↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気になる蘭子は止まらない  作者: きら
野球って何だ?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
72/87

大人たちの贈り物

「でー、三崎。大人の彼らにちゃんとお礼はしたのか?」

 

 去っていく親衛隊の背中を眺めていると、葵たちの背後から聞き慣れたやる気のない声が聞こえてきた。

 

「先生!?」

振り返った先には、本日の野球部臨時顧問であり、葵たちの担任である加賀見が立っていた。

 

「大人はなぁ、毎日忙しいんだ。わざわざ時間を割いてくれたことには、きちんと感謝をしろ」

 珍しく担任教師らしい振る舞いで葵たちの前へ出てくると、最強助っ人トリオに向き合った。

そして、角度45度で腰を曲げ、頭を下げる。


「皆さん、ウチの生徒たちがお世話になりました。本日はご多忙の中、生徒たちのわがままに付き合って頂き、本当にありがとうございます」


 初めて見た担任が頭を下げる姿に葵たちが戸惑っていると、優しく微笑んだあぶさんが加賀見に応えた。


「いいのよ! アタシも迷惑かけっぱなしだったし。それに、久しぶりに本気で野球が出来て、とても楽しかったわよ」

 加賀見の肩をトントンと叩いて頭を上げさせると、続いてラミーちゃんが応える。


「サイコーニエキサイティングデシタ! ドモ、アリガトゴザイマス!」

ニコニコと笑いながら加賀見とガッチリ握手をする。


「先生! 彼らは素晴らしかったですよ。自分たちで高い壁を乗り越える、それはきっと未来へのエナジーになります」

マッスルマンも爽やかな笑顔で応えた。


 タカヤが連れてきた最強の助っ人。

レジェンドの教え、蘭子に負けないポジティブな精神力、圧倒的な実力者。


 三者三様の力が綺麗に融合し、『最後まで諦めない』という姿勢を背中で見せてくれた。

葵たちの心には、確かにその姿が刻まれている。


「あ、あの! 本当に、どうもありがとうございました」

 

 葵は、加賀見に倣って頭を下げた。

それに続いて静香とタカヤが、最後に蘭子が少し慌てて頭を下げる。


 本当はもっと言いたいことがあるはずなのに、なんだか胸がいっぱいで、言葉にできたのはこの一言だけだった。

しかし、大人たちにはその気持ちがしっかり伝わったようだ。

葵の顔を見た助っ人三人は、何も言わずに微笑みかけてくれる。


「葵ちゃん。あの風間ヒロシって子に伝えといてくれる? また、勝負しましょって。」


 やがて、照れ隠しのようにあぶさんが口を開いた。


「あ、はい! あいつ、喜ぶと思います!」


 次の言葉を紡ごうと考えていた葵は、慌てて返事を返す。

ふと、ヒロシがニヤリと笑っている姿が頭に浮かんだ。

「彼、いい選手になるわよ。楽しみにしてるわ」

 あぶさんも想像の中でヒロシとの勝負を振り返っているらしい。

心なしか、ウットリしているような表情で笑っている。

元甲子園球児お墨付きのヒロシが、あの時、あぶさんのホームランで何かが変わったことは明らかだった。

 

「タカヤ、シズカ! キミタチ、ホントウニ、アメイジングデシタ!」

 一方、非常識コンビを絶賛するのはラミーちゃんだ。

元レジェンドの教えが素晴らしかったこともあるが、初心者とは思えない活躍を見せてくれた二人に驚いているようだ。


「ふっ、これぐらい当然だ」

「ありがとうございます! お褒めいただき光栄です」


 そんな非常識コンビの返事は対照的だった。

非常識では気が合うのに、なんでこんなに正反対なんでしょうね。この二人は。


「蘭子ちゃん! 素敵な時間をどうもありがとう! また、一緒に『エナジー』やってくれよな」

 最後に、マッスルマンが蘭子に声をかけた。

彼はこの世界に生まれた蘭子の化身なのではないかと、密かに疑うほどにポジティブだった。


 それに、そのポジティブさには説得力があった。

きっと、コツコツと積み上げてきたことがエナジーの源なのだろう。


「うん! わたしも楽しかった!」


 蘭子にはそれがわかっていたのだろうか?

無邪気に笑う彼女の顔もまた、エナジーがみなぎっている。

あとでこのエナジーが解放されるのだろうが、蘭子のことだ。

きっと、誰も止められないだろう。

そして、それは多分、また新しい笑顔を咲かすための力になるはずだ。

 

「大丈夫! もう、君たちの"ここ"には、エナジーが宿ってる!」

 マッスルマンもそう言っているから間違いない。


 改めてお礼とお別れの挨拶を交わすと、助っ人の三人はそれぞれ顔を見合わせた。

それを合図にしたかのように、彼らは葵たちに背を向けて去っていく。


 そして、この男も。


「さーてと……、俺も帰って寝るとするかな」


 あくびをしながら、担任教師がダルそうに呟いた。


「いや、さっきまで寝てただろ!」

「……どれだけ寝れば気が済むんだ?」


 さすがの異世界コンビも、珍しくツッコミ側にまわっている。


「なんか、せっかく先生ぽく見えたのに、やっぱ加賀見先生は加賀見先生なんですね」

「ふふ。失礼よ葵」


 そこに、葵と静香が追い打ちをかけた。

少しは先生っぽい威厳を取り戻せたかと思っていたが、彼らから見れば、やっぱりやる気のない担任教師なのだろう。

だが、それが加賀見のスタイルだ。

彼にとっては、その方が都合も良い。


「おまえらなぁ……。ま、いいか。それじゃ、寄り道しないでまっすぐ帰れよ」

 

 でも、なんだかんだで根は優しい教師なのだ。

そんな担任教師の背中を見ながら、四人は顔を見合わせてクスリと笑い合った。


「それじゃあ、俺たちも帰るか」

「あおい。お腹すいた」

「そうね。それじゃあ、いつものファミレスに寄っていきましょ」

「祝勝会ということだな。いいだろう」


 早速、担任教師の言いつけを無視したいつもの四人に、いつもの空気が戻ってくる。

だが、その胸の内はいつもと違っていた。

 

 それぞれの胸に秘めた想いは、大人たちがくれた"形の無いなにか"によって、確かに膨らんでいく。

それは、ワクワクして、スッキリして、気持ちがいいものだった。


きっと、彼らからの贈り物なのだろう。


 六月の陽射が、もうすぐ夏がやってくることを教えてくれる。

激闘で消耗した体を癒すため、四人はいつものファミレスへと向か——。


「あおい。あれ、あぶさん……だよな?」

 

——おうとしたが、蘭子が公園の隅にしゃがみ込むあぶさんを見つけた。


「はぁ……」


 蘭子の視線の先を見て、葵は呆れていた。

グッタリと芝生に手をつくその姿は——。


「ほんと、昨日どんだけ飲んだんだよ……」


 この際、もう一つ胸に刻んでおこう。


……大人になったら、ああならないようにしよう。


四人は心の中で強く誓った。

酒飲んでも呑まれるな

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。