光と影の狭間で
勝利の瞬間、喜びの視界の端に、蠢く影の姿を捉えた。
「全く、アオイのやつ、危なっかし――!?」
「やったわ!勝っ――!?」
その強烈な気配に、タカヤと静香は思わず気配の主を見上げた。
喜びの日常から憂いの現実へ、一瞬にして意識が切り替わる。
試合終了と同時に、セリスが勢いよく立ち上がったのだ。
当然、警戒していた二人は、彼女が動きだした――そう思っていた。
しかし……。
「今、ガッツポーズをしていなかった……?」
「ああ。俺にもそう見えた」
遠くに小さく見えるセリスは、少しキョロキョロした後、不機嫌そうに椅子に座り直している。
「試合が終わった瞬間に、何か仕掛けてくるかもと思っていたけど……、見当違いだったかしら?」
急におとなしくなったセリスを見上げながら、静香は顎にグーの手を当てた。
「いや……。もし、俺たちがこの試合に勝利したことが、ヤツらの計画に必要な条件だとしたら……」
「……その為のガッツポーズ――ということね」
「ああ。ヤツらは何が目的かわからんからな」
今は隣にいる付き人――バーニーと呼ばれる男と何やら話をしている。
静香は、眉を寄せた。
会話の内容まではわからないが、あの静かな威圧感は、もしかするとセリスよりも警戒すべき相手かもしれないと感じさせる。
(私たちが負けていた方が、セリスさんにとっては都合が良さそうな気がするけど……。嫌な感じね……)
自分達の身に、得体の知れない何かが近づいている感覚はあった。
だが……、今は、大人しくしていることしかできない。
――その時。
――――――
「あおいー!」
「って!?うわぁ!ちょっと待てー!」
\ドゴォォォォン!!!/
――――――
蘭子が葵を派手に吹き飛ばしていた。
その瞬間、二人は裏の顔からウインドーズ9へ戻る。
「って葵!?ちょっと大丈夫!?」
「はぁ……。蘭子のやつ……」
静香は焦りながら駆け寄り、タカヤはおでこに手を当てながら歩み寄る。
「あおい!笑顔で吹き飛んでるの、なんか気持ち悪かったぞ」
「やかましいっ!今度は受け止めようと思ったのに。まったく、お前は加減を知らないのか……」
じゃれ合う葵と蘭子を見て、静香とタカヤは思わず頬が緩んだ。
なんだか、入学式のことを思い出す。
どうやら、今回もお互い怪我がなく無事なようだ。
そして、そのまま一塁側スタンドを見上げる。
あのシェイドリアの二人組は、他の観客に紛れて姿を消そうとしていた。
その様子に安堵した二人は、こうやって光と影の境界線を行き来しながら、迫り来る脅威に備えるしかない。
(でも、とりあえずは一件落着……かしら?)
これで、葵とタカヤは野球部に入らなくて済む。
静香にとって、この四人で過ごす日常は、何としてでも守りたい世界なのだ。
もしかしたら、明日、この日常が壊されてしまうかもしれない。
来るべき日に備え、今は――笑い合う時間を大切にしよう。
そう思った。




