⌘勇者編 5⌘ もしも君が
ガキン!
剣と剣が重なり合う音がする。訓練用の剣と言えども、その音は重い。
勇者率いる軍は、総勢80名にも及ぶ。
荒野の街オルテガのはずれに、大きなテントを10ほど立てていた。
その中の一つは訓練に使うテントで、朝もなく夜もなく、いつでも剣と剣が叩き合う音が響いていた。
魔王軍がいつ何処から攻めてくるかはわからない。
軍は眠ることはなく、必ずいつでも活気に溢れていた。
それでも、聖女のいないこの軍がいつまで持ち堪えるのか、騎士達はそんな事を思いついては、考えを言葉にしないよう、黙って腕を磨く日々が続いていた。
勇者オルディオは、聖剣と呼ばれる剣の手入れを、その日も夕方に行っていた。
テーブルの上には、次の手を考えるため、手で書かれた地図が広げてある。
斥候を待たなければ正式な計画は立てられないにも関わらず、どう動けば人々を守れるのか、そればかりを考えて生きていた。
「勇者様」
テントの外から声がかかる。
「どうした?」
「お客様です」
「客?」
街の人間だろうか。街との交渉は、他の人間に任せてある。わざわざ勇者が出向くところではない。商人は来るかもしれないが、それも周りの人間が止めてくれるだろう。
だったら、この砂嵐の中を走ってきた人間かもしれない。
「誰だ?」
「ミーリアさんです」
「ぶっはぁ!」
あまりの予想外に、噴き出してしまう。
「何よ、汚いわね」
カーテンの隙間から、ミーリアが覗き込んできた。
「……入っていいなんて言ってない」
「いい?」
「……いいよ」
個人のテント。他には誰もいない。急用もない。
ここまで来て断る理由など、オルディオには無いに等しかった。
「ふぅん」
ミーリアの値踏みするような視線に気付き、自分を見回すと、上半身裸だった。
見惚れるように頰を火照らせてはいるが、恥ずかしさは皆無のようだ。
男の裸など見慣れているようで、その事実に少し胃が重くなる。
「鍛えてるんだ?」
「当たり前だろ」
ミーリアがふっと笑う。
「そうよね」
そんなちょっとした表情の変化に、こっちこそ見惚れてしまいそうだ。
「今日は、注文を取りに来たの」
「注文?」
「そ。ドニーがね、この間の酒樽の事もあったし、そろそろ何か酒とか食料が必要なんじゃないかって」
「ああ。要らないよ。酒も必要だが、飲み明かすわけにもいかないんだ。いつ誰にも襲われるかわからないから」
そう言いながら、オルディオの個人テントの中を歩き回るミーリアの姿を目で追った。
これほどまでにプライベートな空間に人間を入れるなど、自分でも信じられないと思いながら。
ここには、聖剣がある。地図も開かれている。
こいつが魔王軍だったら、どうするというのだろう。
僕は、こいつを切るのだろうか。
それとも。
ミーリアの動き、一つ一つを注視するのは、こちらの軍に危険がないか見るためだ。
それは、嘘ではない。
きっと、嘘ではなかった。
ミーリアもあんまり素直じゃないのかな、と思います。




