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気になる蘭子は止まらない  作者: きら
夏祭りって何だ?

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待ち合わせ

——16時。


 水色のアロハシャツと白の七部丈パンツに着替えた葵のスマホから、通知音が鳴った。


『初戦はコールドで勝利! 俺、出番なし(T_T)』


 ヒロシからだった。

夏休みに入って、野球部は早速地区大会が始まった。

結果は五回コールドで初戦を突破したらしい。

今日はヒロシの出番が無かったようだが、夏休みでも休まず頑張っている姿に、葵は労いのメッセージを送る。


『お疲れ! 初戦突破おめでとう。お前の出番はまだまだこれからだろ?』


 そもそもヒロシが入部する以前から、一回戦は毎年コールド勝ちをしている。

元から強豪校なのだ。ヒロシが活躍するのは、もっと上位まで勝ち上がった時だろう。


 すぐにヒロシから"ピースサイン"の絵文字が送られてきた。

葵はすかさず握り拳の絵文字を送ると、ヒロシから『負けた〜!』と返事がくる。

これぞ二人のお約束、LIMEジャンケンである。

 

 葵は、ヒロシとこういう他愛もないやり取りをするのが大好きだ。

蘭子ともそういったやり取りをするが、幼馴染の親友とのノリは何か特別な楽しさを感じる。

ちなみに、お祭りにも誘ってみたが、『試合に出られなくて欲求不満だから、サッカー部のナイター練習に行く!』と断られてしまった。

 そういえばサッカー部も兼部してたんだったな。脳筋ってやつか?


 スマホを小さなショルダーバッグに入れて肩から斜めにかけると、葵はエアコンで冷えた自室の扉を開いた。


 「うわぁ……」


 その瞬間、もわっとした真夏の空気が葵の全身を包み込む。

一瞬にて、全身から汗がじわじわと湧いてくるのがわかった。


「あっづ……」

この夏、何度も言うことになるだろうセリフをとりあえず呟いて、リビングに居る母親へ声をかけてから家を出た。


 少し前までちらほら聞こえていた蝉の鳴き声が、いつの間にか大合唱に変わっていた。

アスファルトからはゆらゆらと陽炎が上がっており、十六時を過ぎたというのに、一向に暑さの和らぐ気配がない。

そんな灼熱の住宅街をゾンビのように歩きながら、待ち合わせの場所へ向かった。


 住宅街の外れに、由緒ある大きな神社がある。


 やたら広い境内は周りより高台にあり、まるで神様が住宅街を見渡しているような位置に本殿が建っている。

境内に続く参道は二百メートルほどある長い道で、住宅街から車で出入りが出来る程、広く作られていた。

 参道の入り口には石でできた大鳥居があり、今日はそこに『車両通行止め』のバリケードが設置され、お巡りさんが警備をしている。


 葵は、この大鳥居の前で友人たちと待ち合わせをしていた。

 

「まだ誰も来てない——か」


 キョロキョロと周りを見渡しながら、見知った顔が居ないか確かめる。

普段は閑散としている神社周辺だが、今日は夏祭りの影響で大盛況だ。

この人出の中では探すのが大変だと感じた葵は、スマホを開いてLIMEでメッセージを送った。


『着いたぞ。なかなかの混雑だ』


 すぐに『いざ!』と文字が入った源頼朝のスタンプが送られてきたが、既読は一件。

タカヤだけが返事をくれたようで、蘭子と静香は気がついていないようだった。


 すると——。


カタカタカタ!


「あおいー! お待たせ!」

「ごめんね葵。蘭子ちゃんと一足先に待ち合わせしていたの」


 下駄を鳴らしながら現れたのは——。


「……おぉ」

 

浴衣姿の蘭子と静香だった。

 

 蘭子は目が覚めるような朱色の浴衣で、白やピンク、黄色のカラフルな桜の花がこれでもかと散りばめられている。

帯は鮮やかな黄緑色で、その上に深紅の帯締めが可愛らしい結び目を形作っていた。

それは、まるで蘭子のために仕立てられたように映えている。


 一方、静香の浴衣は落ち着いた紺色で、水の波紋のような模様の中に金魚の絵が書かれている。

帯は赤色だが、変に目立たず、紺色とのコントラストが美しいアクセントになっていた。

大人っぽい静香の雰囲気がグッと引き立つほどお似合いだ。


 そんな普段とは違う雰囲気の二人に、葵は思わず見惚れてしまう。


「どうだあおい? 似合ってるか?」


 蘭子は袖を広げて、その場でくるりと一回転した。

その隣で、静香も微笑みながらそっと袖を広げている。


「お、おう! なんていうか……、か……可愛いと……思うぞ」


 不意打ちとあまりの眩しさに動揺した葵は、ほっぺをポリポリ書きながら二人から視線を逸らす。


 すると、二人の後ろからグレーの浴衣姿のタカヤが現れた。


「アオイ。お前の気持ちはよくわかる。俺は朝から蘭子のファッションショーを見ていた」

「なんだよ。タカヤも浴衣だったのか。言ってくれれば俺も合わせたのに」


 一人だけ仲間外れのようになってしまった葵は、三人の姿を眺め、自分のハワイアンな格好を見た。


「葵にサプライズしようと思って」

 そんな葵を見てイタズラに笑うのは静香だ。

「驚いたよ。みんなよく似合ってる。俺だけこんな格好だからちょっと浮きそうだけど……」

「ほんとか!? でも、あおいの格好も季節感があっていいぞ!」

 蘭子はサプライズに困惑する姿を見て、ニッコリ笑いながらフォローをしてくれた。

静香も"サプライズ大成功"と言うように、ニコニコと微笑んでいる。

 

 その華やかな浴衣が、パワーを何倍にも引き上げた笑顔を向けられ、葵は思わず胸がキュッとなるのを感じた。


(なんか慣れないな……。浴衣って、こんなに雰囲気変わるんだな)


 思いがけない夏の魔法に平常心が奪われそうになり、一旦落ち着こうとタカヤへと話題を振った。

「ところでタカヤ。あの腕立て伏せ動画は何が目的だったんだ?」


 もしかしたら、この為に話題を提供してくれたのかと勝手に思っていたが、やっぱり違ったようだ。


「……言っただろ。朝からずっと蘭子のファッションショーを見ていたと」

「それがどうかしたか?」


 腕立て伏せと蘭子のファッションショーに何が関係するのか疑問だったが、その答えはすぐにわかった。


「あんなもの、近くで何回も見せられたら俺の平常心が持たない」

「それで、腕立て伏せで気を紛させていたのか……」


 気を紛させる方法が筋トレだった事実に、葵は呆れ顔で返す。


「わかってくれるか?」

「いや……。わからん」

 

確かに平常心が持たない所には同意するけれども……。


「ふふふ。上手くいったわね蘭子ちゃん」

「うん! 流石しずかだ!」


 女子二人は何やらコソコソと話をしている。

どうやら、今回のイベントは、蘭子と同じくらい静香が楽しみにしていたようだ。


 いよいよ夏祭りが始まる。

賑やかな喧騒に紛れて聞こえるお囃子に呼応するように、軽やかな足取りで屋台街に向かった。

浴衣姿のアクスタください←

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