ふらぺちーのって何だ?
今回より第5章です。
夏がやってきた。
学生たちの楽しみである夏休みが始まるが、蘭子はみんなに会えなくて寂しいらしい。
そこで、蘭子とタカヤを夏祭りに誘う葵。
好奇心旺盛な蘭子は目をキラキラさせて楽しんでいるが、そこにシェイドリアの王女、セリスが現れる。
——七月。
期末テストが終わった一年C組の教室は、この後やってくる夏のワクワクイベントを前に、浮かれ気分になっていた。
授業は半日、補習者もゼロ。
担任、加賀見のやる気も、すでに夏休みモードに入っているらしい。
その証拠に……。
「せんせー! 朝からフラペチーノはどうかと思いまーす!」
朝のショートホームルームで、ヒロシがクラスを湧かしていた。
「風間ー。それ以上言ったら補習な」
加賀見は冗談に乗っかり、ヒロシが嫌がることランキング第二位で応戦してきた。
ちなみ第一位はテストらしい。
「それは勘弁してくだせぇ旦那ぁー」
ヒロシは一瞬で撃沈し、机に沈み込んでいく。
笑い声に包まれる一年C組の教室は、今日も平和である。
クイックイッ。
その時、葵のワイシャツを摘んで引っ張る者が居た。
異世界のお姫様にして好奇心の塊、蘭子である。
「あおい! おおい! "ふらぺちーの"って何だ?」
小声で話しているが、やたらテンションは高い。
「加賀見が持ってきた飲み物だよ。ほら、いつものコーヒーと違うだろ?」
葵は、後ろの席に振り返りながら応えた。
「むー。生クリームしか見えん……」
蘭子は自席から教壇に飾られたフラペチーノをマジマジと見つめる。
「わかったわかった。ホームルームが終わったら教えてやるからあとで——な」
このまま私語を続けていたら、ヒロシの流れで補習の刑を言い渡されそうな気がするので、葵は一旦話を止めようと試みる。
だが、気になる蘭子は止まらない。
「むー! 気になる! あおい、わたしは今、とっても"ふらぺちい"!」
「形容詞じゃないんだよ……。あと、それどういう意味だ?」
蘭子の勢いに押されて、思わずつっこんでしまった……。
「——で、三崎ー? 聞いてるかー?」
(げっ!? やばっ!)
慌てて前に向き直る葵だが、時すでに遅し。
「それじゃあ、帰りのホームルーム前に職員室へ来い。プリント運ぶの手伝ってもらうからな」
「最悪だ……」
ゴチンと、座ったまま机におでこをぶつける葵に、クラスメイト達のクスクス笑う声が聞こえてきた。
加賀見め。余計なものを持ってきてくれたものだ。
学校は勉強に必要ないものはダメなんだぞ。
——休み時間。
「加賀見め。この前の野球で少しは見直したと思ったのに」
拳を握りながらワナワナと悔しがる葵の肩を、静香がポンと叩いて励ました。
「補習じゃないだけいいじゃない。私も手伝うわよ」
「静香ぁー」
頼りになるお姉さんの姿に、葵は感動して涙が出そうになっていた。
だが、そんな感動もすぐに現実の渦の中へ吸い込まれていく。
「で、あおい。"ふらぺちーの"って何だ?」
(くっ! フラペチーノに罪はないが、俺はフラペチーノが嫌いになってしまうかもしれない)
どちらかというと加賀見のせいなのだが、葵の不幸の中心がこの飲み物だったせいで逆恨みしてしまいそうだ。
非常に"ふらぺちい"。
——などと、余計な事を考えているうちに閃いた。
「というか、それは静香の方が詳しいんじゃない?」
趣味でカフェ巡りをしている静香のことだ。
当然、有名チェーン店のメニューにだって詳しいはずだ。
「うーん……。私はどっちかというとレトロな喫茶店が好きだから、"詳しく"って言われると、困っちゃうわね」
これにて、葵の『静香にフラペチーノを説明させよう作戦』は終了した。
「……何の話をしている? 三人で難しい顔をして」
そこへ、タカヤが会話に合流した。
「さっき加賀見が持ってきた飲み物だよ。蘭子が気になるらしい」
葵が簡潔に状況を説明すると、蘭子が続く。
「わたしはあれを飲んでみたい。美味しい未来しか見えない」
そうして腕を組んで椅子にふんぞり返った蘭子の顔には『今から一杯行くが、会計は頼んだぞタカヤ』と書いてあるようにしか見えない。
(これは……、今日の放課後の予定が決まった感じだな)
葵の予感の通り、静香が「たまにはいいわね! 夏だし」と賛同し、「ハァ……。仕方ない」とタカヤが呆れながら諦めている。
これにて、あの有名な喫茶店へ向かうことと相成った。
騒がしい予感がする四人の夏が、ここから始まる。
加賀見はフラペチーノを持ち込むために自前のクーラーボックスを用意しています。




