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気になる蘭子は止まらない  作者: きら
野球って何だ?

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45/68

二刀流に憧れて

──お昼。


グラウンドの隅で大きなブルーシートを広げて、ウインドーズ9のメンバーは昼食を食べていた。

実は先程、蘭子とタカヤが下宿している館のオーナーが、大量のサンドイッチとおにぎりを差し入れてくれたのだ。

彼らはそれを、ありがたく頂戴しているわけである。


そんな中、葵は1人隅っこに座りながら、手帳と睨めっこをしていた。

(ショートとセカンドはタカヤと静香。外野はラミーちゃんと矢部先輩として、あぶさんはファーストかサードだな。問題は……残りか……)

午前中じっくり費やした守備練習のおかげで、それぞれの特性がわかってきた。

経験者組と人間辞めましたコンビの守備位置はすんなりと決まっていく。

そして、手帳に書き込みながら、残りの4人(蘭子、マッスルマン、松坂先輩、松井さん)について考える。

(いや……これだとこの4人からピッチャーを選ばないといけないな)

ラミーちゃんの神指導のお陰で、そこそこ動けるようになったが、蘭子を除いた残りの3人にはまだ不安が残っていた。


「あおい。さっきからなにしてんだ?」


ふと、蘭子が手帳を覗き込んできた。

髪の毛が触れるほど不意に近づいた頭に、葵は驚いてしまう。

「うわっ!……急に視界を遮るなよ。ビックリするだろ」

喋った瞬間、蘭子から良い匂いがふわりと漂ってきた。

シャンプーの匂いだろうか?

汗をかいているのに、嫌な臭いがしない。

この、男性には信じ難い現象を目の前に、思わず顔を背けてしまう。

そんな葵を見て、今更ながら自分の顔が急接近していたことに気がつき、蘭子は慌てて少し距離をとった。

「すまない。不用意に近づきすぎた。汗をかいているからくさかっただろ?」

少し恥ずかしくなり、照れ隠しで言う。

だが、恥ずかしいのは葵も同じだった。

「……い、いや、大丈夫だ。むしろいい匂いだった」

(って……何言ってんだ俺はーーーーーー!)

焦りすぎて爆弾発言をしたことに気がつき、赤くなりながら下を向いた。

「……そ、そうか。ならよかった」

そして、なぜか蘭子も恥ずかしそうに顔を背ける。


「……」

「……」


近くで鳴いているニィニィゼミの声が、やけに大きく聞こえた。

2人の間には、気まずい沈黙が流れている。

そんな様子を、チームメイト達はニヤニヤと眺めていた。


「……とにかく!今、守備位置を決めていたんだ。ピッチャーを誰にやってもらおうか悩んでいてな」

この、なんとも言えない空気を戻そうとしたのは葵だった。

葵は、手帳に書いたメモを蘭子が見えやすい角度に持って見せる。

蘭子はメモを読みながら「ふむふむ」と呟いているが、本当に理解しているのかはわからない。

だが、蘭子はやっぱり蘭子であって、ここでも蘭子は止まらないのだ。


「よし。わたしがやろう!」


蘭子は葵にドヤ顔を向けると、グーで自分の胸をポンと叩いた。


「……ピッチャーを誰にやってもらおうか悩んでいてな」


しかし、葵は再び手帳に視線を戻して、わざと同じ言葉を繰り返した。


「なっ……!こらー!無視するな!あおい!」


蘭子は両腕をクルクル回して、ポカポカと葵を叩きだす。

「イダダダ!痛い痛いって!」

葵のスルー作戦は、これにて丸潰れである。

 

「あのなぁ……。ピッチャーって大変なんだぞ?それをわかって言ってるのか?」

ピッチャーとは、野球では重要なポジションだ。

大袈裟に言えば、ピッチャー次第で試合の勝敗に影響が出てしまうのだ。

しかし、蘭子は野球を知ったばかりなので、どこまで理解をしているのか葵にはわからない。

だが、蘭子はそんな疑問に答えるように、身を乗り出して顔を近づけてきた。

 

「わかっているから言っている。それに、野球をしようと言い出したのはわたしだ。だから、少しは勉強したんだ。……そして、わたしは知った。『二刀流』という生きる伝説を!」


──蘭子は今、満員のスタジアムに立っている。

数万人の歓声を受け、マウンドから豪速球を投げる。

空振りを奪って、興奮した歓声が波のように蘭子を包む。

続いて、バッターボックスに入った蘭子はフルスイングでボールをスタンドに放り込んだ。

観客はスタンディングオベーションで、蘭子コールをしている。

──想像の中で。


「……おーい。蘭子ー。戻ってこーい」

葵は心底めんどくさそうに、違う世界へ飛んでしまった蘭子の意識を呼び戻した。

どんだけ色んな世界に行けば気が済むんだ?

「あのメジャーリーガーだって苦労したんだぞ。昨日今日であんな風になれるもんじゃない。こういうのは日々の努力の積み重ねが大事なんだ」

そう言いながら、約2名がその常識を壊している事を思い出し、葵は呆れ笑いを浮かべた。

「でも、わたしはやりたい!ピッチャーをやってみたいんだ」

しかし、蘭子も蘭子で、ここは一歩も引かない構えだ。

もう、こうなってしまっては仕方がない。

「ったく……。それじゃあ、昼飯を食べたら投球練習でもやってみるか」

きっと、気が済むまで止まらないと思った葵は、午後の練習に蘭子の投球練習を追加するのだった。

「やったー!ありがとうあおい!」

蘭子はご機嫌だ。

チームメイトも異論はなしの様子である。

 

(まぁ……元々あいつが言い出したことだしな)

 

葵は、野球部に勝つ秘策ばかり考えてしまっていたが、蘭子の顔を見て、『楽しむこと』を忘れていた自分を思い出した。

「よし。あのー!経験者の皆さん!」

小さく気合を入れると、チームメイトに呼びかける。

「皆さんの中で、ピッチャー経験者はいませんか?蘭子が投げてみたいそうなので、コーチをお願いしたいのですが……」


「やだっ!アタシ!できるわよ!」


名乗り出たのはあぶさんだった。

 

(マジか。この人なんでも出来るな)


聞いてみて正解だった。

もし蘭子の投球に不安があっても、あぶさんがピッチャーをやってくれれば野球部に通用するかもしれない。

(でもまぁ、リリーフも欲しいし、とりあえず蘭子の投球練習に付き合うとしますか)


だが、蘭子だって運動神経はいいのだ。

さっきの守備練習でも、無駄にローリングするくらい余裕があった。

これは葵の勘だが、なんとなく蘭子はやってくれそうな気がしていた。

こうして、蘭子の二刀流大作戦が始まるのだった。

次回!蘭子の投球練習!


忘れられてそうなあの力、使っちゃいます。

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