表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気になる蘭子は止まらない  作者: きら
野球って何だ?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/70

一打に乗せた想い

三塁側ベンチには、相変わらず担任教師のイビキが響いていた。

(ほんと……、この状況でよく爆睡できるよな)

眉間に皺を寄せて睨む葵など気にもせず、加賀見はポカーンと口を開けながら上を向いていた。

その口の中にコーヒーでも流し込んでやろうか。

隣に置かれた飲みかけのコーヒーを見つけて、葵は良からぬイタズラを思いつくも、すぐに我に返ってグラウンドへ視線を戻した。

そのグラウンドでは、そこだけ異世界になったかのように緊張感が高まっている。


「へい!ヒロシ!リーリー!」

一塁ランナーの蘭子は、ヒロシを惑わそうと必死に声を出していた。

しかし、マウンド上のヒロシは全く聞こえていないかのように集中している。

彼にそんな手は通用しない。

そんなことで惑わされるレベルの選手ではないのだ。

それを証明するかのように、静香との対決はワンボールツーストライク。

ヒロシが有利なカウントになっていた。

 

「うわっ!」


「わわっ!」


そして、時々鋭い牽制球を投げる余裕すらあり、蘭子はその度に慌てて帰塁していた。

タイミングも間一髪セーフ。

ハラハラする。胃がおかしくなりそうだ。


「こらー!ヒロシ!こっちに投げるな!前を向け!ポジティブに生きろ!」


一塁ベース上では、ついにリードを諦めた蘭子が全力で蘭子ワールドを展開していた。

やっぱりリーリーうるさいのだと思うぞ。


バッターボックスの静香は追い込まれている。

(変化球って、こんなに打つのが難しいのね。――でも!みんなのアドバイスを信じるわ)

なかなか合わないタイミングに苦戦しているのだ。

だが、持ち前の技術力で徐々に要領がわかってきた。


そして、ヒロシが投じた決め球。


シュッ!ギュイン!


角度の大きなスライダーだ。


(きた!お願いっ!)


カキン!


見逃したらストライクになっていたコースギリギリの球に、静香は必死に喰らい付いた。

その打球はピッチャーの正面に飛んでいく。

 

ヒロシは慌ててグローブを出して捕球の動作に入る――が、寸前でワンバウンドしたボールが、野球部のプライドを嘲笑うかのように、股の下を通り過ぎていった。

焦って振り向いたヒロシだったが、ボールはダブルプレーシフトだった二遊間の間をさらに抜け、転々とセンター前に転がっていた。


「よし!」

「おお!」

「ナイスバッティング!」


この結果に、三塁側ベンチには再び活気が戻ってきた。

蘭子も悠々と二塁に到達しており、これでノーアウト一二塁。

チャンスでラミーちゃんの打席に回ったぞ。


「くぅ!打ち取った当たりだったのに!」

ヒロシには手応えがあったのだろう。

タカヤにホームランを打たれた時より悔しそうにしていた。


続く、4番ラミーちゃんの打席。

さすがレジェンドだ。

打席に立つ雰囲気がまるで違う。


「この場面で元プロとの対決……痺れるね」

さすがのヒロシも緊張しているようだ。

苦笑いでボソッと呟いた。

「風間!ムードに流されるな!」

そんな様子を見た神原部長は、キャッチャーの定位置からヒロシに一喝する。

すごい……。

今の一言でヒロシの目つきが変わったぞ。

テレビで見ていたあのレジェンドが、あの当時と同じ構えでヒロシの投球を待っている。

(こんなことになるなんて想像すら出来なかったよ)

きっと、葵とヒロシは同じことを思っているだろう。

小学生の頃に憧れた選手と、時を超えて対決する。

そんな夢みたいな時間の第1球。


「ストライーク!」

 

ヒロシの全力ストレートに、ラミーちゃんは豪快に空振りをした。


「すげぇ……、今の球めちゃめちゃ気合い入ってたぞ」

「俺に投げた球より速い」


ベンチから身を乗り出すように勝負の行方を見守る葵とタカヤは、少年のように目を輝かせている。

それだけこの勝負が魅力的なのだ。

 

だが、レジェンドも負けてはいない。

タイミングを外そうとした緩い変化球を、完璧に攻略して見せた。


カキーン!


しっかりと芯で捉えた打球は、テレビで見た栄光の瞬間を再現するように左中間に落ちる。


「っしゃああ!」

「イェーイ!」

「わぁ!」


眠る加賀見を除いて、三塁側ベンチは全員が立ち上がる程に興奮していた。

その盛り上がりの中、蘭子がアラレちゃん走りでホームを踏む。

やった同点だ!


続いて静香も三塁を蹴るが、レフトからレーザービームのような返球が来たところで、慌てて三塁に帰塁していた。

良い判断だ。

あのまま突っ込んでいたらアウトだっただろう。


「たっだいまー!」

ベンチには満面の笑顔の蘭子が帰ってきた。


「よくやった蘭子」


葵の嬉しそうな顔を見た蘭子は、得意げにハイタッチを交わす。

 

「惚れ直したぞ蘭子」


どさくさに紛れて告白するタカヤには、ジト目でハイタッチを交わ……そうとしてやめた。

そして、そのままスルーして親衛隊とハイタッチを交わしている。

タカヤは、タクシーを停めようとして止まってくれなかった人のような動きで蘭子の背中を眺めていた。

心なしか、涙目なっているようにも見える。

泣くなよ……。あと、今のは多分タカヤが悪かったと思うぞ。

だが、ひと通りハイタッチを終えた蘭子は、再びタカヤの元へ戻ってきた。

「冗談だ」

そう言ってハイタッチを交わす。

良かったな。蘭子が優しくて。


次のバッターはマッスルマンだ。

気合いと声の大きさだけは野球部に負けてない。

しかし、ウインドーズ9の反撃もここで力尽きてしまう。


「エナジー!!!!」


叫びながら豪快なフルスイングで空振り三振に倒れると、続く矢部先輩は、必死に喰らいつきながらもセカンドゴロ。

4-6-3のダブルプレーとなってしまった。

これでスリーアウトだ。


だが、スコア2-2。

同点に追いついた。


早くも試合を振り出しに戻したウインドーズ9。

野球部は最初こそ嘲笑するかのような視線を向けていたが、その視線は徐々に本気のそれへと変わって行くように見えた。

「冗談だ」の蘭子の優しさが好きです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ