お囃子って何だ? (前編)
「ふんふんふーん♪ ワクワクする! な! あおい!」
蘭子は軽快な足取りで、葵たちの一歩先を歩いていた。
「わかったから、その履き物でスキップは危ないって」
そんな姿をヒヤヒヤしながら見守る葵だったが、その予感は的中。
「うわっ――とっと! ——セーフ!」
浴衣下駄がズレたせいで、つま先がアスファルトに引っかかってしまい、蘭子はベッドスライディング寸前のところで持ち堪えた。
そして、野球の審判のように両手を広げている。
「ほら。言わんこっちゃない……」
呆れながら呟く葵は、蘭子がガニ股のような格好をした影響でチラリと見えてしまった生脚から目を逸らす。
「蘭子ちゃん、あんまりはしゃぐと着崩れちゃうわよ」
すぐに静香が着崩れた部分を直し始めた。
その手つきは手際良く、凄く慣れている。さすが静香だ。
「……」
一方、今だに浴衣組を直視できないタカヤは、額に手を当ててゆっくり首を振っていた。
無防備な蘭子の姿に少し困っているようにも見える。騎士様のお仕事も大変だな。
いや、よく考えたら仕事してないな。もっと頑張れよ。
鳥居をくぐった四人が目指しているのは、参道の先に見える露店街だ。
鳥居から百メートルほど離れた所に、色とりどりのテントが道路の左右にズラリと並んでいるのが見える。
逆に鳥居側は白のマーキーテントが並び、それぞれの自治会、団体、救護所などのお祭りスタッフ達が集まる集会所になっているようだ。
その、集会所と露店街の境目に人だかりが出来ていた。
「およ? あおい? あれは何だ? さっきから聞こえる愉快な音楽はあそこが発信源っぽいが?」
何かに気がついた蘭子は、華やかに装飾された木製の大きな乗り物を指差している。
「あー! あれは山車って言うんだ。あの上でお囃子を演奏をしてるんだよ」
「山車? お囃子?」
葵から連続で飛び出した知らない言葉に、蘭子はキョトンとしながら首を傾げた。
「そう、山車はあの木でできた大きな乗り物だ」
神社の屋根のようなやぐらに豪華絢爛な彫刻が施さた山車は、和紙の花や提灯で装飾され、山車に込めた職人達の魂が感じられる。
「あそこに縄が巻かれているだろ? 移動するときはあれを伸ばして、大勢で引っ張って移動するんだ」
葵が指差す山車の前方には、T字型の舵に綱引きで使用するような頑丈な縄がぐるぐると巻かれているのが見えた。
山車の後方には木製の巨大な車輪が取付られており、そこからも伝統技術を感じることができる。
「凄い。あれを民が引くのか!? 重そうだな……」
振り返って葵を見る蘭子は、珍しく驚きの表情をしていた。
あれを人力で動かすなんて発想は、さすがの蘭子でも思いつかなかったようだ。
そう考えると、神輿も独特の文化なのかもしれない。
当たり前のように見てきた光景だったが、あんなに重い輿を現代でも人力で運ぶというのは、伝統や文化を大事にしている証拠なのだろう。
「で、お囃子というのは、山車の上で演奏しているあれだ。あの笛や太鼓で囃し立てるからお囃子っていうらしい。音楽に合わせて色々なお面をつけた人が踊るんだ。この国の伝統芸能だぞ」
山車の舞台となるお座敷が正面から見える位置まで移動すると、人集りの後方からその姿を眺めた。
「囃し立てるか! 確かに、なんだか心が躍り出す音楽だな! 近くで見ても良いか?」
蘭子の目は既にキラキラしていた。まるで、小さな子供のようにはしゃいでいる。
「そうだな。せっかくだし見ていくか」
蘭子があんなに興味津々にならば、もう止まらないだろう。
それに、異世界にはないであろう伝統芸能を体験してもらういいチャンスだ。
子供を見守る保護者のように微笑みながら、葵は蘭子の背中を見つめた。
小さい頃は立派な山車を持っている地区に憧れました。
私の地区は普通のトラックの荷台を花と紅白幕だけで装飾していたので羨ましかったのを覚えています。
でも、夏祭りは楽しかったですね。
お囃子もまたやってみたいと思ったり。




