✠騎士編 4✠ 魔力を持った少女
「試したい事があるんだ」
そんな言葉で、ルーナはカイと小さな空き地にいた。
四方をレンガの壁に囲まれたその小さな空き地。
壁の向こうは広場になっているのか、子供達が騒ぐ声が、少し遠くから聞こえてきた。
「試したい事……?」
ルーナの目の前で、カイが膝をついてルーナと視線を合わせる。
そのしゃがませる行為は、自分がどれだけ小さいのかを突きつけられるようで、少しだけだ心が痛んだ。
カイが、言い含ませるように、丁寧に言葉を紡ぐ。
「君は……、もしかしたら、魔術の才能があるかもしれない。魔術というのは、身体の中から溢れてくる不思議な力の事だ。いくつか属性があって……、いや、俺は根っからの剣士だから、詳しくは知らないんだが。その才能があるか見せて欲しいんだ」
ルーナの頭に、ぐるぐると色々な言葉が駆け巡る。
まじゅつ?さいのう?けんし?
それに、カイは今日、大きな杖を持っていた。木製の大きな杖で、先に透明な青い宝玉がついている。
この状況に、困惑の表情を浮かべるしかできない。
「これをさ、」
と言ってカイが差し出してきたのは、やはりその大きな杖だ。
カイが持てばほんの肩ほどの長さの杖だけれど、ルーナと比べれば背よりも大きな杖。
「持ってみて欲しい」
「……はい」
それは、魔術の杖だった。
昨日のナイフを跳ね返す現場を見てしまってから、カイはそのことばかりを考えていた。
かつて、カイの目の前で、魔術を使ってみせた人がいた。
手の上でパチパチと光を弾けさせると、その人は笑顔でこう言ったのだ。
『ほら見て。こんな事ができるの。すっごい綺麗でしょ?でも、この力を使うのは、今は勇者を探す時だけなんですって』
あの人を思い出せば思い出すほど、想い出に浸ってしまいたくなる。
苦しい事、全てを忘れて。
そしてどうしても、居ても立っても居られず、魔術の魔術の道具を売る店で、魔術があるか判定するものはあるかと店主の爺さんに詰め寄った。
杖を一本買ってしまうと、ルーナに持たせてやりたくなった。
杖を持つ事で魔力は安定し、少しは魔力を見通せる事ができるだろう。というのは、道具屋の爺さんの受け売りなのだけれど。
ルーナが杖を持つ。
カイは目を閉じた。
わかる。
伝わってくる。
ルーナが持つ杖に、たった今魔力が通ったことが。
まるで、透明の鏡が、ルーナを護るように見えた。
それは、確かに昨日、悪漢のナイフを弾き飛ばした力だ。
涙が溢れそうになる。
もう、大丈夫かと思っていたのに。
現実の中で君の片鱗を見つける度に、俺はこんなにも胸が苦しくなるんだ。
「やっぱり、お前には魔術の才能があるみたいだ」
その言葉に、ルーナは喜ぶかと思ったのに、予想とは裏腹に、目の奥に苦しみが宿るのが見えた。
「そうですか」
その一言だけで、カイの手元に杖が戻ってくる。
「杖を、貰ってくれないか?」
「要りません」
「けど、魔術を使いこなせるようになれば……」
「そんなものあっても、捨てられてしまうだけなので、貰えません」
「そう、か」
ルーナの目に浮かぶものは、恐怖。
奴隷がそれほど高価なものを持っていれば、確かに不思議に思われるだろう。
悪くすれば、何処からか盗んできたものだと思われることもあるかもしれない。
カイは、手の中の杖を眺めるでもなく眺めた。
だんだんとどっちに話も波に乗ってきたんじゃないでしょうか。




