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英雄になれなかった騎士と名を忘れた少女〜片腕の勇者と黄昏の歌姫〜  作者: 大天使ミコエル


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26 ドラゴンの山(10)

「ははぁ、それはそれは、聞き捨てならない話ですなぁ」

 領主が、真面目な表情を作ろうと、表情筋をムニムニと動かした。

「まさか黒幕がいようとは」


「それがさ」

 カイが、領主に向かい合う。


「その黒幕ってやつが、領主だって言ってんだ。この兄ちゃんは」


「なんですと!!??」


 領主の声は、また芝居がかっていた。けれど、農場の主人を睨みつけた目は、どうやら本物の視線のようだ。


「それは、よろしくない話ですな。この街の転覆を目論む者がいるなどと」


「領主本人じゃないと?」


「そんなこと、当たり前じゃないですか!!」


 領主が言い逃れしようとしたところで、カイが剣に手をかける。

 けれど、それを制したのはルーナだった。


「分が悪くありませんか。証拠のようなものもありませんし。領主なことには変わりはないと思うんです」


「じゃあ、コイツには手を出せないっていうのか?」


「今は……」


 そこへすかさず、領主が口を挟んだ。


「では、この件は、こちらで調査いたします。ドラゴン退治がお仕事のドラゴンキラー様方におかれましては、一旦依頼はここまでということで」


「…………」


 カイとルーナの二人は、引き下がることにした。


「おっと、その方は?」


 呼び止めた領主が言っているのは、カイがロープを握りっぱなしの農場の主人のことだ。

 農場の主人は、大切な証人だった。

 ここで渡すわけには、いかない。


 そこで、領主の方を向いたのはルーナだった。


「すみません。この方は、騎士団の方でお話しなくてはいけないので、このまま連れて行かせてもらいますね」


 ニッコリと笑う。

 その笑顔に、領主も言葉を失ったようだった。




 領主の館から離れながら、二人は緊張の表情を見せていた。

 ここで、何か余計な邪魔を入れさせるわけにはいかなかった。

 この農場の主人を失うわけにも。


 足早に、離れる。

 といっても、ロープで縛られた農場の主人を歩かせなくてはならないため、あまり速くも歩けないのだが。


 そこで、

「あっ」

 と声を上げたのはルーナだった。


 カイが、顔を上げた。

 一台の馬車が通り過ぎるところだった。

 それは高級感あふれる馬車だったけれど、貴族の馬車ではない。

 馬車の横には、家紋とは雰囲気の違う、意匠のような絵が描かれていた。


「どうしたんだ?」


「あの馬車です!止めてください!」


「ああ、わかった」


 ルーナが言うが早いか、カイが馬車の前に飛び込んで行った。


「あっ!やりすぎはダメですよ!!」


 ルーナは声を上げたけれど、きっとカイに声は届かなかったのだろう。

 馬車の前には、すでにもうもうと土煙が上がったところだった。

さて、そろそろこのエピソードも終われるかな。

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