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気になる蘭子は止まらない  作者: きら
野球って何だ?

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親衛隊へのご褒美

 試合の余韻を残して、ウインドーズ9(ナイン)はスタジアムを後にした。

 

 市民野球場の周りは公園になっており、遊びにきた親子や、ジョギングをするおじさん、ベンチで談笑する若い女性など、スタジアムの熱苦しい雰囲気とは違った休日らしい景色が広がっていた。

 

 ウインドーズ9(ナイン)は、その一角に集まっている。


「みんな、本当にお疲れ様でした」


 チームを労っているのは葵だ。

流れで仕方なくキャプテンのような立場になってしまったが、その存在は間違いなく勝利の立役者だった。


「葵もお疲れ様」


 その葵を労う静香の表情もホッとしていた。

密かに野球とは違う心理戦を繰り広げていた彼女も、内心は疲れているだろう。

だが、そんなことを感じさせない微笑みが、同じように戦っていたタカヤにも伝染した。


「最後は、危なっかしかったがな」


 腕を組んでウンウンと頷きながら試合を振り返っている。

このチートコンビが居なければ、野球部と互角に戦うことなどできなかっただろう。

野球は未経験の筈なのに、その成長速度は凄まじかった。

今ではその非常識さが日常になってしまったが、やはりこの二人が居ると心強い。


 そして、このイベントの発起人であるお姫様の演説が始まった。

 

「諸君! よくやった! 我々の" 圧 勝 "だ! 完 全 勝 利 だ!」


 ウインドーズ9(ナイン)の名付け親、さらに、チームのエース(自称)として勝利に導いた謎の自信家——蘭子は、堂々と胸を張って勝利宣言をした。

なお、"圧勝"という部分は、今回スルーしておいてあげよう。


 実際のところ、蘭子のピッチングは素晴らしかった。

禁断(?)の風術を織り交ぜて細工をしていたとはいえ、強豪野球部達を翻弄してみせたのだ。

葵の采配が功を奏したとも言えるが、それは蘭子に絶対的な信頼を置いていたからこそ出来たことだった。

途中のローリングキャッチだけはヒヤヒヤものだったが……。


続いて、親衛隊トリオが蘭子を讃える。

 

「あ……あの! 蘭子様! おめでとうございます!」

「あまりお役に立てませんでしたが、幸せな時間でした」

「チェキは家宝にするでやんすー」


 満足そうな顔をしている親衛隊トリオ。

推しの蘭子様と一緒に過ごせた時間が本当に尊かった。

そんな感じだ。

 無理やり参加させてしまったにも関わらず、最後は笑顔で終わる。

結果オーライだが、これも蘭子の魔法なのかもしれない。

 

「やればできるじゃない。あなた達」

その三人を攫ってきた張本人である静香も優しく笑っている。


「あの時、三原さんが僕たちに声をかけてくれなければ、今はありませんでした」

「感謝しているでやんすー」

「はい! 私も同じです!」


 出会いの印象は良くない方だったと思うが、これにて親衛隊との関係も一件落着ということだろう。

 

 すると、なぜかモジモジし始めた松井さんが、松坂先輩に肘で小突かれていた。

その拍子に、一歩前へ押し出される。

 

「……あ、あの三崎くん!」


 観念したように、意を決して話を始めた松井さんは、恥ずかしそうに葵を呼んだ。


「えっと……、み……三崎くんも——カッコよかったです!」


 モジモジしながら赤くなって目を逸らしている様子を見るに、きっとそれはそういうことなのだろう。

その様子を見たタカヤが、葵の背後から耳打ちするように小さな声で揶揄った。


みさき みさき(三崎 美咲)


葵の苗字と松井さんの下の名前と組み合わせ、いつか蘭子が言った冗談を再現する。


「ふゴォっ!?」


 しかし、タカヤは葵から肘打ちのクリティカルヒットをお腹にもらい、なぜか静香からも思いっきり足を踏まれていた。

ほれみろ。余計なこと言うからだ。


 そのまま悶絶しているタカヤは放っておいて、葵は少し照れながら頭をポリポリとかき、親衛隊と向き合った。

「えっと……。松井さんにも無理させちゃってごめん。色々協力してくれて、どうもありがとう」

松井さんからの好意に当たり障りないように返事をすると、先輩二人の目を交互に見て続ける。

「松坂先輩、矢部先輩。本当に俺たちのわがままに付き合ってくれてありがとうございました」

そう言って、葵は深々と頭を下げると、三人は手をブンブン振りながら、「いえいえ!」と応えてくれた。

 

 蘭子からも、親衛隊にメッセージがあるらしい。


「君たちは大変よく働いてくれた! 褒美に、これからはわたしの従者として励め。以上!」


 三人の前で腰に手を当て、ドヤ顔で立つ蘭子を横目に、葵は肩を落としてため息をつく。

(だから……、松井さん以外は先輩だってのに……)

 そんな理屈は蘭子には通用しないのだろう。

現にたった今、親衛隊は蘭子と家来のような関係と相成った。

親衛隊改め、従者トリオもまんざらではないようで、「わぁ」とか言いながら目をキラキラさせている。


 まぁ、本人達が喜んでいるから、……良いのかな?

あとでどうなっても責任は取れないが……。


 恐らく彼らは、この先も伝説のクリームパンを献上し続けるのだろう。

そして、今日のように突然蘭子の思いつきに巻き込まれる日も来るだろう。健闘を祈る。

 

 それから、矢部先輩には特別なチェキ用額縁が、後日蘭子から贈呈されるらしい。

さっきタカヤにスマホでポチらせていたところを見ていたが、蘭子らしく元気の出るデザインだった。

 ……それにしても、矢部家先祖代々に伝わる家宝が本当にこれでいいのか?

 

 チームメイト全員と握手を交わした親衛隊改め従者トリオ。

その様子を、静香とタカヤは複雑な思いで眺めていた。

 

 蘭子の周りに次々と咲いていく笑顔を、何としてでも守り抜きたい。


 ただ、その一方で——。

二人の中には、笑顔が広がるほど、不安な影も広がっていく。

あ!ちょっと松井さん!


急にヒロイン候補に名乗り出るのやめてもらっていいですか!?

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