戦う顔
太陽が西に沈み始めた17時。
河川敷のグラウンドでは、バットを片付けている金属の音や、ブルーシートを畳む音が響いていた。
「ふぅ……。いい汗かいたな」
三塁側ベンチの前に一纏めになった道具を前に、葵は額の汗を拭った。
「手応えあり、って顔ね。野球部に勝てそう?」
その隣に静香が並び、スポーツドリンクを手渡しながら言う。
「勝てるかどうかなんて、やってみないとわからないよ。だけど……、不思議と負ける気はしないんだよね」
寄せ集めのメンバーで、今日1日だけしか練習していないチームだ。
普通に考えれば、毎日本気でやっている野球部に適うわけがない。
しかし、葵はその練習の中で確かな手応えを掴んでいた。
「なんだ?アオイも蘭子のように根拠のない自信が湧くようになったのか」
「なっ!?タカヤっ!根拠のない自信とは何だっ!」
トンチキ異世界コンビは、小競り合いをしながら葵の側へやってきた。
その2人に連れられるように、他のチームメイトも三塁側ベンチに集まってきた。
今、ウインドーズ9は自然と輪になって並んだ。
今日初めて顔を合わせたハズなのに、チームワークが出来上がっている所も、葵が自信を持つ根拠になっている。
そして、ウインドーズ9のチームメイトは葵を見た。
何か、言葉を求めるように。
その空気を察した葵が、メンバーをそれぞれ見回してニヤリと笑う。
「みんな!今日はどうもありがとう!1日しかない練習だったけど、凄く充実した時間を過ごせたと思う!」
静香とタカヤは深く頷き、蘭子はニコニコと笑った。
親衛隊の面々はお互いに顔を見合って笑い、マッスルマンはエナジーポーズを、あぶさんとラミーちゃんは葵にグータッチを求めた。
「ラミーさん、あぶさん。本当に良い指導をしてくださってありがとうございます。お陰様で、野球部としっかり戦えそうです」
グータッチを返した葵は、続けて深々と頭を下げた。
「ノープロブレムネ」
「もう、いいのよそんな!」
グラウンドには10人の長い影が映っている。
空はまだ明るいが、1日の終わりに向け、太陽は更に沈んでいく。
「あとは試合に全力で臨むだけだ。明日からはそれぞれの都合もあるだろうから、各自練習をして来週また会おう!」
この葵の一言で、全員の笑顔が『戦う顔』に変わった。
──バトルフェイスだ。
「あおい。わたし、みんなで『オー!』ってやるやつがやりたい!」
最後に、蘭子が手を挙げて気合い入れを提案する。
「よし。やるか!それじゃ、みんな、肩を組もう!」
葵はニヤリと笑って提案を受け入れると、10人はガッチリとした輪になった。
「そうだな……。よし、蘭子!ここはお前が号令をかけろ」
これは、蘭子が始めた物語だ。
何となくまとめ役をやっていた自分よりふさわしい。
葵はそう思っていた。
「よ……よし!それじゃあ、わたしが号令をかける」
少し緊張した蘭子が大きく息を吸った。
そして、大きな声で叫ぶ。
「ウインドーズナイン!!……あいうえ!!」
「「「「「「「「オー!!!!」」」」」」」」
「なんだそれーーーー!!!!」
よくわからない掛け声なのに、息がぴったりだった。
──葵以外。
次回、ようやくプレイボールです。




