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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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27 ドラゴンの山(11)

 馬車は止まった。

 どちらかというと、止まるしかなかったのだ。

 前輪の一つが、ガタン、と壊れ、外れてそのままコロコロと転がる。

 ロープで縛られたままの農場の主人が、勢いで道の真ん中に倒れた。


「…………カイさぁん……」


 ルーナは何も言うことができなかった。


 斜めになった馬車から、ローブを着た若い男がフラフラと這い出てくる。

 小さな茶色い鍵付きの箱を持っていた。


 男が落ち着くのを待って、二人は話しかける。

 前に出たのはルーナだった。


「すみませんがこの、魔道具を知っていますか」


「え?」

 キョトンとした男が、農場にあった魔道具を、しげしげと眺めた。


「これは、私が作ったものです」


「え?」

 次に声を上げたのは、カイの方だった。


 そういえば確かに、馬車に書いてある意匠と、魔道具に書いてある名前のようなものは同じものだ。


「これは、なんですか」


 ルーナが、慎重に尋ねる。


「これは、私がここの領主のために作った、音を変化させる道具ですよ」


「変化させる?」


 そう尋ねると、男は撫でるように輪の中心にある何本かの棒を捻る。

「ここに入った音を大きくしたり小さくしたり。綺麗にしたりできますよ。領主様の演説用です」


 男はそう説明しながらも、「あれ?」と手元の道具を見た。

「おかしいな?全て最大値にしてある。これじゃ音が入ったら、すごい耳障りな音になってしまう」


「なるほどな」

 とカイは思う。

「やっぱり領主だろ」


 カイは、道の真ん中に寝転がっている農場の主人を引き起こすと、気力の湧いた顔でガッツポーズを決めた。




 ほどなくして、カイとルーナ、それに、ロープで縛られたままの農場の主人と魔道具の製作主は、領主の家の前に立っていた。


「たのもう!」


 声を張り上げる。

 領主は、よほど自信があるのか、家の前まで出てきてくれた。


「全てはお前が犯人だと言っている!」


 カイが堂々と言い放った。


「また、人聞きの悪いことを」


「この男を知ってるな?」


 領主は、じっとりとした目つきで男を眺める。

「ははあ、これは、うちが仕事をやっている魔術師じゃありませんか」


「そうだよ。こいつが証言してくれた。この魔道具は、領主に頼まれて作ったとな」


「そんなものは見たことがありませんなぁ」


 領主がお腹をタプタプ言わせながらニヤつく。


「いえ、これは確かに領主様にお渡ししたものです。私はこれを一つしか作っていないし日付もついている」


「もしやコイツが黒幕か?」


 領主が鋭く睨みをきかせたところで、カイが剣に手をかけた。


「我が身に刻まれし誓約、──抜剣」

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