↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気になる蘭子は止まらない  作者: きら
夏祭りって何だ?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
85/87

こんな時こそ甘味の出番

 静香は黙って状況を見ていた。


 セリスと初めて会ったゴールデンウィークの夜に比べると、今は敵意を感じられない。

タカヤの情報通り、蘭子の前では別人のように振る舞っていることから、今はあの挑発的な態度を隠しているのだろう。

タカヤに対しては昔からあの態度のようだが……。


(葵ってば、あんなにデレデレしちゃって……。それに、さっきの視線……。あれは、わざとやってるわね)


 敵意がない代わりに、静香へ嫌がらせのような態度をとっているのは明らかだ。


(私に声をかけてこない辺り、やっぱり何か牽制してるわね……。葵も混乱しているようだし、それなら——)


 葵が困り果てたところで、静香が動いた。


「こんばんはセリスさん。お久しぶりね」

葵に助け舟を出すこと、そしてセリスの動向をハッキリさせる為、こちらからあえて声をかけた。


「あら……? あなたとは()()()()()()()()()()ですが……。まぁ、私も多忙なもので、どこかでご挨拶をして忘れてしまっているだけかもしれませんわね。ご無礼をお許しください」


 セリスはその場から動かず、視線だけを静香に向けた。

その時、少しだけ眉がピクリと動き、一瞬だけ不快そうな顔をしたのを静香は見逃さなかった。

「余計なことを言うな」とでも言いたそうな表情だ。


("初めて会った"。そう……。あの夜は存在しなかったことにしたいのね)


 セリスはあの出来事を蘭子に隠すつもりのようだ。

その理由はわからないが、少なくとも何か企んでいることはわかる。

 

「お? 静香はセリスと会ったことがあるのか?」

 少し考え込んでしまったところで、ふと蘭子に話しかけられて我に返った。


(いけない。私が油断していたのもあるけど、不意打ちで接触されたから彼女のペースに乗せられていたわ)


 少し焦りもあったのだろう。

それに、葵と握手するあの姿を見てから、どうも不快な気分が消えない。

 

 静香は一度「ふぅ」と息を吐き、蘭子に向かって微笑んだ。

「私はあるけれど、セリスさんは覚えてないみたいね。それじゃあ改めて——」

そして、セリスに握手を求めて一歩、二歩と前に出る。

 

「失礼。(わたくし)、貴方から漂う"和"の匂いが少々苦手ですの。お気を悪くされたらごめんなさい」

 

 だが、セリスは渋った顔で逆に一歩、二歩と後退りしていく。

もっともらしいこと言っているが、これは明確な拒絶だった。


「……そう。残念ね」

(和の匂いって……。あなたも浴衣を着ているじゃない)


 今の態度でわかったことは、"静香は相手にしない"ということだ。

つまり、セリスから聞き出せる情報はここで手詰まりとなった。

(でも、思った通り。最初のターゲットは私だったわね)

 自分がセリスの立場だったら、きっと三原静香という存在は大きなリスクと考えるだろう。

戦略を考える上では当然の判断だと思う。

わかってはいたが、こうもわかりやすい態度を取られてしまうと不愉快だ。

そんな静香の気持ちが、思わず顔に出てしまっていた。


(なんか険悪な空気になっちゃったな……。もしかして、この状況をどうにかするの……俺か?)


 葵は静香の悲しげな表情を見逃さなかった。

この、複雑な関係になった理由はよくわからない。

ただ、セリスは蘭子との関係は良好そうで、どうもタカヤと静香とは反りが合わないようだということはわかった。


(といってもなぁ……。どうしたらいいか……。そうだ!)

 

「まぁまぁ、タカヤ、静香。そんな顔しないでさ、とりあえずこのりんご飴食べようよ」

「アオイ! お前はこの状況でっ」

「とりあえず糖分補給だ。情報量が多すぎて俺の脳みそが悲鳴を上げてる。甘いもの食べて頭を整理させてくれ」


 こうなったら秘技、"時間稼ぎ"だ。

情報を整理する時間も欲しいし、カッとなっているタカヤにも少し頭を冷やしてもらいたい。


 そんな葵の提案に、パァーッと顔を明るくした蘭子がすぐに乗っかる。

「そうだ! わたしのりんご飴! 返せっ!」

今度はバシっとタカヤからりんご飴を奪い返すと、すぐにパクリと頬張った。

「お前が俺に持たせたのだろ……」

蘭子の電光石火な動きに一瞬驚いた顔をしたタカヤだったが、すぐに呆れて深いため息をついた。


「ふふ。仕方ないわね」

 トンチキ異世界コンビがいつもの雰囲気に戻ると、静香も自然と笑顔になった。

(葵に助け舟を出すつもりが、逆に助けられたわね)

ついさっきまでこの場を支配していた緊張感は、りんご飴の甘酸っぱい味のような空気に変わっていた。


「……ふーん。なるほど。貴方はそういうお人なのですね」

 

 せっかく引っ掻き回そうとしていた空気を変えられてしまった。

もぐもぐとりんご飴を味わいながら、セリスはつまらなそうにボソッと呟いた。


 冷ややかな視線を一瞬だけ葵に向けた。

たった今、彼の言葉が険悪なムードを一瞬にして消し去った所を目撃した。


"三崎葵"。


 やはり、ただのお人好しではなさそうだ。

人の心を動かした彼は、一体何者なのだろう?

こんな人には、今まで出会ったことがない。

 

「ん? なんか言ったか?」


 そんな彼は、裏表もない態度で今日初めて会ったセリスに笑顔を向ける。

 

「なんでもありませんわ。それより、本当に美味しいですわね、このりんご飴」

 

 思わずプイッとそっぽをむいてしまった。

口を尖らせてみたものの、不思議と頬が緩んでしまった。

それは、この甘いりんご飴のせいか。それとも、三崎葵の空気に飲まれてしまったのか。


「……」


セリスは照れ隠しをするように、小さくなったりんご飴を一気に頬張った。

葵のおかげで超バトル展開が避けられそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。