和睦の条件は……?
「つまり、セリスは蘭子と同じ世界から来ていて、エルトリアと敵対する国の王女様。それに、どういうわけか知らないけど、蘭子やタカヤと小さい頃からの知り合い——という関係で間違いないな?」
りんご飴の糖分をエネルギーにして、脳みそをフル回転させた葵は、目の前の情報をひとつずつ整理していく。
「そうだ!」
蘭子は短く一言で肯定すると、小さくなったりんご飴を一気に頬張った。
一方、セリスは少し不機嫌そうに頬を膨らませていた。
「失礼なお方ですわね。私が"王女"とわかっていながら、敬称さえ付けないなんて」
ふてくされたようにそっぽを向きながら腕を組むが、その目は葵と蘭子をチラチラと見ているのがわかった。
……なんだか、構って欲しそうな感じにも見える。
「セリス。別に良いだろ。ここでは敬称なんか気にしなくても」
蘭子は、目が合ったセリスを宥めるように諭しながら、葵に視線をやった。
「蘭子の言う通りだ。俺は王女様だろうがお姫様だろうが、この世界では同じ"高校生"として接するからな。それが嫌だったら、悪いがここから立ち去ってくれ。ここはセリスたちのいる世界じゃない」
葵の強気な物言いに、タカヤと静香は思わず葵へ視線を向けた。
何か危害を加えられるのでは、と一瞬焦ったのだ。
しかし、今の葵の言葉は、セリスによく効いたようだった。
「……わかりましたわ。そこまで言うなら仕方ありません」
拗ねたように口を尖らせながら、セリスは下を向いてしまう。
彼の一言一言は想定外の言葉ばかりだ。
そのせいで、自分の思い通りに事が進まない。
蘭子までも味方に付けている。
セリスは少し、焦っていた。
これで、自分の世界の事情を挟むことが難しくなった。
せっかく接触したにもかかわらず、"立ち去ってくれ"と言われた以上、ここは三崎葵の口車に乗るしかない。
セリスは、どうにか流れを自分に引き戻すための策を練り始めた。
しかし——。
「よし。それじゃあ、ここからはセリスの話を聞かせてくれ」
不意に葵から話を振られたのだ。
「……私、の?」
あまりに急な事だったので、思わずキョトンとしてしまう。
「そうだ。この世界には、何しに来たんだ?」
「りゅ……、留学に決まっていますわ! 蘭子様たちと一緒です!」
「そっか。それなら、ここで俺たちと会ったのは偶然か?」
(……いちいち答えづらいことを聞いてきますわね)
突然始まった尋問のような時間。
だが、それは問い詰めるような厳しいものとは違った。
葵が優しく微笑む姿に乗せられ、セリスのペースはどんどん乱されてしまう。
(このままでは……、目的が果たせませんわ)
不意打ちで攻め入ったつもりだったが、それが失敗したことを自覚した。
だが、まだ巻き返せる。
護衛を追い払い、蘭子を利用して三崎葵も一緒に連れ出すつもりでいたが、作戦変更だ。
うまくこの仲間に混ぜてもらえば、エルトリアの目的のヒントが掴めるかもしれない。
「ええ! たまたまお見かけしたので、ついお声をかけてしまったのですわ。驚かせてしまってごめんなさい」
セリスは一瞬だけ、タカヤと静香に目線をやった。
「余計なことを言うなよ」と牽制したのだ。
冷静に考えれば、敵意を知っているのはあの二人だけだ。
うまく立ち回れば、葵と蘭子を利用して、護衛の二人を牽制できる。
三崎葵との会話には泡を食ってしまったが、タカヤと静香に対しては優位な立場にいるのだ。
それを理解しているらしいタカヤと静香は、お互いの顔を見合わせ、何もできずにいた。
その様子を見て、セリスは思わず口元を緩めた。
「本当に驚いたぞ! まさかセリスがこっちに来てるなんてな! よし。せっかくだ! セリスも一緒にお祭り行くぞ!」
一瞬、緊張感のある不穏な空気が流れたが、それを断ち切ったのは蘭子だった。
「わっ、私も一緒に——良いのですか?」
思いがけず、蘭子の方からお誘いを受けた。
これで、この作戦は上手くいきそうだ。このまま彼らと合流してしまおう——。
だが、セリスは気が付いていなかった。
仲間に混ぜてもらえる。
その嬉しさから、一瞬出てしまった王女らしかぬ表情を、葵が見逃さなかったことに。
それでも、流石にこの状況には、護衛も黙っていなかった。
「っな!? 何を言っている蘭子! そいつは——」
「あおいが『事情を持ち込むな』って言ってただろ!」
「くっ……」
慌てて止めに入ったタカヤだったが、逆に蘭子がそれを制した。
これでは、タカヤもこれ以上は何も言えまい。
「にひひ! 残念でしたわね。蘭子様のご命令なら、あなたも逆らえませんものね」
「……貴様」
それを面白がって、セリスがタカヤを揶揄いはじめた。
タカヤのおでこには、怒りマークがひとつ、またひとつと浮かび上がってくるのがわかる。
その様子を見て、セリスは愉快そうに笑った。
「わかったわかった! それじゃあ、タカヤが納得出来るように条件をつけてやる」
このままじゃ埒があかないと思ったのか、葵がまた予想外のことを言い出した。
「……なに!?」
「条件……?」
セリスとタカヤは、同じような顔で反応した。
仲が悪いのに変なところで気が合う二人である。
「せっかくのお祭りなんだ。ここは俺たちらしく、タカヤとセリスで、"ゲーム対決だ"!」
「おお! それは楽しそうだな!」
当たり前のようにニコニコと笑う三崎葵の姿に、恐怖心にも似た奇妙な感覚が湧いてきた。
この男の言動は、セリスの想像を超えていた。
すぐに小躍りして反応した蘭子のことも理解できない。
「!?」
「はぁ!? なぜ私がコイツとそんなことを!」
今度は二人とも対照的な顔で反応した。
タカヤはいつも通り"対決"というワードに好反応を示し、セリスはすっごく嫌そうな顔をしている。
葵は二人の反応を見てニヤリと笑った。
「嫌なら帰ってもいいぞ。でも、違うんだろ? だったら、セリスが勝ったら今のお願いをひとつ聞いてやる。タカヤが勝ったら、蘭子の言う通りにする。これでどうだ?」
気が付けば、三崎葵に主導権を握られていた。
まるで、全てを見透かされているような、そんな感覚だった。
「……望むところだ!」
「フ……フン! そのような条件なら、付き合ってあげてもよろしいですわ」
セリスにとって、思いがけない好条件が突きつけられた。
これなら、どちらに転んでも目的が達成できる。
だが、この状況でこのような取引をするなんて、にわかに信じがたい。
それとも、気を遣ってくれたのだろうか……?
どこか掴みどころがない葵の言動に、セリスは戸惑っていた。
いよいよセリスが合流します。
どうなることでしょう。




