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気になる蘭子は止まらない  作者: きら
野球って何だ?

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63/87

主人公は誰だ

 三塁側ベンチの前で、ウインドーズ9(ナイン)が円陣を組んでいる。

最後の声出しは、満場一致で蘭子に決まった。


「いいかみんな。ヒロシは疲れている。いや、疲れてないかもしれない」


(どっちだよ……)


ここ一番の緊張感の中でも蘭子ワールドは健在だ。

葵は思わず苦笑いを浮かべた。


「だが、勝機は必ずある!」


 蘭子はキリッとした目で、”戦う顔”が消えていない全員を眺めた。

その言葉に応えるように、チームメイト達は静かに頷く。


「打順は私からね」


 確かめるようにチームメイトへ言う静香の表情も、蘭子に呼応するように鋭くなった。


「頼んだぞ、しずか! それじゃあ、声出しやるぞ?」


ウインドーズ9(ナイン)は、今一度ひとつになる。


「ウインドーズナイン! ……あいうえ!」


\「オー!」/


練習で見せてくれたあの掛け声で。葵も今回は乗り遅れなかった。


 一方、野球部の神原部長は、マウンド上でヒロシと最後の作戦会議中だ。

「風間。ここまできたら最後までお前に任せるからな」

「うっす! まだまだ行けます!」

神原部長は一年生エースを完投させる構えである。

 これは、地区予選に向けての練習も兼ねていた。

それがわかっているヒロシは、疲れなど感じさせない動きで投球練習を始める。


『負ける理由がない』


そんな自信に満ち溢れた表情で。

 

 打席に向かう静香は、人知れず燃えていた。


(負けるわけにはいかない。葵もタカヤも野球部には行かせない)


 この試合に負けると、二人は野球部へ入ることになる。そういう約束なのだ。


(セリスさんの脅威が迫っているかもしれない。だからっ!)


 気合を入れてバットをギュッと握る。

そして、一塁側スタンドをチラリと見上げた。

あの夜以降、静香の前に姿を現さなかったセリスが、今はこんなに堂々と監視している。


(葵もタカヤも、蘭子ちゃんの側にいてあげなきゃダメ)


 部活を始めると、蘭子との時間が限られてしまう。

静香がこの試合に込めた想いはそういうことなのだ。

みんなを守るために、静香は孤独に戦っていた。


「へへ。静香からか」

 

 ヒロシはロジンバッグを手の上でポンポンと叩き、後ろに放り投げた。

静香との対戦成績は3打数2安打。

打たれてはいるが、打ち取った当たりが運良くヒットになっているだけだ。

「そろそろ三振に仕留めたいところだね」

ヒロシはそう言いながら笑うと、神原部長のサインを確認する。

「打つわ。だって、あんたは主人公じゃないもの」

少し不機嫌そうな顔で、静香は刀を構えるようにバットをヒロシ向けた。

「ねぇー。それ言う? それを言うなら、静香だってそう——じゃん!」


シュッ!


 ヒロシは意表を突こうとしたのか、喋りながら投球動作に入るとそのまま投げてきた。

 

カキーン!


だが、ヒロシの考えることなどお見通しの静香には通用しなかったようだ。

 

\「おおっ!」/


 打った瞬間、三塁側ベンチでは歓声が上がった。

ライト方向に強い打球が飛んでいったのだ。

ウインドーズ9(ナイン)はベンチから身を乗り出すようにして打球の行方を見守る。


——が。


パシン!


 残念ながらライトが正面で捕球してしまった。

結果はライトライナーでワンナウトだ。


「あんたも私も、まだ主人公にはなれなかったみたいね」

 ベンチに戻りながら、静香はヒロシに向かって当てこすりをした。

「あーあ。引き分けってとこかな。ま、俺はこの章で存在感と好感度がグーンと上がったから良いけどさ」

だが、ヒロシは今の自分に満足している様子だ。

『存在感と好感度がグーンと上がった』のはどこ調べなのかわからないが。

「そう……」

 静香はさほど興味無さそうにベンチへ引き上げていく。

だが、突然思い出したかのようにヒロシは静香に向かって大声で言った。

「あ! そういえば静香! そっちは短編で主人公やってたよね!」

「さぁ? なんのことかしら?」

 ベンチの前で立ち止まった静香は、振り返ることなく返事をすると、不毛な主人公争いに終止符を打つようにベンチの中へと消えていった。


「あおい。あいつらなんの話をしているんだ?」

「……さぁ?」

 ベンチで会話を聞いていた蘭子と葵は、お互いに顔を見合わせながら首を傾げていた。

「いや……。野球に集中するべきところだろ? ここ……」

その隅でただ一人。

タカヤだけが、緊張感を保ったまま友人達を見守っていた。

短編、『静香の見ている世界』もどうぞよろしくお願いします。

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