「……いや、俺は学業に専念したいんだ。体を鍛えるのは自己流でやりたい。悪いが辞退させてくれ」
だが、タカヤは冷静に、ハッキリと断った。
それでも、目の前にいる逸材を逃してはならぬと、ヒロシも簡単には引き下がらならい。
「わかった。それじゃ勝負しようぜ! 俺が勝ったら部活に入る。クロちゃんが勝ったら俺は諦める。どうだ?」
『勝負』という言葉にタカヤがピクリと反応した。
「何!? 勝負だと? 望むところだ」
本当にわかりやすい奴だ。
勝負の内容が明かされていないのに即答で受けちゃったよ。
「……あーあ。なんか始まっちゃったぞ」
「勝負って……。何で戦うのよ……?」
「おー! 面白そうだな! タカヤ、負けたら騎士はクビだ!」
呆れている葵と静香とは裏腹に、蘭子はノリノリで二人の勝負を楽しもうとしている。
っていうかサラッとクビがかかってるけど大丈夫なのか?
「……で、何するんだ?」
アイスティーを一口飲んだ葵がめんどくさそうにヒロシに尋ねる。
「よくぞ聞いてくれた! 勝負の内容は——ズバリ! 『ドリンクバー対決』でしょう!」
ヒロシは人差し指を天井に向けて、日曜日の夕方にテレビで見るメガネ男子の真似をしながら対決内容を発表した。
「……アホか」
「早飲みでもやろうってわけ?」
ボソッと一言つぶやいて、どうでもよさそうにガトーショコラを食べ始めた葵に変わって、静香がヒロシに問いかける。
「そそ! ルールはね、蘭子ちゃんが、俺とクロちゃんにオリジナルドリンクを作って持ってくる。あ、二人とも同じドリンクね! それを先に飲み干した方が勝ち。どう?」
至ってシンプルだが、『蘭子が作ったオリジナルドリンク』と言う部分で嫌な予感しかしない。
「おもしろい! 蘭子が作るドリンクなら俺は負ける理由がない。悪いがこの勝負、すでに決まったな」
タカヤなんか勝負が始まってもいないのに、すでに勝利宣言だ。
「いやー、それはどうかなクロちゃん? ドリンクバー百戦錬磨のこの俺と戦って簡単に勝てるとは思うなよ」
それはヒロシも負けていなかった。
よくわからない自信があるようで、タカヤの勝利宣言を否定してみせた。
いつの間にか二人は片腕をテーブルに付き、身を乗り出して睨み合い始めた。
お互いのおでことおでこの間にバチバチとした稲妻のような閃光が走り、ニヤリと笑って席に座り直す。
「よし。それじゃあ、わたしがドリンクを作ってくればいいのだな? 待っていろ。とびっきりの蘭子スペシャルをご馳走してやる」
蘭子は腰に手を当てて立ち上がると、「ちょっとタカヤ、どいてくれ」と言いながらドリンクバーコーナーへ向かって行った。
蘭子が戻るのを待つ間、葵はどうしても気になっていたこと尋ねてみた。
「そういえばヒロシ。前から聞こうと思ってたんだけどさ、高校の部活は規律とか厳しいんだろ? 金髪で大丈夫なのか?」
「あー、最初は言われたよ? けどさ、ゴチャゴチャうるさいからさ、実力で黙らせた」
コーラを飲みながら当然のように言うヒロシだが、三人は「え?」と言いながら呆然としている。
「見た目でどうこう言う人って嫌いなんだよね。今どきそんなの古いって。ま、いざとなればスプレーとかですぐ黒染めできるし」
ヒロシは続けてどうでも良さそうに答える。
彼の運動能力はずば抜けている。
中学時代は、彼の右に出る者は居ないと言われていた程レベルが高かった。
「……お前っぽいな」
葵は笑みを浮かべると、部活で付き合いの少なくなった幼馴染が何も変わっていない事に安堵していた。
程なくして、蘭子がドリンクを両手に戻ってきた。
「……うっ! お前……何だそれ……?」
得体の知れないグツグツ泡立っている紫色のドリンクを見て、葵が青い顔をしていた。
「何言ってんだ? 蘭子スペシャルだ。ほれ、タカヤ、ヒロシ飲め」
タカヤとヒロシは、目の前に置かれたドリンクを見て真顔でゴクリと唾を飲み込んでいる。
その様子を見て静香が口を挟んだ。
「一緒に飲むのもいいけれど、お互いの飲みっぷりを見るって感じで、一人ずつ飲んでタイムアタックにしたらどうかしら?」
どうやら静香はこの勝負を楽しむことにしたらしく、見ているこちらが面白くなりそうなルールに変更したいようだ。
「そうだな。わたしもそれがいいと思う。一人ずつ感想を聞かせろ」
そして、蘭子も静香の案に乗ったところで、二人はこの案を受け入れたようだった。
飲む順番はじゃんけんで決めることになり、タカヤが先、ヒロシが後になった。
「……よし。それでは俺から行くぞ。悪いが、一瞬で飲み干して勝負を決めてやる」
いよいよドリンクバー対決が始まる。
タカヤがコップにストローを入れると、蘭子の「スタート!」の合図で一気に飲み始めた。
ズズズズズズ——ごっくん。
タカヤはものすごい速さで蘭子スペシャルを飲み切った。
次の瞬間。
「…………うっ!」
カッ!
突然、目を見開いたままフリーズしてしまった。
「しずか! 何秒だ?」
タイムを測っていた静香に蘭子が結果を聞いている。
「7秒よ」
凄いのか凄くないのか、よくわからない結果が発表された。
タカヤはヒロシの方を向きながらフリーズしており、目を見開いたまま一言も発さない。
「……だから! 睨むなって! 怖いって!」
ヒロシはタカヤがフリーズしているとは知らず、無言のプレッシャーをかけられていた。
「だが……、俺は逆境こそ真価を発揮する男だ。それじゃ、蘭子ちゃん! よろしく!」
勝手に追い込まれているヒロシは、アスリートっぽいことを言いながら気合いを入れて準備を始める。
そして、ヒロシがストローをコップに入れると、蘭子が再びスタートの合図をした。
ズズズズズズ——ごっくん。
ヒロシもすごい速さで蘭子スペシャルを飲み切った。
「どうだタカヤ! 凄い味だったがお前は俺に——」
カッ!
喋ってる途中に目を見開いたままフリーズしてしまった。
「しずか! 何秒だ?」
タイムを測っていた静香に、再び蘭子が結果を聞いている。
「7秒よ。引き分けね」
1回戦は、まさかの引き分けという結果になってしまった。
目を見開いたまま向き合っている二人は、言葉も発さず動こうともしない。
「あおい。あれ何やってんだ?」
奇妙な状況に陥った二人を見て、蘭子が心配そうに葵に聞いてくる。
「安心しろ。勝負は"にらめっこ"に変わったんだ。そのままにしておけ」
心底めんどくさくなった葵は適当に返す。
「そ……そうか。ならいいんだが……。なんか不気味だぞ」
蘭子は珍しくどん引き気味した様子でその様子を伺っていた。
しばらくして、二人同時に「ハッ!」と我に返った。
「今、蘭子とバージンロードを歩いていた。俺は……何を?」
「今、甲子園でサヨナラホームランを打っていた。俺は……何を?」
夢でも見ていたのか、突然訳のわからないことを言い出した。
「お前ら……何飲まされたんだよ。蘭子、何混ぜたんだ?」
強い幻覚作用があるらしい蘭子スペシャルの謎を解くべく、葵は蘭子にドリンクのレシピを聞いてみた。
「何を入れたかよくわからない。しかし、あそこにあるものしか入れてないぞ?」
蘭子は至って真面目に答える。
"何を入れたかよくわからない"というセリフが不穏すぎるんだが……。
「なんでだ……」
「ここにあるものでそんな飲み物作れちゃうってヤバくないかしら?」
葵と静香は顔を見合わせながら、この勝負に巻き込まれなくて良かったと安堵していた。
ヒロシが頼んだポテトなんですが、付属のケチャップに粉チーズ入れるとめっちゃ美味いです。お試しあれ。




