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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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32 王都への道(3)

 馬車が揺れる。

 カイは、隣に座るルーナの様子を見た。

 明らかに、緊張していた。


「ルーナは、馬車に乗るのは初めてなのか?」


 そう問われたルーナが、錫杖を握りしめた。


「はい。見たことはあっても、馬車に乗るような用事はありませんでしたから」


 実際、奴隷だったルーナは、用事は全て徒歩で済ませていた。

 自分の汚さはわかっていたつもりだった。

 いつだって、裏通りの狭い道を選んだから。


「そうか」


 カイは、かつての聖女を思い出す。


 聖女は馬車で、旅をしていた。

 いろいろな場所へ行き、いろいろな人と会えるのが楽しいのだと、そう話していた。

 聖女でいることが嫌いではないと。


 馬車に乗るのが初めてということは、聖女とは違うな。


 そんな当たり前のことを、カイは心の中で考えた。




 馬車の外では、だんだんと木がまばらになってくる。

 そして、窓の外がパッと明るくなったかと思えば、馬車はとうとう森を抜けていた。


 明るく広い平原が見える。

 そしてその向こう側には、平原の中で上を目指し真っ直ぐに立つ、細長い聖堂が見えたのだった。


 聖堂が見えた途端、ローブの男女は明らかにほっとした。

 魔物に襲われたショックをまだ抱えたままの女性も、女性を慰めていた男性も、聖堂の方を安心した顔で見つめていた。


「あれが我ら、愛の聖堂です」

 男性は、自慢するようにその大きな白い聖堂を示した。


「愛……」


「はい」


「街があるわけじゃないんだな」


「そうですね。街は少し離れておりまして。馬車で行かなければならないのですが、花の街はぜひ見ていっていただきたい」


 そう、自分たちの話をする男性の横で、ショックを受けていた女性の方も、次第に安心した顔つきになる。

 男性は、鼻息を荒く、街の紹介を始める。

「花の街はなにせ見た目がきれいですからなぁ。軽食をとる店ならば、私に聞いてください。ちょっとした趣味なんですよ。女性をターゲットにした店にも詳しいですよ。花のケーキがやはり多いですけどね。その中でも美味しいショートケーキを売る店を知っておりまして。上には花のみ乗せているんですが、これがまた綺麗で上品なケーキなんですよ」


「ケーキか」

 カイはルーナへ声をかけた。

「ルーナ、ケーキは?」


 好きかどうか聞いたつもりだった。

 けれど答えは予想に反して、

「食べたことがありません」

 だった。

 そんなことを言わせるつもりではなかったのだが。


 ここで、カイは決意する。

 必ず、ルーナにケーキを食べさせてやろうと。


 馬車は白く細長い聖堂に入っていく。

 内側も白い石でできているかのような真っ白さだった。

王都へたどり着けるでしょうか?

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