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気になる蘭子は止まらない  作者: きら
野球って何だ?

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守備は最大の攻撃

さて、一息ついたところでチーム名が決まり、素人集団とは思えないほどの速度で団結力が上がっていく『ウインドーズ9』。

すでに常識破りのチームになっている気もするが、試合に勝つためには野球の腕も磨いていかないといけない。


そんな彼らが次に挑戦するのは、『守備練習』だ!

つまり、『ノック』である。

今回は三塁ベース周辺に集まって、ノッカーが打ったボールを捕ってファーストへ投げるプレーを練習する。


「えっと……ラミーちゃ……じゃなかった。ラミーさん!ノッカーをお願いしてもいいですか?」

「モチロンオッケーダヨ!」


葵からの依頼を受け、ラミーちゃんは木製のノックバットを持ってノリノリでホームベース付近に向かった。

プロ野球のレジェンドが打つノックだ。

これは贅沢すぎる練習だぞ。


「あとは……、あぶさんはファーストの守備をお願いします。なんか経験者っぽいんで」

「やーん!まーかーせーてー!」


あぶさんはファーストミットを持つと、わざとらしい女の子走りで一塁ベースに向かっていく。

この人、なんでいちいち声が大きいのだろう……。

あと、やっぱり酒臭い……。

酒の臭いから遠ざけるつもりではないが、この人は多分、守備練習はいらないだろうと思った。

さっきのキャッチボールで、レベルが高いのは十分伝わったし。


「俺はノッカーの補助とキャッチャーをやるから、残りのメンバーはみんな三塁ベースの横に集まってくれ」

この練習は、それぞれの守備位置を決める為に適性を見る目的も含まれている。

葵は自らの経験を生かしてキャッチャーをやるつもりでいるが、それ以外のチームメイトの守備位置については見通しが立っていない。

だからこそ、まずは内野の守備を見て、ある程度の目処をつけておきたかった。


残った7人が三塁ベース付近に集まって準備が整った。

その中で、唯一の経験者は矢部先輩だ。

マッスルマンさんもいい動きをしていたが、キャッチボール以外は初めてだという。

なので、ここは矢部先輩に一肌脱いでもらおう。


「矢部先輩!お手本で最初にお願いします!」

「わかったでやんすー!でも、オイラもブランクがあるでやんすよー。お手柔らかにお願いするでやんすー!」


葵のお願いに、両手をあげて快く答えてくれた矢部先輩。

ずっと思ってたけど、あの先輩、めっちゃいい人だよね。

 

そして、矢部先輩が一歩前に出てきた。

「さあ!来いでやんすー!」

グローブをポンと叩いて中腰の構えを取る。


「ヘイ!ヤベ!イキマスヨー!」

ラミーちゃんは左手でポンと球を浮かせるように投げると、その間に両手でバットを持ち、「カコン!」と軽く打った。

その球は転々と転がっていくが、軽く打ったはずなのに、思ったより強い打球が飛んでいった。

「オー!ソーリー!チョットツヨスギタネ!」

だが、それは力加減を誤っただけのようで、ラミーちゃんは『すまん!』のポーズで謝っている。

しかし、矢部先輩の視線は打球に集中していた。



ザザザザ!


パシッ!


シュッ!



軽やかな身のこなしで前進すると、うまくバウンドを合わせてグローブに収めた。

そして、体勢を崩すことなく綺麗なフォームでファーストに送球したのだ。


(う……上手い!ブランクがあるなんて思えない動きだ)

葵は思わずグローブをはめた手で小さく拍手をした。

ファーストでボールを受けたあぶさんも、「ナイスボール!」とダンディな声を響かせている。

「オー!ヤベ!スバラシイFielding(フィールディング)ネ!」

もちろん。このプレーはラミーちゃんも絶賛していた。

レジェンドお墨付きの言葉を頂いた矢部先輩は、「これくらい朝飯前でやんすー」とか言いながら後ろに下がっていく。

親衛隊の仲間にチヤホヤされている中、他のメンバーの表情も驚きを隠せない様子だ。

思わぬ伏兵が潜んでいた。

そんな感覚だろう。

特に蘭子はわかりやすい。

目からお星様がこぼれ落ちてきそうなほどに、目をキラキラさせている。

たぶん、「わたしもあんなふうにやってみたい!」とか思っているのだろう。

実際かっこよかったし、その憧れはモチベーションを上げるには最高のスパイスだ。

「みんな!これが次の練習だ。さすがに今のお手本はレベルが高すぎるから、あそこまで完璧にできなくても構わない」

矢部先輩のお陰で、三塁ベース付近にいるメンバーのモチベーションが上がった今。

この空気を維持したまま練習を続けるべく、葵は続ける。

「まずは慣れることを意識して、一連の流れを身につけていこう!」

そう。まだ完璧にこなす必要などない。

矢部先輩があまりにも上手かったので勘違いされそうだが、この練習の目的は「慣れること」なのだ。

その目的を見失わないよう、チーム全員に伝えた。


さて、ここからは未経験者組の出番だ。

まず前に出てきたのはタカヤだった。


「……よろしく頼む」


クールにそう言うと、矢部先輩の見よう見まねで構えをとった。


「ヘイ!タカヤ!コエガチイサイネ!」


そう言いいながら、ラミーちゃんはボールを打つ。

打球は矢部先輩の時よりも緩いゴロだ。

しかし、チート級の運動神経は伊達じゃなかった。


シュババ!


パッ!


シュッ!


お手本を1回見ただけで要領を掴んだらしく、忍者のような動きで魅了する。

これには、葵も思わずあんぐりと口を開けて驚いていた。


「ちょっと!タカヤちゃん、やるじゃなーい!」

捕ってから投げるまで、全く無駄がない動作で繰り出された送球は、あぶさんが構えたグローブに吸い込まれるように消えていった。

「オォ……タカヤ。ヤッパリ、コエガチイサクテモイイネ……」

さすがにラミーちゃんも引いちゃってるよ。

 

「フッ、こんなものか。次は本気でかかってくるといい」


満足したタカヤはドヤ顔で下がっていく。

「いやいや!『本気でかかってくるといい』じゃないのよ!今、俺、『慣れることを意識して』って言ったばかりだよね!」

ツッコミが聞こえないフリをしているタカヤに向かって葵は続ける。

「ほら!矢部先輩がどんな顔すればいいかわからなそうな感じになっちゃったよ!」

すると、タカヤは矢部先輩の隣で立ち止まって、顔だけを矢部先輩に向けて言った。


「……笑えばいいと思うぞ」

 

「笑えねーんだわ!」


あれで真面目に言ってるからなんか腹立つ。

怒涛の3連ツッコミをすることになって、肩で息をする葵だった。

もうアイツは練習しなくていいんじゃないか?


 

気を取り直して、次に出てきたのは静香だ。

「よろしくお願いします!」

礼儀正しく挨拶をして続ける。

「女子ですが、タカヤと同じくらいの強さで構いません!」

皆さんはもうお分かりであろう。

タカヤがあれだったのだ。

静香がそれに劣るわけがない。

「オーケー!レッツプレイ!」

ラミーちゃんは、静香の目が本気であると理解し、ボールを打った。

低い弾道で飛ぶ球は、ワンバウンドして静香に襲いかかる。


サッ!パシッ!シュッ!


…………ん?

今何が起こった……?

葵の目には、捕ってから投げるまでの動作がひとつの動きに見えた。

一塁ベースの上ではあぶさんがグローブの中を見つめて固まっている。

『いつの間にかグローブの中にボールがあった』

そんな感じだろうか?


「ヘイ……アオイ?コノヒトタチ、ホントニシロウトネ?」


ラミーちゃんは混乱している。

それはそうだろう。

未経験者のはずなのに、『お手本の矢部先輩<タカヤ<静香』とレベルが上がっていくのだ。

それも、元プロが引くレベルで……。


「いえ……あの……。アイツらはさっき人間辞めたみたいなので……」


葵もそう返すので精一杯だった。

あれはもう、葵の実力を超えている。

(アイツら……。あとの人を考えて少しは手加減しろっての……)

こんな結果になる予感はしていたが、ちょっとやり過ぎだと葵は思う。

ほら。

松井さんは今にも泣きそうな顔になっちゃったし、松坂先輩は不安そうな顔してるよ。


しかし、まだ非常識タイムは続くのだ。

次に前に出てきたのは、さっき目がキラキラしていたお姫様の蘭子である。


「よし!こい!」


矢部先輩のマネをしてグローブをポンと叩いた。

そして、先の3人をマネした構えも完璧だ。


「ヘイ、アオイ……?チカラカゲンガ、ワカラナーイ」

この流れだと、静香を超えてくるかもしれないと思っているのだろう。

ラミーちゃんはとても困っていた。

「あの2人よりは常識寄りの運動神経なので、少し手加減してください」

葵は仕方なく力加減の注文をすると、ラミーちゃんにボールを渡した。

そして、先程よりも少し優しくボールを打った。

弱々しくバウンドしながら、ボールは蘭子に向かって転がっていく。


タタタタ!


クルン!


パシッ!


パッ!


上手に捕球して投げたボールは、フワリと山なりに飛んでいった。

ワンバウンドしながらファーストに届いたボールを、あぶさんが微笑みながら掴む。

「きゃ!うまいわよ!蘭子ちゃん!」

周りの人達も拍手をして蘭子のプレーを褒めていた。


だが、ちょっと待て。

「蘭子!今なんでローリングした!?」

みんなはスルーしているが、タタタタ!と前進したあと、パシッ!の前に『クルン!』があった。

正面から来たボールを、跳び前転のように回転したあと捕球しているのだ。


「カッコいいからに決まっているだろう!」


腰に手を当てドヤ顔をしながら、蘭子は当然のように返す。

その背後では、親衛隊の皆さんが嬉しそうに「おー!」とか言いながら拍手をしていた。

 

「ムダな動きはいらん!頼むから普通にやってくれ……」

ガックリとうなだれる葵は、守備練習ではなくサーカスを見ている気分になってきた。

これでは、せっかく良い見本を見せてくれた矢部先輩が報われない気がするし、残りの3人(松井、松坂、マッスルマン)も練習がやりづらいだろう。

蘭子は満足そうに後ろに下がると、静香と談笑を始めている。

「すみませんラミーさん。残りの3人は多分、普通だと思うんで、フォローしてあげてください」

もう一度、この練習の目的を思い出してみる。

そう。『捕って投げることに慣れる』だ。

出来なくたって構わない。

だって、今日初めてグローブをはめた人達なのだから。


(やれやれ……この後はようやく普通に練習できそうだな)


一瞬そう思った葵だったが、自分で違和感に気がついた。


(あれ……?『普通』?……普通ってなんだっけ?)


実力が高いことは、試合に勝つためには嬉しい限りだ。

だが……葵の思い描いていた練習風景とはかけ離れている。


(そっか……。きっと、これが青春というやつなのか)


太陽に照らされたグラウンドは、ゆらゆらと陽炎が揺れている。

きっと、温度計の数字は吹っ飛ぶように上がっているだろう。

そして、葵の感覚も既にホームラン級に吹っ飛んでいた。

蘭子は言ってました。

かわいいだけじゃダメなんです。

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