キャッチボールとは思いやりの心でやるもの
「スパン!」
「ズバン!」
河川敷のグラウンドには、ボールがグローブに吸い込まれていく音が響いている。
始まってから15分ほど経ったが、それぞれのペアはキャッチボールが成り立つようになっていた。
特に不安要素だった松井さんは、ラミーちゃんの神指導のおかげで、緩いボールをすくうようにグローブでキャッチできるようになっていた。
そして、最初こそボールを押し出すように、いわゆる『女の子投げ』の状態だった投げ方も、今は腕をしっかり振って投げられるようになっている。
送球はワンバウンドだが、この短時間でここまで形になるなんて、やっぱり元プロの指導は凄いと葵は感心していた。
だが、こちらもしっかり成長している。
蘭子、タカヤ、静香の3人は元々運動神経が良いので、説明よりも葵を見て体の動きを習得していた。
「もうちょっと、投げる瞬間に手首のスナップを効かせるんだ」
葵はそう言いながら蘭子にボールを投げると、白いボールが糸のように「シューン」と風を切って飛んでいく。
「ズバン!」
そして、乾いた良い音を響かせながらキャッチした蘭子は、口と目をまん丸にしながら驚いていた。
「おおおお!あおい!今のなんかすごくカッコよかったぞ!」
「コツさえ掴めば同じような球が投げられるぞ。スナップを効かせることによってボールに回転がかかって、キレが良くなるんだ」
葵はシャドーピンチングをするように、右手だけ投げる動作をしながら説明する。
「おお!なるほどな!よし。いくぞあおい!」
蘭子はすぐに投球の動作に入り、葵にボールを返そうとした。
しかし、スナップを加えることで力が入ってしまったのか、ボールを地面に叩きつけてしまった。
葵は慌ててボールを拾いながら次のアドバイスを送る。
「力が入りすぎだ。まずは俺の胸元に正確に投げることを意識してやってみよう。全身をしならせて投げるのがコツだ」
今度はゆっくりした投球動作で蘭子にボールを返す。
「ほう!今みたいなフォームでもこんな球が投げられるのだな。なるほどなるほど」
葵の動きに反して、思っていたよりしっかりした球が返ってきたことに蘭子は再び驚いていた。
その隣で、葵と蘭子の会話を聞きながらキャッチボールをしていた2人が、その動きを取り入れていた。
「……ほう。なるほどな。ここでも『柔』が必要になるのか」
「そうみたいね。どうやら、野球っていうスポーツは、私の性に合っているみたい」
「シュッ!ズバン!」「シュッ!ズバン!」とリズミカルな音を響かせながら、静香とタカヤはテンポよくボールを投げ合っている。
その様子はすでに経験者の動きだ。
(ある程度想像はしてたけど、やっぱり凄いな……。こんな短時間でここまで仕上がらないって普通……)
ついさっき野球を始めたとは思えない動きを見せるチート級の2人を横目に、葵は苦笑いをしながら引いていた。
「おあい!よそ見すんな!いくぞっ!」
「おおっ!すまん!」
そして、このお姫様の運動能力も素晴らしかった。
「シュッ!」
「スパン!」
投げる度に精度と球のキレが増していくのが感じ取れるのだ。
今の球は、葵が投げている球とそう変わらなかった。
グローブに収めた球を見ながら、葵は思わず笑みが溢れてしまう。
矢部先輩と松坂先輩のペアも、同じようなレベルでキャッチボールができている。
そして、端っこで「ズドーン!」「ズバーン!」という地響きのような音と一緒に、「エナジー!!!!」とか「ダラッシャー!」とか叫びながらバケモノのようなキャッチボールをしている筋肉コンビがいる。
(よし。これは本当にイケるかもしれないぞ!)
まだ動き出したばかりの寄せ集めチームだが、計り知れないポテンシャルを秘めていると葵は感じていた。
「あおい?なに笑ってるんだ?」
「いいや。なんでもない」
ニヤニヤする姿を不思議がっている蘭子に向かって葵は笑いかける。
「蘭子!この試合、絶対勝とうな!」
「あたりまえだ!」
この2人のやり取りを聞いていたチームメイト達も、自然と笑みが溢れていた。
少しずつ、確実に、このチームの結束は強まっている。
段々とスポコン化してる気がする……




