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気になる蘭子は止まらない  作者: きら
野球って何だ?

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54/70

1回裏の真剣勝負

困惑顔の静香がネクストバッターズサークルに向かうと同時に、蘭子が打席に入った。

ベンチはまだ、ホームランによる興奮の余韻が残っている。


「よし。こい!ヒロシ!」


バットの先をビシッとヒロシに向けた蘭子は、左バッターボックスにいる。

 

「アオイ。どういうことだ?この前は右で打っていたはずだが……?」

タカヤは、蘭子の打撃スタイルが練習の時と違うことに気がついた。

「まぁ見てろって」

だが、葵はニヤニヤと笑ってそう答えるだけだ。

そう。これは『曲者の葵』による作戦なのだ。


「次は蘭子ちゃんか……」

ヒロシは何となく投げづらそうな表情をしている。

これは、タカヤに一発浴びたからというわけではない。

葵や静香ほどではないが、ヒロシも知っているのだ。

このトンチキコンビの非常識さを。


「クク……。いいぞ。タカヤのおかげですっかり警戒してるな」

読み通りの展開になったことで、葵は笑いを堪えきれずタカヤを見た。

「……?」

しかし、葵が何を考えているか理解できていないタカヤは、首を傾げながら蘭子の打席を見守っていた。


やがて、ヒロシが投球動作に入ると、蘭子も豪快にバットを構える。

 

シュッ!


蘭子の風術にも負けていない白球が、風を切りながら解き放たれた。


そして……。


秘打(ひだ)!『三塁線上のアリア!』」

 

コツン!


なんか謎の言葉を叫びながら、絶妙な力加減で三塁線上にボールを転がした。


「セーフティーバント!?」


驚きの声を上げているのは静香だ。

味方も意表をつかれた打球は、キャッチャーとサードが譲り合った一瞬の間に、三塁線上で完全に静止する。

サードが慌てて素手でボールを拾うが、既に蘭子はアラレちゃん走りで「キーン」とか言いながら一塁を踏み抜いていた。

どこでそんな知識仕入れてきたんだよ。


「よし!完璧だ!」

ベンチでは葵がガッツポーズをしていた。

全て完璧に決まったのだ。

「ヒロシは蘭子の性格と運動神経の良さを知っている。それに、お前がホームランを打ったあとだろ?当然、長打を警戒するはずだ」

「……なるほどな。まさか小技でくるとは思わないということか」

「その通り」

実は、蘭子にセーフティーバントをさせたのは他に訳があった。

あの練習以降も投球術を磨くことに夢中で、バッティングの指導まで手が回らなかったのだ。

「昨日、バッティングセンターで特訓をしたんだ。それで、試しにやらせたバントがあまりに上手かったから、この作戦を思いついたんだ」

バットを振るよりも、バットに当てて思い通りの場所へ転がす。

そんな蘭子の意外な特技が明らかになり、タカヤも驚いているようだった。


「どうだ!みたかっ!わたしの天才的なバッティングを!」

一塁ベース上では蘭子がドヤ顔で立っている。

これで、ノーアウトランナー一塁。

同点のランナーが出たぞ。


「風間。なにを遊んでいる?真面目にやれ」

たまらずマウンドに向かった神原部長は、ヒロシにひと言喝を入れた。

「俺も本気ですって。それよりもアイツら本気で勝ちにきてますよ」

今日の調子は悪くない。

むしろ、普段よりも良い球を投げられている。

それは、球を受ける神原部長も理解していた。

「……くそっ、ふざけたチーム名しやがって……」

だから、悔しさの矛先をチーム名に向け、一旦雑念を吐き出すことにした。


次は静香の打席だ。

「ふふーん。まさか静香とこうやって勝負する日が来るとはね」

「私も、小学生の頃からあんた達の野球を見ていたけれど、実際に勝負するなんて思ってもみなかったわ」

幼馴染同士の不思議な縁が、今ここでスポーツの真剣勝負となって対峙する。

「手加減はなしよ?」

「俺も、野球部の意地があるからね」

2人は、言葉を交わしながら準備をする。


三塁側ベンチは、一転緊張感に包まれていた。

葵は言葉なく、固唾を飲んで勝負の行方を見守っている。

その時、陽気な声がベンチに響いた。

「シンパイイラナイネ!シズカ、バッティングセンスアメイジングネ!」

打撃コーチを引き受けてくれたラミーちゃんが、ベンチの不安を吹き飛ばした。

練習ではラミーちゃん流のバッティング講座で、未経験者組が快音を響かせるほどの名指導者だ。

お墨付きをもらった静香のバッティングと、エースヒロシとの対決。

ヒロシが知らない静香の裏の顔と、静香が知らないヒロシの努力。

ただ1人それを知る葵は、想像したこともなかった景色に1人ワクワクしていた。


幼馴染3人の想いが交錯する真剣勝負が始まる。

ちょくちょく野球漫画のオマージュネタ入れたりしてます。



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