↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気になる蘭子は止まらない  作者: きら
野球って何だ?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
64/87

助っ人達

 ——9回裏、ワンナウトランナー無し。


 ゲームセットまで、あとツーアウト。

ウインドーズ9(ナイン)が野球部に勝利する為の条件は、"2点"取ること。


 そんな厳しい状況だが、ウインドーズ9(ナイン)は笑っていた。

『わたしの辞書には、"勝利"という文字しかない』

みんな、この言葉を信じているのだ。


 次のバッターはタカヤが連れてきた最強の助っ人だ。


Boys be(ボーイズビー) ambitious(アンビシャス)!」


 最後の打席に入る直前、ラミーちゃんは三塁側ベンチに向かって言う。

誰に向けた言葉かは、視線を見れば明らかだった。

 

 目が合った葵は無言でひとつ頷くと、ラミーちゃんの打席を真剣な眼差しで見つめた。

(ラミーちゃんが居なかったら、野球部とは勝負にならなかったかもしれない)

献身的にコーチを引き受けてくれたことには感謝しかない。

未経験者たちもしっかり戦えるように仕上げてくれた。

(指導力も素晴らしいけど、やっぱり、レジェンドのプレーは最高だな)

小さい頃に憧れた選手と、まるで夢のようなひと時を味わえたことに幸せを感じる。


きっと、ヒロシも喜んでいるだろう。


カキーン!


 そのレジェンドの最終打席。

変化球を上手く捉えると、打球はショートの頭を超え、レフトの前へと落ちたのだ。

ラミーちゃんからウインドーズ9(ナイン)に、大きなプレゼントだ。

 

「やったー!」

「よし!」


 ウインドーズ9(ナイン)は興奮気味に、隣同士のチームメイトとハイタッチを交わす。

これでワンナウト一塁。同点のランナーが出たぞ。


 さあ、次はマッスルマンだ。

バットを振り回しながら打席に入る準備をしている。

そして、三塁側ベンチへと振り返り、笑顔で言うのだ。

 

「みんな! これまでの努力は絶対裏切らないよ。今じゃないかもしれないけど、いつか必ず何かに繋がっていくから、諦めないで頑張ろう!」


 この試合で、マッスルマンはまったく活躍出来ていなかった。

だが、ムードメーカーとしては蘭子にも負けないくらい、前向きなオーラを纏っていた。

特に、蘭子親衛隊とは仲が良く、三人の兄のように面倒を見てくれていた。

(野球……。得意じゃなかったのに、ここまで手伝ってくれてありがとうございます。マッスルマンさん)

 葵もマッスルマンの優しさを感じ取っていた。

きっと、ラミーちゃんやあぶさんのように活躍出来ないことを自覚していたから、マッスルマンなりに出来ることを考えてくれたのだろう。


 マッスルマンが練習の時に言っていた言葉を思い出す。

 

『努力する道を選ぶほうがかっこいい』


 この人はそういう人なのだ。常に自分と闘っている。

だから言葉に説得力があるんだ。


 打席では、必死にヒロシの球をファールにしながら粘っていた。

ワンボールツーストライクに追い込まれながらの6球目。


「エナジー!!!」


ガキン!


 お馴染みの叫び声と共に打った球は、鈍い音をあげながら一塁側へ転がった。

それは高いバウンドになり、ファーストの捕球が少し遅れてしまう。


 その結果、ダブルプレーを狙っていた野球部は二塁への送球を諦めた。

悔しそうなファーストが、自分でベースを踏んでアウトを一つ取る。


 これでツーアウト。ランナーは二塁だ。


「あぁ!」

「惜しい!」


 それでも、三塁側ベンチの声は、悲壮感など感じさせない。

「しくじった! でも、あとは頼んだぞ矢部くん!」

打席に入ろうとしている矢部先輩に、ベンチに戻るマッスルマンが声をかける。


「任せるでやんすー! 今のオイラは"男・矢部"。簡単には倒れないでやんすよー!」


 矢部先輩は燃えていた。

いや、燃えすぎてキャラが変わっているようにも見える。

その瞳にはメラメラした何かが宿っていた。


 これは、大一番の場面だからというだけではない。

実は、さっき蘭子に”活”を入れられていたのだ。


————


「ここまできたら、もはや蘭子様とのチェキなんてどうでもよくなったでやんすー。ただ、勝ちたいでやんすー!」

 ラミーちゃんがヒットを打った直後、ネクストバッターの準備をしながら矢部先輩が呟いた。

「そう。それじゃあチェキは無しって事でいい?」

それを聞いていた静香が、意地悪そうな顔で矢部先輩を揶揄う。

 

 その瞬間、矢部先輩の動きがピタッと止まった。

「蘭子様とのチェキの為、親衛隊の意地で勝つでやんすよ。そして、そのチェキはオイラの家宝にするでやんすー」

そして、さっきのセリフは無かったかのように、すっとぼけた顔で言い直した。

 

 そんなやりとりを聞いていたチームメイトがクスクスと笑った直後だった。

 

「おい矢部。ここでヒットを打ったらチェキを飾る額縁はわたしが一緒に選んでやる」


(いや、蘭子……。先輩を呼び捨てにするのはいかがなものかと……)

葵が呆れ顔で心のツッコミを入れるが、当の本人は気にもせず、むしろ今のひと言で火がついたようだ。


「うおおお! オイラは幸せ者でやんすー! 約束でやんすよー!」


そう言ってネクストバッターズサークルへ向かっていった。


———— 


「さあ! 来いでやんすー!」

 矢部先輩は、ヒロシにバットの先を向けて気合を入れた。


(親衛隊の三人にも感謝だな)

 

 矢部先輩の次に打順を控える葵は、準備をしながら巻き込んでしまった三人のことを思う。

静香に拉致——葵にはそう見えていた——されて、最初こそ強引に野球へ誘ってしまった罪悪感があったが、今はそんな感情が間違いだったことを知った。

 何よりも、彼らは楽しそうなのだ。

その原動力は『蘭子LOVE』。

だから、蘭子の為なら惜しみなく力を貸してくれる。

言わば、これは彼らにとって”推し活”のひとつなのである。


 矢部先輩は、未経験者の松坂先輩と松井さんをしっかり引っ張ってくれた。

試合の途中、「蘭子様と一緒に何かできるのが幸せ」と三人で語っていた。

雨の中、高架下の小さな空き地で一所懸命に練習していた姿も葵は見ていた。


 頑張れ、男・矢部!

家宝の為に!


カキン!


 ヒロシの衰えを知らない速球へ必死に喰らいついた。

その打球は鋭く地を這い、ファーストとセカンドの間を破ってライト前へと抜けていく。

 

「やったー!」

「おおお!」

「イエーイ!」


 ウインドーズ9(ナイン)のボルテージが最高潮に達した。

一塁ベース上でガッツポーズをする矢部先輩に、ベンチが歓声で応える。

三塁に進塁したラミーちゃんも拍手で矢部先輩を讃えていた。


ツーアウト。ランナー一塁、三塁。

一塁ランナーの矢部先輩がホームベースを踏んだ瞬間、ウインドーズ9(ナイン)の勝利が決まる。


 そんな絶体絶命にして一世一代のチャンスに打順が回ってきたのは——。


(何の因果か、ここで俺……か)


 葵がバットをギュッと握り締め、天を一度仰ぐ。

 

「ふぅ……」


高鳴る胸の鼓動を押さえつけるように、ゆっくりと息を吐いて打席に向かった。

 

 神様はなんて意地悪なのだろう。


勝負を決めるのは、幼馴染の親友対決となった。

緊張感が半端ないっす

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。