気分上々↑↑
獅子舞から開放された異世界コンビが戻ってきた。
「ふぇええん! なんか獅子舞の中におじさんが居た……」
「アオイ……! 騙したな! 食いちぎられるかと思ったぞ」
半べその蘭子が静香に抱きつき、不満そうなタカヤは葵に詰め寄る。
「待て待て! あれで良かったんだよ二人とも。これでめでたくご利益があるぞ」
あわよくば斬りかかってきそうなタカヤを、葵は慌てて両手で制した。
あと、食いちぎられるわけないだろ……。
「なん……だと!? そんなことが、あっていいのか?」
タカヤは"ご利益"という言葉で動きを止め、呆気にとられたような顔をしている。
「"噛みつく"と"神がつく"って言われてるのよ」
まだ抱きついている蘭子の頭をヨシヨシしながら、静香が語呂合わせの言葉遊び文化を解説する。
すると、静香の胸に顔を埋めていた蘭子がサッと顔を上げて離れた。
「なにっ!? それじゃあ、わたしは今——ゴッド蘭子になったというのか!?」
力が漲ってきた人みたいに両方の掌を見つめながら、誇らしげな"自称ゴッド"がなんか言っている。
獅子舞の洗礼に泣いてたんじゃなかったのかよ……。
「おい……。なんか始まったぞ。タカヤどうする?」
ジト目で呆れている葵は、思わず蘭子の茶番をタカヤにぶん投げてしまった。
そして、それが大間違いだったことを知る。
「俺に任せておけ。神を止めるには神しかいない。そう。この超サ⚪︎ヤ人ゴッドであるこの俺しか」
タカヤはドヤ顔で腕を組んだ。
「……うわぁ。超めんどくさい」
いかん。思わず本音が声に出てしまった!
やっぱり、この世界のご利益は異世界コンビにはまだ早かったかもしれない。
あとタカヤ。多分だけど、先週土曜プレミアムで放送してたド⚪︎ゴンボール見てただろ?
「ふふ! でも良かったわね! 何か良いことあるかもよ——ふふふ!」
獅子舞に襲われる二人の様子を、恐らく一番楽しんでいたであろう静香は、まだ笑いのツボから抜け出せていない。
すると——。
\エッサ!/ \ホイサ!/ \エッサ!/ \ホイサ!/
鳥居の方から威勢のいい掛け声が近づいてきた。
「おお! あおい! 今度は何だ?」
屈強な男たち(酒臭い)が、黒漆塗りの大きな神輿を担いできたのだ。
神輿は上下に揉まれ、頂上に飾られた金色の鳳凰がユサユサと揺れている。
どうやら、町内を巡って戻ってきたようだ。
「残念だったなゴッド蘭子。あれは神様を載せた神輿。本当の神がお通りだぞ」
神輿の登場に、参道の人々は左右に道を開けて拍手をしたりスマホを向けたりしている。
いつも思うのだが、あんなに揺らされて神様は乗り物酔いしないのだろうか?
「あっ!」
「あら? あの人?」
なんて、余計な心配をしていたら蘭子と静香が何かに気がついた。
神輿の先頭に、ピンクの法被にグレーの股引きを履いた、やたら目立つ人が居た。
あれは——!?
「あぶさんだ!」
蘭子が指を差して叫んだ。
威勢よく声を上げるあぶさんに合わせて、担ぎ手全員がそのリズムに合わせている。
「おぉ……。凄いな、神輿も担ぐのかあの人」
葵は酒の臭いに顰めっ面しながら、思わぬ知り合いに出会って驚いた。
もしかしたら酒の臭いがする所には、あぶさんが居るのか……?
「……そういえば、俺も昨日あぶさんに誘われたが、これのことだったのか。よくわからないから断ってしまったが……」
恐らくジムで誘われたのだろう。
腕を組みながら独り言のように言うタカヤは、断ったことを少し後悔しているように見えた。
片手で手を振ってくれたあぶさんと、過ぎ去っていく神輿が露店街の奥に消えていく所まで見送ると、四人は露店街の入り口に並び立った。
「あおい……。もう我慢できん。さっきから食欲をそそる匂いが——わたしの……、わたしの理性を……」
ぐぅううううう〜!
蘭子は、湧き上がる欲望(無限の食欲)を我慢しようとプルプル震えていたが、お腹が鳴ったところでついに吹っ切れた。
次の瞬間、突然吹いた風が蘭子の背中だけを押し、単独で露店街の人混みの中へと消えて行った。
……あれはきっと、風術使ったな。
もう最近の若い子にはドラゴン⚪︎ールネタが通用しないと聞いてショックを受けております。




