テイム屋で
「あ、そうだ。
ナツリムちゃん、ちょっと待っててね」
ゲージおじさんが来るまで暇なので、キルトさんと話をして待つことにしてたんだけど…唐突に、キルトさんが手をぽんと叩いて、お店のさらに奥に何かを探しにいってしまった。
と思ったらすぐに出てきた。見えなかっただけで、すぐ近くにあったみたい。
「お待たせ!ちょっとこれ見て欲しいんだ」
そう言って見せられたのは、普通の魔物の卵だった。全体的に白くて、茶色い斑模様で、一般的と言っていいだろう。
異邦人さん達の世界では、うずらという鳥の卵にそっくりらしいんだけど…これがどうしたんだろう。
「これがどうかしたんですか?」
「それがねナツリムちゃん、これ、なんかただの魔物の卵じゃないらしいんだ」
キルトさんの話によると、この卵は確かに魔物の卵のようなんだけど、なんかいろいろと怪しいものらしい。
もうとっくに生まれている筈なのに、生まれる気配すらなく。
そればかりか、この卵の近くに他の魔物の卵を置いておくと、まるで道連れだと言わんばかりにその卵もろとも生まれないらしい。
ちなみに、近くに置いた魔物の卵は、その卵から半径10mを越えると、前兆とかもなく、突然生まれてしまったんだって。
「そういうわけで、ゲージおじさんに町の人に聞いてもらったりとかしてたんだけど…全然わからないんだって」
「そうなんだ…」
そんなわけで調べてるけど、情報は一向に集まらず。テイム屋としても、良く分からない魔物の卵なんて何が起きるかわからないから、扱いに困ってるらしい。
「うーん、危ないんなら、冒険者ギルドに預けるのはどうですか?」
「僕もそれ考えて、ゲージおじさんに言ったんだけど…冒険者ギルドには強い人もいるけど、初心者の方が圧倒的に多いから止めた方がいいって言われちゃって…。」
「あー、なるほどー…。」
この町、レクサスの近くにある平原に出る魔物は、他所と比べるとそんなに強くないから、冒険者ギルドには初心者が多い。ゲージおじさんはその事を言っているのだろう。
「預ける宛もないし、取り敢えずここで育てるよ。危なくないって分かったら、生まれるときナツリムちゃんも呼ぶから、一緒に見よう!」
「ほんとですか?!やった、楽しみにしてます!」
まあいろいろと問題はあるけど、やっぱり生まれるところは見てみたいからこの誘いは有り難い。テイム屋の魔物が生まれる瞬間が見れるのって、実はすっごいラッキーなことなんだよね。
「待たせてすまんなナツリム!ほら、こいつだ!」
そのすぐ後、ちょうどいいタイミングで、ゲージおじさんが奥の方から顔を出した。左腕には何か白い、もこもことした生物を抱えている。
そのもこもこした生物が今日私がこのお店に来た理由なので、私は急いで駆け寄った。
「そらっ、注文のウルフタイプ、白狼だ!行ってこい!」
そう言っておじさんがもこもこ生物を地面におろした瞬間、もこもこ生物は弾けたように私の足元に飛んできて、グルグルと私の周りを回った。
キルトさんがそわそわと落ち着かなげにしているが、多分私のことを心配しているだけなので、大丈夫だという意味を込めてにっこり笑っておく。
…顔を両手でおさえてフラフラとお店の出口の方へ向かって行ったんだけど…大丈夫だろうか。
…まあ、多分大丈夫だろう。
キルトさんも居なくなってしまったし…うん、まずは、今日から新しく家族になる子を紹介しよう。
新しく家族になる子は、ウルフタイプの白狼だ。名前はまだ決めてない。
名前が何故無いのかっていうと、ウルフタイプというのは狼の形をした魔物のことで、白狼っていうのは魔物の正式名称みたいな、まあそんな感じなわけで。
どっちも名前じゃない。だからまあ、当然名前をつけるところから始まるんだ。
それに、名前は魔物が凶暴化しないよう、ある程度の知性などを与えるためにも必要なんだって。
それにしても
「うーん、名前かあ…。」
名前がいいのが思いつかない。
無難に白?
犬っぽいからポチ?
いやいや、ここはかっこよさを狙って…。
…あ、コロン。コロンはどうだろう?
コロンっとしてるし、音の響き的にもなんかいいし。
そうと決まれば、
「コロン。あなたの名前はコロンでいい?」
「ワォン!」
気に入ってくれたみたい。
短く吠えると立ち止まって、撫でてとばかりに首を伸ばしてくる。
左手を伸ばして撫でてやると、もふもふと凄く肌触りのいい毛並みだった。
「これから宜しくね!コロン!」
「ワォン!」




