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第2話 覚醒

 その瞬間だった。


 目の前に、何かが現れた。


 モニターと俺の顔のあいだ。何もないはずの空中に、薄く光る板のようなものが浮かんでいる。向こう側のモニターが透けて見えるほど、半透明だった。


「は?」


 思わず、椅子ごと少し後ずさる。


 徹夜明けの幻覚かと思って目をこすってみたが、消えない。板はただ静かにそこに浮かんでいて、その表面には、こんな文字が並んでいた。


━━━━━━━━━━━━━━━━

覚醒しました。


【ステータス表示】

━━━━━━━━━━━━━━━━


「……覚醒?」


 口に出して、ようやく頭が追いついてくる。


 覚醒。ダンジョンが現れてから、人間がステータスやスキルを持つようになった現象だ。今から五十年くらい前の話で、俺が生まれたときにはとっくに当たり前のことになっていた。何歳で覚醒するのかは人によって違う。子どものうちに覚醒する人もいれば、大人になってから覚醒する人もいる。


 その覚醒が、今。俺に。


「俺も……覚醒したんだ……!」


 言葉にしたら、胸の奥がぐっと熱くなった。気づけば、膝の上で両手を握りしめていた。


 さっきゲームをクリアしたときとは、また違う種類の興奮だ。夢じゃないかと疑う気持ちと、本当にそうであってほしいという気持ちが、ごちゃまぜになっている。


 ウィンドウに並んだ【ステータス表示】の文字へ、恐る恐る人差し指を伸ばす。


 触れた感触はなかった。指先はウィンドウの表面をすり抜けたようにも見える。けれど、触れようとしたその動きに合わせて、表示がふっと切り替わった。


━━━━━━━━━━━━━━━━

清水大雅

Lv.1


HP 100

MP  20

筋力 10

耐久 10

敏捷 10

魔力 10


【一般スキル】

なし


【固有スキル】

仮想遊戯(バーチャルゲーム)

━━━━━━━━━━━━━━━━


 一番上に、俺の名前があった。


「おおっ……!」


 しばらく、それ以上の言葉が出てこなかった。


 ステータスの画面自体は、見たことがある。有名な探索者がネットで公開しているものを、動画やまとめサイトで何度も眺めてきた。レベルがいくつで、どの能力値がいくつで、どんなスキルを持っているか。そういうものを見比べるのが、正直けっこう好きだった。


 でも、それは全部、他人のステータスだ。


 自分の名前が書かれたステータスを見るのは、これが初めてだった。


 Lv.1。HP100、MP20。筋力、耐久、敏捷、魔力はどれも10。ネットで見てきた探索者たちの数値とは比べものにならないくらい小さいけど、そんなことは今はどうでもよかった。これは俺の数値だ。俺という人間に、こうしてレベルと能力値がある。


 それだけで、妙に嬉しかった。


 ゲームを始めて、最初に自分のキャラクターのステータス画面を開いたときの感覚に似ている。ここから何ができるようになるんだろうという、まだ何も始まっていないからこその期待感だ。


 画面を下のほうへ見ていく。


 一般スキルは、なし。少しだけ残念だったが、それよりも下の欄に目を引かれた。


 固有スキル。


「えっ……俺、固有スキル持ってんの!?」


 固有スキルは、一般スキルとは別枠の能力だ。持っている人は珍しい。


 そして、珍しいだけあって、性能の振れ幅がとにかく大きい。一般スキルではとても届かないような、規格外の力を持つ固有スキルもある。


 たとえば、《時間停止》。名前を聞いただけで、どれだけとんでもない能力か分かる。固有スキルの話になれば、真っ先に名前が挙がるくらい有名なスキルだ。


 それに、《並列思考》。こっちは戦うための能力じゃないけど、その保有者は研究の世界で大きな成果を上げて、ノーベル賞まで受賞している。誰でも一度は聞いたことのある話だ。


 そういうスキルの持ち主は、大手の探索者として名を上げたり、どこかの企業や国に引っ張りだこになったりする。


 逆に、珍しいだけで何の役にも立たない固有スキルもある。ネットでは「外れ固有」なんて呼ばれ方をしているのを見たことがあった。


 だから、固有スキルがあるというだけで喜ぶのは早い。それは分かっている。


 分かっているのだが、それでも期待はしてしまう。


 もし当たりのスキルだったら。探索者として活躍できるかもしれない。そうでなくても、能力次第では就職だって有利になる。給料のいい仕事に就けるかもしれないし、福利厚生のしっかりしたところに入れるかもしれない。高校一年の春に、急にそんな将来が開けるかもしれないのだ。


「いや、落ち着け。まずは中身だ」


 自分に言い聞かせて、固有スキルの名前へ指を伸ばす。


 表示が、スキルの詳細に切り替わった。


━━━━━━━━━━━━━━━━

仮想遊戯(バーチャルゲーム)


対応する端末に専用のゲームを導入する。

ゲーム内でダンジョンを攻略することができる。

━━━━━━━━━━━━━━━━


 短い説明だった。


 何度か読み返してみたが、書かれていることは変わらない。


「……ゲーム?」


 端末にゲームを導入して、ゲームの中でダンジョンを攻略する。


 つまり、ゲームができる能力ということだ。


「ゲームかぁ……」

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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